閻魔の仕事って精神衛生上悪そう

「うーんとねー。前までは別になりたくもないかなって思ってたんだけどー」


俺の背中でオーシリアを潰しながらリオンが話す。


「この頃は考えが変わっちゃってねー。ちゃんと勉強もしてるし、あんまり変わる気はないかなー」

「そういうことらしいぞ。間が悪かったな」


まぁ、そうだろう。

この頃はアンリさんのとこに行って学んでるらしいからな。

まぁ何をしているのかはトップシークレットらしいので聞いていないが。

というか、閻魔大王の仕事なんて聞いてるだけで気が滅入りそうだからやめとくのが正解だと思うわ。


「で、本来ならここで代わりになるものを提示してお引き取り戴くっていうのが簡単なんだろうが」

「あたしらに代わりになるようなものは無いね」

「だな」


この世界で「魔王の座」以上に価値のあるものは無いだろう。

仕事関係で拘束が多くなるだろうが、それを差し引いても好きに出来るというのはプラスでしかない。


「だが、こっちとしてはそもそもそんな便宜を図る必要はないよな?」


なにせ、こっちが正当である。

もちろん、リオンと結婚したら正当に継げるから俺をどうにかしようとしているのだろうが、その手段が暴力となるとな……。

ん?


「リオン、この世界で暴力による権益の奪取は正当か?」

「うーん。一応は正当ではないけどー。決闘とかはかなり日常茶飯事かなー」


あ、そうなのね。

流石実力社会。


「ということで、こっちから提供するものは何もない。少なくとも、こちらから干渉はしなくなる。それだけだ」


今回はこれを言いに来ただけだからな。


「ふん。いい男だね。物怖じしない胆力もあるし、自分の分をわかってるね。だけど、こっちもそう簡単には引けないんだけどね」

「わかってるよ。どっちにしろ交われないからな。まぁ、対話できただけ良かったよ」


そう言って席を立つ。

こいつらも上から言われてるだけだからな。

仕方ない。


俺が強ければトップに決闘をけしかけて黙らせるって方法があるし、この世界からすればそれが最もお手軽というか、確実な方法なのだろうが、そんなことは出来ない。

自分で言うのもなんだが、弱くはないが、決して強くないのだ。

ちなみにこの自己評価には逃げ足が多分に含まれている。


「このまま帰すと思うのかい?」

「やれるならやってみたらいいよ」


最後に短く言葉を交わし、部屋を後にする。


周りのドアからガンガン音が聞こえてくるが、ここに来る間にステッド・ファストで塞いでおいた。


ガァン!!


それでもぶち破ってくる実力者はいるが。


「えーい!」


リオンにドアごとかちあげられている。

俺も一応小太刀に手をかけてはいるが、抜く必要はなさそうだ。


この話し合いの間に孤児院の方に行かれる可能性も考え、メイドたちを残してきたが、騒動になっていないからそこは大丈夫なようだ。

一応、そこまでするほど非道ではなかったという事か。

仮にも一領主だしな。

悪とも言い切れない。


ただ、これだけ啖呵を切ったんだから今度からはしっかりやってくるだろうな。

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