需要と供給は一致する

「でも、まぁ、流石に決闘を受ける意味がないな」


古来から人間社会でも野生でも理想の伴侶を得るためには弱肉強食の世界を生きなければならない。

どこかで需要と供給は一致するものだが、それは本当に理想なのだろうか。

もちろん、大多数はそうだろうが、自分の最も理想とする相手と共に歩めるというのはよほどの幸運がないと無理だろう。

母親から生まれ落ちる時に顔面偏差値っていう人生大左右ガチャを引いてるようなもんだからな。

話がそれた。


つまり、何が言いたいかというと、さすがの俺でも今のこいつには負けないということだ。

自信云々ではなく、客観的な実力差で。

野生なら実力差を如実に感じ取って生きるために挑まないだろう。

もしくは子孫を残すために挑むという可能性もあるが、それはある程度実力が拮抗している場合の話だ。

正直、今の俺とこいつとでは戦いと呼べるものにはならないだろう。

場数が違う。


「そうですよね。そもそもリブレさんがけっこうやり手ですもん。この人が勝てるわけないです」

「……わたしでもたぶんすぐに勝てるよ」

「プリンセはむしろ一番やっちゃいけないな」


一番手加減ってやつが下手だからな。

場合によっては命に関わる。

制御できない大きな力ってのが一番怖い。


「だよね。だからとりあえずは彼は連れ戻して、もう一回説得しようと思うよ」

「もし聞かなかったら?」

「僕と一戦やってもらって実力差を知ってもらおうかなって。僕とやって1分はもたないとリブレ君とやっても意味ないだろうからね」

「おおぅ……」


たぶん、話を聞かずにキラとやらされることになるんだろうな。

5秒ともたないと見た。

むしろ1秒かからんかもしれん。


「じゃ、またね」


少年の首根っこを掴んだキラがハンネを連れ帰った時と同様に姿を消す。

ほんとにあの運搬方法は大丈夫なのだろうか。



朝食を終え、ベッドでゴロゴロする。

寝転がっていると、だんだんと眠くなってくる。

別に眠くなくても横になっているだけでなぜか眠くなってくるよな。

眠らないといけない時には逆に眠れないというのに。


「あぁー……、寝そうだー……」

「僕もです……」

「……んー……」

「……」


オーシリアはもう寝てやがる。

こいつ杖なのに寝すぎだろ。


コンコンッ。


とりあえず修復したドアを控えめにノックする音がする。


「出るべきかな」

「……出たくないですねー」

「……ん」

「……」


満場一致で現状維持だな。


コンコンッ。


「誰かいませんの?」


ルーリアの声がするじゃん。


「オーシリア、開けてきてくれ」

「むぅ……」


目を開けずにドアにトコトコ歩いていく。


ガンッ!


「のわっ!」


案の定壁にぶつかってから部屋を出て階段を降りて行った。



「お邪魔しますわ。……凄いだらけようですわね」

「そりゃそういう日だからな」


一国の姫が来たというのに俺は寝転がったままだ。

プリンセも丸くなったままだ。

レインは一応気を遣ってベッドの上で正座している。

オーシリアは戻ってくるなりまた寝た。


「で、どうしてわざわざここまで? 護衛とかよかったのか?」

「わたくしの方が強いですから」


そりゃそうか。


「本日はリブレ様にまた鬼ごっこをしていただきたくお願いに参りましたわ」


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