人間同士ですら平等でないなら種族が違ったらどうなる?

「えーと、レイン。俺、田舎のほうの村から出てきたばっかだからこの町のこと全然知らないんだよ。悪いが、一通り案内してくれないか?」

「あぁ。その年にもなってレベル1なのはそういうことだからですか。今時訓練しないところなんてあるんですね。よっぽど田舎のほうなんでしょうね」

 


……。

あれ? こいつ物腰は丁寧だけど、口悪いぞ? 気を付けないと心えぐられるな……。



「えーと、ここがクエストの受付ですよね?」


歩きながらレインが説明してくれる。


「大通りには正規の防具店や武器店、飲食店があります。ちょっと道を外れるとまあ良くも悪くも法外な値段をつけてる店が並んでます。僕たちはレベルも低いし、今は何の関係もないですね。リーダーの武器ってなんですか?」



そういわれて俺はもう一度ステータス画面を開く。っとそのまえに、


「俺のことはリブレと呼んでくれ。リーダーとか、呼ばれたくない」


ちなみに由来は俺の誕生日が9月28日で天秤座リブラだからそれをもじったものだ。


「名前だけですか?ファミリーネームはないんですか?」

「あぁ、ないな」

「なるほどー。なくても個人を簡単に識別できるほど小さい村なんですねー。じゃあ、リブレさんと呼ばせていただきますね」


……やっぱ口悪い。



気を取り直してとりあえず武器を見る。フィールドに出た時はエネミーのレベル見て何もせずに帰ったからな。えーと、アシスト・ロッド?補助の杖?


「なあ。これってどういうやつなんだ?」

「あ!それは一時期として有名になった攻撃アタック系の呪文が一切使えないという杖です。その代わり、補助アシスト系のバフ・デバフや回復ヒール系の呪文は一般的な杖を上回りますね」


つまり、俺は攻撃できねーのか。ものは試しだとかいってエネミーにけしかけなくて良かった。とんだ縛りプレイだな。



「ちなみにレインの武器はなんなんだ?」

「僕は短剣です。エルフでは珍しいですけど……」


ふむ。近接ができるのか。あ、そういえばHPとかはどうなってるんだっけ。


HP:47/47 MP:62/62


うん。1レベならこんなもんだろう。レインはどうなんだろう?

そう思ってのぞき込んでみると、


HP:152/152 MP:143/143


「え、お前4レベにしてはステータス高くないか?」

「勝手に見ないでくださいよ……。あ、そうですね。エルフの1レベは人間の2レベと考えてもらっていいと思います」


要するに、俺は超足手まといだってことだな。いやそんなこと言ってる場合か! リーダーが1番使えねーってシャレになんねーよ!


ってか待てよ。


「レインは人間でいうと8レベくらいってことだろ?十分とはいえないが、どっか入れてもらえるとこがあったんじゃないのか?」

「いえ、そう単純な話でもないんですよ……」

「そうなのか?」

「えぇ、まあ。人間とエルフでは考え方が違うんですよ。人間が未開の地を求めていくのに対して、エルフは自分たちの森や川、自然が守られていればいいんです。だから普通エルフは人間のパーティーには入りません」

「じゃあなんでレインは人間のパーティーに入ろうとしてたんだ?」



「それは……、僕がエルフとして認められていないからです」

「認められてないって言ったって、お前がエルフなのは事実じゃねーか」



「僕の両親は今のエルフの状態に不満を抱いていました」

「? あぁ」

「エネミーが自分たちの土地を汚したら倒すというやり方についてです。両親は人間よりもスペックで上回る私たちが人間に協力すれば、土地を汚されることすらなくなるだろうと言っていました。しかし、みんなは聞き入れてくれず、その有用性を証明するために毎日フィールドにでていました。そこで運悪くめったにいない幻想級ファンタズマルにでくわし、命を落としました」



「事情は分かったが、それがなんでほかのやつに認められないということになるんだ?」

「……エルフには子がいる親が子が15歳になる前に死んだら、神に見放されたとする考え方があるんです。でも、普通はみんな町で暮らし、外には出ませんし、エネミー退治は確実に被害がでない人数比でやるのでそんなことはまずないんです」

「だが、お前の両親はフィールドに出ていたからそれが起こっちまったということか」

「そういうことです」

「でもそれだとお前が人間のパーティーに入れてなかった理由が無いぞ?」

「それは簡単なことです。人間とエルフはお互いに相手をとしてしか見てないからです。相手にすらされてなかったんです」


そう言って、レインは嗚咽をこらえる。



「僕はどの社会にもいなかったんです! 誰にも必要とされず、ただ存在するだけだったんです!」




「正直、あんま難しいことはわかんないな。そっちは専門外だ。ただ一つだけわかるのは、ここにお前を必要とするやつがいるってことだ」


レインが赤くなった目で見上げてくる。


「いや、よく考えろよ? お前はすでに俺で言う8レベなんだろ? 1レベなんてほんとにただの役立たずだぞ。それに比べればお前は役に立てるじゃねーか」



そう言うと、レインは苦笑いだが、笑って、


「そうですね。その年でまだレベル1のリブレさんに比べれば僕も最悪ではないかもしれません」


……今回は暴言を聞き逃してやろう。



レインが涙をぬぐい、気を取り直して言う。


「これからどうしましょう? とりあえずはあと一人くらい仲間が欲しいところですけど……」

「探す必要はないぞ」

「? あてでもあるんですか?」

「いや? 必要ない」


レインが訝しげにこちらを見上げてくる。俺がニヤッとしながら、


「なぜなら二人だけでいまからフィールドにでるからだ」


と言うと、


「えぇぇーーーーーー!!!」


というレインの叫び声が町に響いた。


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