杖が身勝手すぎます

階下から「ドン! ドン!」という包丁というかナイフというかがまな板にぶつかる音がしてくる。

どうやらプリンセの家事スキルは力任せなものになってるっぽい。

後で矯正しなくては……。


「しかし主よ。あんな幼子を妻に娶るとはもしやそっちの趣味なのかの? いやいや、批判しているわけじゃないんじゃよ? 良い嫁になりそうじゃしのう」

「娶ってないわ! そしていらん気遣いをすな!」


色んな方面からおしかりを受けてしまうだろうが!


「なら妾かの? 全く、ほどほどにしておくのじゃぞ?」

「なお悪くなってどうするんだよ! あいてててて……」



などと不毛な論争をしているうちにプリンセが戻ってきた。


「? なんのお話ししてるの……?」

「いや、なんでもないよ!?」


俺が必死の形相だったのか少し引きながらプリンセはお盆を持ってくる。


「え、えっと、ご飯できたから、持ってきたよ……」

「あぁ、ありがとう」


さて、力任せクッキングの出来栄えはいかに……。



「はい、リブレさん。あーん」

「あーん」


腕も上がらないので我ながらデレデレしながらプリンセに食べさせてもらう。

今、俺どんな顔してるんだろうなぁ……。


「ん! おいしい!」

「ほんとう? よかったー」


見た目は乱雑な印象だったが、食べてみれば普通に美味しかった。

ていうかこの味付けは……、


「俺の作ってたのに似てるな……?」

「うん、わたし今まで人が料理するところとか見たことなかったから……。リブレさんのを見てなんとなく覚えただけなんだ……」


もしや天才か? 俺ほんとに基本的な調理しかしてなかったぞ?

それを1回見ただけで覚えて使えるようになるとは……。



「うむ、なかなか美味いのう。お代わりをもらえるかの?」

「あ、うん」


いや、なんでオーシリアおまえが俺のご飯食べてるんだよ!?


「そもそもお前杖だろ! 食事なんか不要だろうが!」

「それでも好奇心というものはあるのじゃよ」

「くそ、腕が上がらない。いててててて……」


オーシリアの耳やら頬やらを引っ張って止めたいのに腕が……。


「ふふふ、わしは主の体が動かないうちに自由を謳歌するのじゃ! あ、もう1杯お代わり!」

「う、うん……。リブレさんのも持ってくるね……? いっぱい作ったから……」

「頼む」


オーシリアこいつ……。俺の体が動くようになったら覚えてろよ……?



そんなこんなでご飯は食べ終わったのだが、なにしろどこも動かせないので本当にやることがない。


「リブレさん頑張ってきたんでしょ……? 今日くらいゆっくり休みなよ……」

「そうじゃぞ、主。しっかり体を休めんとここぞという時に良い動きは出来んのじゃから」

「わかってはいるんだけどな」


ニート時代むかしなら何も気にせず1日寝ていても良かったのだが。

この切羽詰まった状況でこれは中々に気が引けるな……。



「お困りのようじゃないか?」

「いや、頼む。お前はやめてくれ」


バーーーーン!!

寝室の扉をあけ放ってそこに仁王立ちしていたのは【灰色の科学者】、マッドサイエンティストことハンネだった。


「いや、ほんと。お前だけはだめだ」

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