戦力より戦略。

鬼ごっこで鬼は何を追っているのだろう

「え、なに言ってんの？」

全く意図が読めないんだが。

「言っているままですわ。前回の鬼ごっこを上から見ておりましたけれど、これはいい訓練になるのではないかと思ったのですわ」

「いや、そこはいいとしよう」

良くはないんだが。

「どうして俺なのかを聞かせて貰おうか」

「なぜって……。リブレ様の鬼ごっこが見事だったからですわ」

「……皮肉か？」

「いいえ。もちろん、キラには最終的に捕まってしまっておりましたけれど、わたくしたちはそれまでの過程を評価しました。冒険者の方々や兵の皆のようにただ身体能力だけで戦うのではなく、頭を使って鬼の行動を妨害することで逃げる戦略。皆様にも見習って頂きたいと思ったのですわ」

「で、それがなぜまた鬼ごっこにつながるんだよ」

「今回の戦争の第一目標はなんでしょう？」

「誰も死なない、じゃないのか」

「その通りですわ。つまり、戦闘能力も大事ですが、最も重要なのは窮地で逃げられる能力なのですわ」

「で、鬼ごっこはそれを鍛えるのに適していると」

「他に浮かびませんでしたの」

確かに逃げることを前提とされたゲームなんてそんなにないもんな。

この世界での魔法とか何でもありの鬼ごっこならそういうゲームになり得るか。

「ならキラとかとやればいいじゃないか」

「それではなんの訓練にもなりませんもの。規格外が過ぎますわ。その点、リブレ様なら常識的な範囲の挙動しか致しませんもの。リブレ様がキラとの勝負であれだけ善戦できたのは関わりが長かったからですわ。他の者ではキラの動きを読めずにすぐ捕まってしまいますもの」

「それはキラが手加減すればいいんじゃないのか」

「限界まで手加減してもどうしようもないらしく……」

「おい」

「ケインは？」

「そもそも手加減という概念がないですわ」

「聞いた俺が悪かった。エルメはどうだ？　あいつはそういうこともないだろ」

「えぇ。ですから鬼ごっこに参加できないような一般兵を訓練してもらっていますわ。キラやケインでは潰してしまいかねませんから」

ヤバい奴しかいないのかこの国は。

俺は大きくため息をつく。

「具体的には？」

「受けていただけるんですの？」

「優先順位の問題だ。俺がダラダラするのより、全員を生かせるようにする方が大切だからな。それを断るほど俺も人間として終わってない」

「そうですわね。改めて考えると難しいのですが……。4人1組（フォーマンセル）でどうでしょう」

「鬼と逃げるほうは？」

今気づいた。

鬼ごっこって逃げる側の名前決められてないよな。

鬼と逃げる側だよな。

鬼を親とすると逃げる側は子になるが、それを鬼と一緒に使うのはちょっと違う気がする。

「そうですわね。意図からすれば彼らが逃げの方が良いのですが、それだと代わり映えしませんからね。5回に1回ほどリブレ様が逃げるのを挟んではいかがでしょう」

「りょーかい。その間レインとプリンセはキラのとこだな」

「……なんで僕も巻き込まれてるんですか」

「俺が働くんだから2人も働いてくれよ。それが今回の討伐の成功率を上げるっていうのはわかるだろ？」

「それはそうですけど……」

「……がんばる」

プリンセが握りこぶしをぎゅっと作る。

「……わかりましたよ。一緒に行きましょう」

それを見て観念したのかレインの同意もとれた。

「で、それはいつからやるんだ？」

「いつからでも、ですわ」

「じゃあ、準備が出来たら行くか。思い立ったら吉日って言うしな」