来訪者

「たのもう!」

「は?」


 ある日、休暇中の俺が家でダラダラしていたところ、外でおっさんのがなり声が聞こえた。


「いかがいたしますか?」

「絶対に放っておけ。どうせロクなもんじゃない」


 人の家の目の前で大声を出すやつなんて要件が何にしろヤバいやつに決まっている。

 そもそもがおかしいのだから。


「こちらに珍しい術を使う猛者がいると聞きつけ、参った次第である! どうか、お手合わせ願いたい!」


 ほら、ロクなもんじゃなかった。

 道場やぶりとか、こういう押しかけて手合わせを願う奴とか、おめでたい思考回路してるよな。

 基本的にただ相手を倒したいだけの場合は奇襲をかけるのが一番成功確率が高いに決まっている。

 そこにどれだけの実力差があったとしてもだ。

 それをせずに正面からいくという事は、ただ戦いたいだけなのだろう。

 となると、相手がそれを了承してくれることが前提となるわけだが、道場は武を探求する場所なので別にいいだろうが、うちに押しかけてくるのはどういった了見か。


「ご主人様の事でしょうか」

「そうなんじゃないかなー?」


 ドゥとリオンがそのような会話を交わすが、俺は相手をするつもりはない。

 俺は必要に迫られて訓練しているだけで、別に戦いたいわけではないのだ。


「私たちの戦い方は珍しいものじゃないからねー。リブレとオーシリアがそろった時のはすっごく珍しいと思うしー」


 そう言ってチラチラとリブレを見るリオン。

 リオンは言わずもがな、戦闘狂である。

 しかし、それは自分だけが戦えればいいというものではない。

 他人が戦っているのを応援するやじをとばすのも好きなのだ。

 本人は至極真面目であり、自分ならどうするかなどとといった考察も行ってはいるのだが、のほほんと応援する姿からはそれはうかがい知れない。

 ともかく、リブレに戦ってほしいのである。


「絶対に俺は嫌だからな」

「えー」


「話声がするのに出てきもしないとは、俺を愚弄しているのか! それならばこちらにも考えがあるぞ! 次はお前の親しい者のところに押しかけてやろう!」

「え、俺に親しいやつとかいたっけ」

「少なくとも、ここにおられるのでは?」

「確かに。リオンとアン、ドゥ、トロワくらいだよな」


 リブレから「親しい者」という判定を受けていたことに悶えるメイドたち。

 平和である。


「じゃあ放置しても問題ないか?」


 流石にドアぶっ壊してとかはないだろう。


「あ」

「どうしたトロワ」


「いえ、ご主人さまが孤児院に援助を行っているというのはかなり有名な話になってきておりますので、もしかしたらそちらに行くかもと……」

「あー、それはあり得るな」


 だが。


「そんなこと考える脳はなさそうじゃないか?」


 今も外でがなり立ててるだけだし。

 一応、スルー・アイで姿は見てるから、特定も容易だしな。


「とりあえずは様子見でいいだろう」

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