第7話
翌朝から、俺とアヤベさんでネタの練習に入った。
場所は最初に俺がやって来た公園だ。
ここは美術館だったり、古城の残骸が残っていたりして、観光客的な奴らも多い。
それと、でかいリスが多いのも特徴だ。
何でも、ここに来た転生者がリス好きで、よかれと思って公園にリスを放ったらしい。
「食ったらうまいんすかね」
「お前はやりかねないから怖ぇーわ」
早朝から練習を始めて、昼からはアヤベさんが街を案内してくれた。
観光地みてーなとこを回ったりもしたが、俺がそういうのに興味がねぇと分かると、飯のうまい店に連れて行かれた。
「ガフッ、うめぇっす」
「だろ? 足んなかったら追加注文してもいーからよ」
夜はアヤベさんのスタンダップ・コメディを客席に紛れて見学。
何言ってんのかは分からねーし、俺はあくびをこらえるのに必死だったが、終わった後はすげぇ良かったっす、とゴマをすっておいた。
実際、この人について行きゃあ、飯の心配はいらねぇ。
日に日に、俺はこの人のことが好きになっていった。
「アヤベさん、俺、舞台立ったことないんすけど、大丈夫すかね?」
「最初は誰でもそうだって。 緊張しないでやるには練習しかねんだ」
そうやって練習を重ね、とうとうステージに立つ日がやって来た。
小汚ねぇコメディハウスで、入場料は1メニー。
客は最大で50人って規模だ。
始めてのステージで緊張してねぇっつったら嘘になるが、アヤベさんの顔に泥を塗るわけにはいかねぇ。
短ぇネタだし、まあ、何とかなるだろ。
何人かのコメディアンがネタを披露した後、俺らの出番がやって来た。
「っし、行くか」
アヤベさんが大股でステージのセンターに歩み寄る。
俺もそれに続く。
客の入りは大したことねぇ。
ネタが始まった。
「なあゴロー、突然だけど、俺、錬金術使えるようになったわ」
「錬金術? ちょっと見せてくれよ」
アヤベが手鏡を俺に渡してくる。
「オッケー。 俺の錬金術で、お前の顔を変える」
「マジか! うわっ、鏡に化け物が映ってる!」
「まだ何もしてないって」
10人中、2人位の客がははは、と笑う。
「あ、これ、俺だわ。 じゃあアヤベ、せっかくだから、小顔のイケメンに変えてくれよ」
「物体の質量は変えられないんだ。 お前の顔だと、シュレックかハルクにしか変えられない」
「だったらこのままでいいわっ」
ネタが終わり、マイクの前でお辞儀をすると、パラパラと拍手が起こった。
ステージを終えて、俺らは行きつけのバーに向かった。
「初めてにしちゃあ、良かったぜ!」
「あざっす」
始めてのコンビでのネタ見せ。
それがそこそこウケて、俺たちは気分が良かった。
そこに、さっきのショーを見ていたと思われる客がやって来た。
「シュレーック、メチャ、ウケータ」
「……?」
「ゴロー、お前、面白かったってよ」
「……まじすか」
客は俺と握手をして、その場から去って行った。
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