色々と物騒な世の中です

「あのー、すみません。俺たち、人手が足りなくて困ってまして。えっと、どうにか話だけでも聞いてもらってから判断してもらえないかと、はい、思うんですけど……」


こういう時に言ってはいけないことランキング1位は「お互いのためにも」だと思う。

この言葉が用いられるときには実質お互いのためではなく、言ってる側が有利な場合が多いからだ。

それに、自分たちが困ってるような物言いをされては反発したくなるというものだろう。

言ってはいけないことはわかっているのだからはきはき話せばいいのだが、コミュ障がそれを許してくれない。

久々に知らない人と話してるから再発してるな。

やはり、そんな簡単に治るものではなかったか……。


「なら、他をあたってください。孤児院なんかより、もっと他にあるでしょう」

「いや、うちもこの頃出来たばかりの弱小企業だから。大人を雇うような余裕はあまりないんだ。一応、手紙に書いてた分の金額は出すし、賄いもつけるけど、どうだろう」


ドアの向こう側でこちらの様子を伺っていた気配が遠のいていく。

ダメか……。

あまりにしつこいと逆効果だしなー……。


とぼとぼと帰路につく。

近くの木の裏に待機させていたオーシリアと合流。


「わしらが監視していたやつらもこの周りに複数おるようじゃ。もしかすると、狙いは主ではなく、この孤児院なのかもしれんの」

「ここが狙われてんのか。どこも物騒な世の中だな」


だが、俺の家と戦力が分散するのはありがたいか。

ここには悪いが。


「だけど、ここの孤児院にそうまでして奪う価値があるか?」


いるのは働き手としては微妙な子供ばかり。

町はずれだから店を作るというわけにもいかない。

建物自体ももう掃討にガタが来ているようだし。


「この世界で人身売買ってありなんだっけ?」

「わしは知らんぞ。アンあたりに聞くのじゃ」

「それもそうだな」


空中から店の様子だけ見て帰るか。



「いらっしゃいませー」


今日も今日とて繁盛していた。

いつの間にか広場の一角でベンチを出して営業するまでになっている。

ベンチとかはリオンの倉からもってきているので無料だ。


「アンちゃん、お嫁に来てくれー!」

「できかねます」


「ドゥちゃん、うちの息子を婿にどうだい?」

「お断りいたします」


「トロワちゃん、踏んでくれ!」

「嫌です」


なんかエグイ会話行われてない!?

真上から見ているのでぎりぎり聞こえるが、子供に聞こえないギリギリの声量で話しているのがなんとも恐ろしい。

割とガチだよな、あれ。


……。

見なかったことにしよう。

やっぱこっちはそういう性癖の人が多かったりするのか?

家具屋の鞭の謎もあるし……。


謎は深まるばかりである。

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