第4話
パンを掴んで店から出た瞬間、左腕に激痛が走る。
尋常じゃない痛みに、俺はその場で悶絶して、動けなくなった。
「うっ、ぐっ、グアアアッ……」
腕輪が小さくなって、俺の腕を圧迫してるみてーだ。
みるみる拳が青くなり、俺は冷や汗をかいた。
「急に、この腕輪っ、いでえっ……」
俺は、どうにか腕輪を外そうと試みたが、全く外れねえ。
サイズがあってねー腕輪を無理やりはめられてるみてーだが、さっきまで腕輪は腕にはまってた。
っつーことは、やっぱり現在進行形でこの腕輪が小さくなってるってことになる。
だが、一体何の影響で?
まさか、このパンを盗んだからか?
何でもいい、この痛みから解放されるんなら、パンなんていらねえ!
俺は、どうにか扉を押して店内に入った。
そして、パンを棚に戻す。
すると、痛みが一気に引いた。
「はあっ、はあっ……」
店員がいぶかし気な目で俺のことを見て来る。
それを無視して、俺は店から出た。
最低だ。
この腕輪、どういう原理か分からないが、万引きとか、そういう悪いことをしようとすると反応するらしい。
まるで孫悟空の頭の輪っかだ。
何で俺がこんな目に合わなきゃならねーんだ……
もう、夜もだいぶ更けてる。
飯を確保できなかったら、このままのたれ死ぬ。
いや、誇張とかじゃなくて、マジでだ。
ダウンジャケットを羽織った黒人が、街を徘徊している。
連中、ホームレスって奴か。
幸い、俺は金を持ってるように見えない為か、襲ってきそうな気配はない。
ただ、下を向いてできるだけ目を合わせねーようにする。
暗がりの中で、やけに明るいネオンの看板。
ガラスの向こうでは、うまそうに飯を食う奴らが見える。
ギュルルル、と腹が鳴る。
「……くれ」
助けてくれ。
だが、言葉が通じない。
誰も、助けてくれない。
身振り手振りで、腹が減ってるってことを伝えるか?
でも、その勇気が俺にはない。
俺は、小心者だ。
自分がこんな弱いとは、思わなかった。
「情けねえ……」
抵抗する気力がわかない。
このまま地面に伏して、死んでしまおうか……
そんな弱気なことを思った時、目の前にあるものが飛び込んで来た。
黒い袋の山。
ゴミだ。
ゴミが、つまれて道端に置かれている。
「……あれだ!」
俺は、その袋の一つを掴んで、路地裏に入った。
袋をほどいて、中身を物色する。
無我夢中だった。
やってることは、ホームレスのそれだが、なりふり構ってる場合じゃねえ。
人に話しかけられない以上、俺にはこれしかねえ。
すると、妙なもんが袋から現れた。
「う、ウワアアアアアアアアアアッ」
人間の、生首!?
冗談じゃねえぞ……
いきなり俺の心を折りに来やがった。
「……あん?」
……生首は生首だが、血がついてねぇ。
って、マネキンじゃねーか!
俺は思いっきりマネキンを蹴飛ばした。
いきなりハズレをつかまされた気分だぜ……
だが、俺の名前は大月ゴロー。
こういうののクジ運は捨てたもんじゃねえ。
気を取り直して、ゴミ袋ガチャの再開だ。
「ガフッ、ガフッ……」
今俺は、ゴミ袋から見つけたパンに、ビスケットを挟んだもんを食っている。
ここいらには、ベーカリーの店や、ピザハウスなんかが結構ある。
それに、スーパーにはさっき見かけた、やたら大量に入ってるビスケットが売られている。
必然的に、食いきれねーパンとビスケットがゴミとして捨てられるって訳だ。
人間、なりふり構わなきゃ、何とかなるもんだ。
衣食住の、食は満たされた。
あとは、住を確保しなきゃならねえ。
このまま外にいるのはしんどい。
地下鉄みてーな所がありゃ、いいんだがな。
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