第56話
「いったいテルミの身に何が起きているのか…わしには到底理解できない。なんとか、テルミを救い出してくれないか」
彰夫は急に自分に課せられた使命に戸惑った。
「おとぎ話みたいに、城に幽閉されたお姫様を助けに来た騎士だったらいいんですが…。申し訳ありませんが自分にそんな力などありません」
彰夫のそっけない返事は、テルミの父を逆上させた。
「人が頭を下げて頼んでいるのに、なんだそのやる気のない返事は。もういい、帰ってくれ」
「わかってください。自分はただテルミさんに会いたくて、ここにやってきただけなんです。とにかく…テルミさんと話をさせてください」
テルミの父は、酒をあおって返事を返してこない。彰夫は縁側に手をついて頭を下げた。
「お義父さん、お願いします」
テルミの父親はそんな彰夫をしばらく見つめていたが、やがて諦めたように口を開いた。
「わかった、とにかくテルミの部屋のドアを開けさせてくれ。できるか?」
「自分には考えがありますから…。そのかわり、お義父さん飲んでいるそのお酒を少しお借りできませんか?」
「好きにしろ…テルミの部屋は、2階にあがった右だ」
彰夫は、義父が台所から持ってきた日本酒の一升瓶を抱えると、礼を言ってテルミの部屋に向った。
「ああ、それから…」
「なんですかお義父さん」
「わしは今まで、娘に会いに来た男がわしをお義父さんと呼んだら、きっとその場で半殺しにするだろうと思っていたが…案外許せるもんだな」
彰夫を見もせずに言ったテルミの父の言葉に、あらためて彰夫の膝は震える。なんて乱暴なんだ、この父娘は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます