断崖絶壁

女船長。

夢のある言葉だが、どんな姿だろうか。

現実ならそれはもう巌のような筋肉を携えた女性になるだろう。

ファンタジーならパーフェクトボディーで好戦的な笑みを浮かべた女性といったところか。

俺のイメージはとにかくツリ目気味で、男性を息するように従えていたらそんな印象を持つが。


言わせてもらおう。

やはり体は大切であった。

今俺の目の前にいる女性は、ないのである。

何が。

胸がだ!


男は本能上、胸に視線がいきやすい。

よって、視線がいってもすっとずらす努力をするというのが日常なわけだが。

リオンや、メイドたちと出会った時に感じたが、あまりにも存在感を発する胸というのは普段よりも注視してしまう気がする。

もう単純に、興味の問題という説もあるが。


しかし、今回、俺は目の前の絶壁を凝視してしまった。

なにせ、何もないのだ!

あるべきものが!

つい探してしまうくらいには!


「んー? 何だい? あたしの魅力にやられちまったかい?」


確かにツリ目で、こちらを挑発してくるような表情といい、かなりの美人の部類に入る。

しかし、ない!

顔なんぞよりそこに意識がいってしまう!



ガキンッ!


目の前で投げナイフが止まる音でやっと我に返る。


「ちょっとはあたしの言う事を聞いてくれてもいいかねぇ!」

「それは謝る。すまん」


なんか一種のトリップ状態だったな。

しかし、なぜこんなにも過剰に反応してしまったのだろうか。


「ねぇー、リブレー。戦っちゃダメなのー?」


俺の背中にオーシリアごしにのしかかってきたリオンの感触で理由を察する。

さっきもリオンとメイドを例に挙げたが、こっちに来てからというもの、ある側、それも特大のをお持ちの方々としかほとんど関わっていないからだ。

つまり、俺の中で徐々にこれくらいの胸の大きさが普通なんだという認識が出来上がっていっていたのだろう。

確かに、初期に比べると過剰に反応するようなことは少なくなってきている。


なんということだ。

こんな弊害があるとは思ってもみなかった。


と思いながらも首の後ろ当たりの感触を楽しむ俺。


「戦わないために来てるんだからな。まだ大人しくしといてくれ」

「はぁーい」


さっきまでの圧はどこへやら。

俺の背中でぐてぇーとなるリオン。


背中の奥の方から「苦しいのじゃ……」という今にも死にそうな声が聞こえる気がしないでもないが、まぁ生命体ではないので大丈夫だろう。


「で、あんたらの用件は、要するにあたしらにもう周りを嗅ぎまわってくれるなと。そういうことだよな?」

「そうなるな」


気を取り直して話始める女船長(なし)。


「なら、バンフリオンがうちに献納を譲ってくれるのはどうだい? あんたはそれで自由に生きられるようになるし、こっちも嬉しい。互いに利益があるだろう?」


ほう。

面と向かってそれを言ってきたのは初めてだ。

要するに、リオンと結婚などせずとも、リオンからこの人を魔王にしますと言ってもらえばいいのだ。

世襲制とはいえ、トップが言うなら交代もありだろう。

さて、どうするリオン。

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