慣れって怖いね
「やぁ、こんにちは」
結果として俺が選んだのは俺たちをマークしている相手と対話の場を設ける、というものだった。
「まぁ、形式は踏んでいますから我々としてもそう大きくは咎めませんがね……」
神経質そうなメガネが言う。
「のこのこやってきて、無事で帰れると?」
「だからリオンと一緒に来たんだろうが。え、もしかしてリオンと真正面からやりあって勝てる自信があるのか?」
戦闘は埒外である。
はなから自分でやる気なんざさらさらない。
「正面から潰せないから俺たちの周りを嗅ぎまわっていたわけだろ? どうやら家の敷地には入れなかったみたいだけどな」
何度か侵入を試みていた形跡があったので、入れなかったのはこっちが何かしたからだというのを印象付けておく。
戦闘でなくとも、俺が得体のしれないものだと思わせる。
肌の色から違うし、好都合だ。
「この場が成立していることこそ、その裏付けともいえる。違うか?」
あくまで、こっちが上手。
スタンスは変えない。
「少し前にここら辺を牛耳っていたやつが吹っ飛んだのは知ってるよな?」
「あぁ、お前たちがやったというのも掴んでいる。だが……」
「お前たちの方があれらより上だと言うんだろ? その程度はこっちも把握してるさ。まぁ、何が言いたいかと言うと、俺たちは積極防衛も辞さないってだけだ」
積極防衛。
基本的には日本ではなじみのない考えだな。
やられる前にやってしまえという。
日本はかなり受け身の傾向が強いからな。
だが、これは国同士の戦いじゃない。
コミュニティ同士の戦いですらない。
リオンと、その他の戦いだ。
俺なんかリオンの味噌っかすみたいなもんだからな。
なら、変なしがらみはない。
先に叩き潰せば後には何も起こらないのだ。
メガネの額に汗がにじむ。
俺がかなーり真面目な顔で話している横でリオンが殺気を放ち始めたからだ。
笑顔で。
もちろん、俺には殺気なんてものはわからないが、それぞれの感情からそういう感じなのだろうとあたりを付けている。
華のような笑顔で超絶美人が殺気を向けてくるってどんな感じなんだろうな。
いや、そんなこと考えている余裕はないか。
「あたしが出るよ。あんたは下がっときな」
気まずい沈黙が続いたのち、奥に見えていたドアから1人の女性が入ってきた。
何に近いかと問われれば、イメージは女船長かな。
男どもを引っ張ってやるという気概を感じる。
「今回はわざわざ足を運んでもらって済まないね」
「そう思ってるならこれ以上ちょっかい出さないで欲しいな」
「ははっ! 面白いこと言うねぇ!」
軽い笑顔のまま投げた投げナイフが俺の眼前でステッド・ファストに当たり、床に落ちる。
「ま、こんなので動揺するタマでもないか」
いや、ちょっとビビったけどね?
毎回のことだが、対策してると言っても目の前にナイフが迫ってくる光景というのは怖いものだ。
これに怖さを感じなくなってきたら末期だと思う。
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