第8話 彼女・彼女母とお買い物

 彼女とお買い物ならばまぁ緊張ということはあまり感じはしない。しかしながら、その母親が同伴というのは緊張感を帯びるというもの。しかも、親子そろって美人さんとなれば、それはそれで辛いものである。


 「凌駕君て、ほんとに運転上手いわよね~。MTなのにホントにスムーズ。私が教習所にいたときなんて、みんなガタガタだったのに……。」


 「誰でも最初はそんなもんですよ。俺もそうでしたし、訓練すれば慣れてきますよ。まぁもっと上手い人もいましたし……。」


 「凌駕君、零の免許なんだけど、MTの方が良いのかしら?」


 「今は基本ATですから、ATで良いと思いますよ。MT車に乗りたいなら話は別ですが……。まぁ、まだこれからですからゆっくり考えましょ。」


 「お母さん、MTって難しいの?」


 「難しいわよ~凌駕君だからこんな簡単にやってるけどね……。ATでも下手な人は下手だしね……。」


 「私、絶対に下手だよ……。どうしよ……。」


 「大丈夫よ、凌駕君がいるもの、零がお願いすればどこでも連れて行ってもらえるわよ。ねぇ、凌駕君?」


 「まぁ、そうですね。」


 「やったーー。」


 そんなことをしている内に、お目当てのインテリアショップに着いた。車から降りると、駐車場にいる他のお客さんからの視線が気になるが、そんなに大それた車でもないけど……。あ、そうか女性陣か……するとちらほらと聞こえてくる。


 「あの子、モデル?めっちゃ可愛いくね?」


 「高級車からってことは彼氏持ちかよ、くそっ。」


 なんて、ごめんな彼氏がいて……。零もそれが聞こえたのか、零の方から俺に腕を絡ませて、手を繋いできた。


 「昨日のナンパでちょっと怖くなったんだって」


 とレイナさんが小声で言ってきた、そういうことね……。


 「お母さん、どうかしたの?」


 「ううん、なんでもないわ。それより早くいきましょ。」


 というわけで俺たちは店内へと入る。来たことが何度もあるが、インテリアショップというのは飽きがこないものである。三階建てで一階が小物類、二階が机やベット、棚など、三階が大型の家具である。本当であれば、俺はプラプラと見物したいのだが、零に腕を持ってかれているので必然的に零の行く場所が俺の行く場所となるのである。


 「まずは零の部屋を作らないとね……。女の子の部屋だから可愛い感じにしましょう。」


 「うん!」


 女性陣はやる気に満ち溢れている。机に収納棚にベットに化粧台等々、色々とリストアップされていき、それらを回る。なんというか、これはこれで楽しいものである。ベットのある二階へ行くと、見覚えのある人物に遭遇する。


 「あれ、もしかして、荻原君?」


 正面からとある女性から声を掛けられる。俺以上に隣の零も驚いていた。そこにいたのは1年から同じクラスの白石未来(しらいし みく)がいた。背は標準で、ショートボブのまぁ、可愛い系に分類されるであろう容姿を持つ。


 「なんだ未来か、この前ぶりだな。」


 「うん、というか荻原君、彼女いたんだ、意外」


 零のしがみ付き方が少しきつくなった。


 「意外とはどういうことだ?これでも高校生だからな。好きな人くらいいるさ。」


 「荻原君って孤高って感じだからさぁ、女子とかに興味ないのかぁって話題になるんだよ。」


 どんな偏見もたれてるんだよ、俺も男なんだけどね、一応。なんて心の中でしか言えないが……。


 「別に興味がないとは言ってないよ。それに孤高ってなんだよ。それなりにみんなと話したり、活動とかやってるだろ。」


 「うーん、そうなんだけど、なんかみんなの上を行ってる感じするんだよね~。機関でのバイトの時とかヤバいって正規の職員より細かくて真面目だって聞いたよ。」


 「それは見ている人間の目が悪いな。こっちはバイトだからな、その時だけは真面目なんだよ、その他は適当だよ。」


 「ほら、そういうところだよ。みんなが思っているのは……。」


 「凌駕さん、そろそろ行こうよ……。」


零が背伸びをして俺の耳元でささやく。おっと零が蚊帳の外だったな……。待てよ、レイナさんはどこに行った?。


 「悪いけど、買い物の途中だから失礼するわ。」


 「うん、こっちもデート中にごめんね。」


すると、未来はなぜか零と距離を詰めて、まじまじを見る。零は何か恐怖に見た感情を抱いているように見えた。


 「彼女さん、スタイル良いし、身長高いし、可愛いし……」


 「当然だろ。この子より可愛いと思った女性には今だ会ったことがないからな。そんじゃ、また学校でな。」


 長くなる前に強引ではあるが、零をつれてお目当てのベット売り場へ向かう。途中の通路でレイナさんとバッタリ……あれ、嫌な予感が……。


 「凌駕くん、さっきの女の子誰?、もしかして零以外に女がいたの?」


 「いや、あの違うんですけど。」

 

言葉のわりにレイナさんは面白そうな表情をしている。


 「うん、分かってるわ。凌駕君的には零が一番可愛いんでしょ?零を隣においてずいぶんカッコいいこと言ってたじゃない?」


 「あ、聞かれてたんすね。」


 「もう、零ったら羨ましい~。証拠に赤くなってるし、耳なんてほんとに真っ赤よ。」


 すると、零は俺が顔を見ようとしているのを嫌い、手で自分の顔を覆った。



 数分後、本来の目的を果たすべく、ベットを選びにかかる。まぁ、零とレイナさんで結構話が進んでいるようで、ベットもそうだが、棚や机などが簡単に決まっていった。


 「ところで、これ全部買うんすよね?」


 「そうよ~。もう新学期になりそうだしね。早いうちに揃えた方がいいでしょ。」


 「えっと、会計は……」


 「もちろん、凌駕君よ。」


 「あ……はい」


 レイナさんに俺の収入を教える、いや彼女の両親に自分の稼ぎを教えるというのがどれほど恐ろしいことかと思った。


 「ほらほら、零もちゃんとお願いして」


 「凌駕さん、ちゃんと晩御飯とか作るからお願い……」


 上目遣いでそれはもう無理だよ。こんな感じだから水商売って儲かるんだろうなぁ。

 買うものを買い、家に搬入する手続きなどを終えると今度は大型のショッピングモールに行く。二人はこちらの方がメインように思われるが……まぁ言わないでおこう。



 「じゃあ、零は凌駕君と回ってね。色々見たりしたら、またこの辺に集合しましょ。」


 ショッピングモールのエントランス付近でそのようにレイナさんから告げられる。


 「分かりました、なんかあったら携帯鳴らしてください。」


 「了解~」


 そして、レイナさんは一人で専門店街へと姿を消した。


 「じゃあ、零、どこから行く?俺は結構来たことあるから零に合わせるけど……。」


 「えーーと、じゃあ春物見に行く」


 「オッケー」



 そして、この後、デート気分そのままに零と一緒に買い物をした。服屋に行けば、即座に店員が寄って来る。試着室に行けば、見る者全ての目を奪う。なんというか本当にすごい人が彼女なんだと再び思った。

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