人の群れはどうにも恐ろしい

「この結果を見てもらった上で、俺から提案がある。こいつらを擁するランガルは、今度幻想級ファンタズマルと事を構える。それに協力してやろうじゃねぇかって話だ。可能性は高くはないが、決して勝算のない話でもない。こいつらには借りがあることだしな。ここらで一丁返してやろう」


どうだ……?


ウオォォォーー!!!


一拍遅れて観客が大声をあげる。

どうやら賛同の意思を示してるっぽい。

人間でいうスタンディング・オベーションみたいな感じか?


「よし、国民の許可も取れた。これで文句はないだろ?」


プリンセのお父さんに向けてカイルさんが言う。

いつの間にあんな高いとこからこの舞台に降りてきてるのカイルさん。

斜め45度に50メートルくらいあるぞ。


「……やむを得まい。しかし、我々が参戦するのと我が娘を前線に出すのは話が別だ」


そう言ってこちらを睨む。


「も、もちろんですよ? そのあたりに配慮はいたしますとも!」



「話が決まったところで、お前たちはもうランガルに戻った方が良いのではないか?」

「いいのか?」

「俺たちも部隊の編成には多少手間取るからな。用意が出来たらそちらに向かわせることにする。お前たちも用意が必要だろうよ」

「ありがとう」

「気にするな。俺たちは借りを返しているだけだ」



俺たちは我先にと部隊へ志願する獣人族に背を向けて待たせている馬へと向かう。


「……お前、太った?」


馬まで戻ったのはいいのだが、そこで見たのはこの短い期間に餌をたらふく食べて、傍目にも太ったのがわかるケインの馬だった。


「いや、リブレさん。この方がいいかもしれません。体が重ければ走るのも多少遅くなってるんじゃないでしょうか」

「うーん、それもいいこととは言い難い感じなんだけど……」


早く帰れないってことだからな。



「いやあぁぁぁーー!!」


そんな心配もどこ吹く風。

ケインの馬は快調にとばしていた。

むしろ帰路の方が速いのではないだろうか。

たらふく食べて元気いっぱい! って感じだ。

レインは後ろで叫びっぱなしだが疲れないのだろうか。


「……♪」


そんなレインとは裏腹に前に座っているプリンセはご機嫌だ。

俺たちについてこれて、更にこのスピードも楽しい、と。



「もう……無理です……」


パタリとレインが倒れる。


「おっと?」


倒れる途中で抱きかかえ、頭を打つのを防ぐ。

ひどい乗り物酔いだな。

ハンネに見せるのは気が進まないんだけどな……。

この状況は仕方がないか。

なんにせよレインが着くまで耐えてくれて助かったな。


とりあえず城ならハンネでなくとも良い医者がいるだろうと踏んで城に向かう。

ケインの馬も返さないとだし。

ちなみにプリンセはまだ馬の背に乗っている。

相当に気に入ったらしい。


この頃はほとんど国民も残っておらず、俺にとっては中々に都合が良い。

囲み取材を受けることがなくなったからな。

こうして白昼堂々と通りを歩けるというのはやはり気持ちが良いものだ。

人通りも皆無なのでこうして通りのど真ん中を通っていても誰の迷惑にもならない。


「どけどけー!」

「ごめんなさいっ!?」


のどかなお散歩が前方から迫ってくる人々によってかき消える。

よく見れば、必死の形相で走っているのは兵隊や冒険者たちのようだ。

なにが起こってるんだ?

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