第8話

コメディショーをこなし、夜はバーで酒を飲む。


それが俺のライフスタイルになりつつあった。


いつしか、俺にはシュレックのあだ名がつき、そこそこ知名度も増した。




「シュレーック、ヨカッターヨ」




「シュレックじゃねぇっつってんだろ」




 そんな風に悪態をついたが、まんざらでもなかった。


アヤベさんのスターになるっつー夢。


それに乗っかるのも悪くねぇかもだ。


だが、事態は急変した。


 今日も酒をたらふく飲んで、ホテルに帰る途中だった。


前を歩いていたアヤベさんが、突然、立ち止まった。




「……」




 いきなり立ち止まったせいで、俺は危うくアヤベさんに突っ込む所だった。




「うおっと、どうしたんすか?」




「手切れ金だ」




 振り返って、メニー札の束を俺の方に向けて来た。




「……何、言ってるんすか。 いらねっすよ」




 手切れ金?


意味が分からねー。




「お前の方が人気が出たら、意味がねんだよ」




「人気? あんなの、ちょっとチヤホヤされてるだけじゃねーすか」




「それがダメなんだよっ! いいか? チヤホヤされたいのは、俺なんだ! お前はただの踏み台で、アニキ、いい天気でゲスね、とか何とか言って俺のご機嫌を伺う召使い、その程度で十分なキャラなんだよ!」




 アヤベさんは、物凄い勢いでまくし立ててきた。


そんな風に思ってたのか……


本音を暴露され、俺は戸惑った。


この人が、こんな器の小せぇお方だったとは。


しかし、ここでこの人に見捨てられるのはマズい。


アヤベさんは、俺の胸ポケットに無理矢理手切れ金をねじ込み去って行った。




「ま、待って下さいよ!」














 ホテルまで追いかけて、ドアを叩く。




「コンビでやるの、考え直してくだせえ!」




 すると、キイ、と扉が開いた。




「アヤベさん、考えなお……」




「も、申し訳ございません、大月様」




 申し訳無さそうな顔で出てきたのは、僕だった。




「アヤベ様からの申しつけで、しばらくあなた様の面倒を見るようにと……」




「……なあ、おめぇからも説得してくれよ」




「私はアヤベ様の僕であるが故、その命令には従えません。 あなた様がお金に困らぬよう、明日、仕事を斡旋致します」




 ……仕方ねえか。


別に、コメディアンになりたい訳でも、スターになりたい訳でもねえんだ。


ここは大人しく、僕の斡旋する仕事を受けるのがベストかも知れない。


 こうして、翌日俺は僕と合流して、仕事を紹介して貰うことになった。














 早朝、ホテルの前でポケットに手を突っ込みながら待っていると、僕がやって来た。




「おはようございます」




「おう、で、どんな仕事をすりゃいい」




「あなた様にして頂くのは、解体工事でございます」




「解体?」




 解体工事なんてしたことねーが、単純な力仕事なら、変に職場の奴らと話す必要もなさそうだ。




「何を解体すんだ? ビルか? テナントか?」




「いばらの賢者像の解体でございます」








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