たまにはボーナスを
「じゃあ、ちょっと行ってくるから。みんなのこと頼むな」
「「「はい」」」
「あ、トロワ」
「はい?」
「お前は俺と来てくれ」
「……はい!」
飼い主に呼ばれた犬が尻尾振ってるかのような感じでしゅばっと横にくるトロワ。
アンとドゥからは殺人的な視線が飛んでいるがそれにも気づいていないようだ。
「じゃあ、行ってくる」
どこへかというと、見回りだ。
「あ、あの……」
「ん? あぁ、気にするな。お前には見えないから仕方ないだろ」
いつもの如く、ステッド・ファストの足場の上を移動しているのだが、トロワには見えないからな。
俺が手を引いていく形になっている。
「こ、こんな幸せなことがあってよいのでしょうか……」
メイドたちには珍しく、今回はトロワの顔が緩みに緩みきっている。
我ながら、たらしのような動きをしているが、確かに労いを含めた意味もあったし、いいということにしておこう。
なぜなら、普段から俺が行かない孤児院の見張りを頼んでいるのがトロワだったからだ。
時々俺が行く時にはオーシリアを除いて1人で行っていたため、こうして2人で行動することは稀なのである。
「おい、着いたぞ」
「は、はい! 申し訳ありません!」
一瞬シャキッとした顔になるのだが、すぐにまた口角が上がっていく。
うーん。
俺としてはここまでしてもらえると嬉しいのだが。
話が進まん。
「まぁ、そのままでいいから答えてくれ。いつもはどこから見張ってる?」
「えっと、あの辺りでしょうか。あそこが人がいないことが多いですから。あとは、この前いらっしゃった領主様の部下の方たちが陣取っていたあの辺りでしょうか。他の人たちは近づきませんから」
「なるほどな」
俺と繋いでいる逆の方の手で指差して教えてくれるトロワ。
ここからだと俯瞰的に見えるため、どこにどれくらい見張りがついているのかがわかる。
トロワが示した位置は、確かに他の見張りたちから見えない位置だった。
「いい位置取りしてんなー」
特に、元々トロワがいた位置は最後に見つけた場所だし、周りにばれてはいけないという制約付きなのでかなり無理のある場所なのだが、メガネ領主のとこが陣取っていたという場所はどこからも死角になっているが、こちら側からは隙間からそれぞれの様子がわかるという神立地であった。
頭脳派の領主のところは部下も頭脳派ということか。
「ちゃんと退路もあるし、心配ないな」
「はい!」
嬉しそうに手をギュッと握ってくるトロワ。
うっ……!
普段クールな黒髪ロング褐色メイドが華やかな笑顔を咲かせるとこんなに破壊力があるのか……。
改めて、俺はとんだ美人と一緒にいることを認識するな。
「ただいまー」
「「おかえりなさいませ」」
そのままちょっとだけ様子を見てから家に戻った。
ステッド・ファストから降りた時点で手は放したのだが、トロワは文句1つ言うことなく、ほくほく顔であった。
十分な労いにはなったかな。
「ひっ!?」
出迎えたアンとドゥの殺気のこもった目に一気に青褪めるトロワ。
ま、あとのことは知らんがな!
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