日常でメイドなど見ない
「ところでご主人様」
「アンか、なんだ?」
「失礼なことをお聞きしますが、ご主人様は金銭をどれほどお持ちでしょうか」
「ほい」
俺は巾着に入ったお金をアンに渡す。
「はい?」
「俺はお金のことはよくわからないからさ。任せるよ。自分たちの給料もそこから差し引いてくれ」
来る前にアンリさんからぶんどれるだけぶんどっておいたんだ。
なにがあるかわかんなかったし、お金がなくて困ることはあってもあって困ることなんざないからな。
で、持ってきたはいいものの、行きの行商人の馬車も
領主様の屋敷での出費も無し。
ということで使う機会がなかったのだ。
「そんな……! いくらなんでもそれは困ります! 私たちが何をするのかわかったものではないのですよ!?」
くっそ怒られた。
「いや、領主様のところで働いてたんだから人となりは信頼してるよ。むしろ、それは俺が持ってたらダメだと思う」
もはや金の単位すらわかっていないのだ。
ロクなことにならん。
「では、私アンが責任をもってご主人様のお財布を管理いたします!」
感極まった表情で巾着袋を抱え込むアン。
謎だ。
この状況、絵面もろもろにおいて。
「ご、ご主人様。私にも何か役目をお申し付けください」
ちなみにトロワはまんま正統派のメイドなアンとドゥに対して、物静かなタイプだ。
メイドよりも秘書が似合いそうな黒髪の鬼っ娘メイドさんだ。
それはそれでいいものだが。
「そうだなぁ……」
トロワは俺より少しだけ背が低いのだが、今は少しかがんでいるので、いつもより低く感じる。
それが目を潤ませてこちらを見てきているのだからもう。
破壊力がやばい。
ちなみにだが、メイドに関して別にこちらで主流というわけでもなく。
周りから奇異の目を向けられていた。
だが、しかし。
事ここに至っては超絶美人メイドから上目遣いを向けられている男性だ。
周囲の男性から{怨嗟}の感情の圧がエグイ。
本来なら吐き気を催すほどのものだが、これなら耐えられる。
なぜなら、勝者だからだ!
「じゃあ、この街の案内を頼もうかな。俺たちは暇になるから」
「はい!」
打って変わって華やかな笑顔になるトロワ。
うん。
かわいい。
ぽそぽそとアンと話し合ったトロワは、こちらに向き直り、
「では、本日の宿へとご案内いたします」
そう言って先導しだした。
健気である。
「フカフカだぁー!」
もうそれはそれはエグイ設備であった。
どこの5つ星ホテルかというコテージ丸々を貸し切った形である。
「そんなにお金あったの?」
「そうですね。小さな街であれば丸々買い取れるような金額、という感じでしょうか」
あまりにも過剰である。
下手に俺が使わないでよかった……。
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