第6話
「大月です」
「大月サンか。 僕はいねーの?」
「僕?」
俺は、最初に会った奴なら殴り殺したと説明した。
「僕って、あいつだったんすか?」
「げっ、マジかよ。 じゃ、ここのこと何も知らねんじゃね?」
……こいつ、俺のことを侮辱してんのか?
まあ、確かに何も知らねーし、教えて欲しいけどよ。
「……そうですね」
「ここに来た事情もよく分かってねーと見たわ。 普通、僕の奴に教えてもらうんだけどな」
アヤベの脇にいた僕が、うんうんと首を振っている。
「じゃあ、教えてくださいよ」
すると、アヤベは説明を始めた。
その内容は、正気とは思えない内容だった。
まず、ここは俺の元いた世界とは違うらしい。
そして、その際、何らかのスキルが備わった状態でここに連れてこられる、とのことだ。
思い当たる節はなくもなかった。
僕をぶん殴った時、俺は俺の力とは思えなかった。
「ちなみに、俺はコレな」
アヤベがグラスを掲げると、絵具でも落としたみてーに、色が変わった。
「錬金術、色んな物質を変化させることができる」
「いやいや、そんなの、嘘でしょ」
「んじゃ、飲んでみろよ」
うぶっ。
確かに、さっきまで水だったもんの味が変化してる。
こいつは、コークハイか。
「な?」
「……でも、何で俺らはこんなとこにつれてこられたんすかね」
「いばらの賢者ってやつがいんだけど、そいつがランダムに選んでここに人を連れて来るらしいわ。 目的は荒んだこの世界を救うこと。 でも、そんなこと、どうでもいいだろ? 俺は元芸人でよ、コメディアンとして人気になりたいと思ってんだわ」
唐突に語り出したアヤベの夢。
そっちのがどうでもいいわ。
「アヤベさん、腹、減ったっす」
「……オッケ。 じゃあ、俺の言うこと聞いてくれたら、奢ったら」
「何やったらいんすか」
「コメディショーだよ。 おめーと俺で、それに出んだ。 アッチの世界で芸人やってた時もコンビでやってたんだ。 なあっ、頼むぜ」
アヤベが、両手を重ねて、頼み込んで来る。
「ネタとか、俺作れねっすよ」
「ネタは俺が考えっから、ダイジョブだ。 じゃあ、オッケーでいいよな?」
まともな飯が食えんなら、正直なんでもいい。
俺は、ふたつ返事でオッケーを出した。
「っし、じゃあ、うめえもん、食わせてやっからよ!」
アヤベは店員を呼んで、サンドウィッチらしきものを注文した。
ここの名物か?
「牛肉の塩漬け燻製サンドウィッチだ。 まじ、うめーから食ってみ」
一口食った瞬間、唾液があふれ出した。
知覚過敏で歯が痛かったが、関係ねえ!
くそうめえぞ、これ。
「グハッ、ガハッ」
2秒でそれを平らげると、俺はでかくゲップをした。
「おえっ、きったねえな、お前」
「アニキ、何でもやりますぜ」
「……調子のいい野郎だな。 んじゃ、ちょっと外いこーぜ」
アヤベはティッシュペーパーを取り出し、メニー札に変化させ、それで支払いを済ませた。
おいおい、超便利な能力だな。
その日は、アヤベの泊ってるホテルの別室を取ってもらい、そこで眠ることができた。
久しぶりのシャワーに、久々のベッド。
俺は、瞬く間に眠りについた。
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