国境線には気を付けて

「ご主人様、お納め下さい」

「仰々しいな……」


ドゥが恭しく跪いて掲げてきた小太刀を受け取る。

鞘は黒を基調として白のすじが入ったもの。

刀身は赤黒い、という表現が正しいかな。

刀身が黒いように見えて、光が当たると赤に見えるって感じかな。


コテージを貸し切っており、俺の部屋もそこそこ大きいので試し切りをする。


ヒュッ!

ヒュッ!


小太刀が風をきる小気味よい音が響く。


「弟君かっこいいねー!」

「うぐっ!」


試し切りを終え、鞘に納めた途端、珍しく静かにしていたリオンが横から飛びついてきて俺は弾き飛ばされる。

そしてそのまま抱えられ、頭をわしゃわしゃと撫でられる。


「……どうでしたでしょうか、ご主人様」

「なんだその間は。申し分ないよ。軽いし、非力な俺でも十分に振れる。振り回されることもないしな。ありがとう」

「滅相もございません。ご主人様がそちらの小太刀を大切にしていただけたら幸いです」

「あぁ、間に合わせのつもりだったけど、こいつもいいもんだな。大切にさせてもらうよ」

「はい!」


満面の笑みのドゥ。


「さて、俺の準備も出来たわけだし、そろそろ次の領地に向けて出発するとしますかね」

「本日はもう正午をまわっておりますし、明日からではいかがでしょう。隣の領主様の街はかなり離れていると聞きますので」

「確かに。地図で見てもかなり距離があったな。そうしようか」


そうと決まればやることは1つだ。

ダラダラする。

それに尽きる。


「ご、ご主人様……」

「お前たちも座れって。明日からまた移動してかなきゃいけないしな。休めるだけ休んでおけって」

「し、しかし、メイドがご主人様と同じ椅子に座るなど……」


バカでかいソファーがコの字で置いてあるのでどれだけでも座れる。

ちなみにオーシリアはアンが買ってきたお菓子を延々と食べている。

米が名産のここでは餅がしっかりと生産されてるので和菓子のようなものが特産品になっている。

オーシリアマジで無限だ。


「見ろよ俺のこの有様を」


リオンに横向きに膝枕されて撫でり撫でりされている状況だ。

眼前に広がる双丘の存在感が凄い。


「これなら座ってもどうにもならないだろ」

「いえ、私たちはこのままで……」


うーん。

まぁ、本人たちがいいならいいか。


「明日からは戦力としても数えているからな。頼むぞ」

「お任せください」



翌日。


「さ、行くか」

「いこー!」

「「「はい」」」

「出発じゃ!」


アンが借りてきた馬車に乗り、街を出る。


徐々に道が悪くなってきた。


「ご主人様、この辺りが領地の境目となります。基本的に、各領地で安全性や、犯罪などの傾向も変わってまいりますので、くれぐれもご注意いただきますよう」

「了解。まぁ、街道沿いに行けばそう大事には巻き込まれないだろ」




はい、巻き込まれるどころか当事者でした。

なんかよくわからんお偉いさんっぽいのに囲まれた。

面倒だなぁ……。

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