第49話
そこで新しい国家統合の枠組みを再構築しようとしたのが、聖武天皇だった。
彼は仏教による国家統合を更に推し進め、東大寺を頂点とした国分寺・国分尼寺のネットワークによって、国家の再統合を図った。
しかし、皮肉にも東大寺建立が、平城京からの遷都を決定付けることになる。東大寺大仏は全身に金メッキが施されているが、金メッキは金に溶ける性質がある水銀を金に溶かし、その溶かした液体を像に塗り、熱を加え水銀だけを蒸発させることで金メッキができる。
この時、蒸発した水銀が平城京の空気を汚染し、水銀による中毒症状が多発した。当時は水銀の影響であることが分からないまま、祟りだと恐れられ、都を移す気運が高まっていった。
一方、平城京に遷都したものの、藤原氏を初めとする氏族間の闘争と、それに伴う政変劇は依然とどまることがなかった。
平城京遷都時の天武天皇から、持統天皇、文武天皇、元明天皇、元正天皇、聖武天皇、孝謙天皇、淳仁天皇、称徳天皇、光仁天皇と、わずか90年余の間に天皇が9人も変わる異常事態。そして、ついに光仁天皇の息子である桓武天皇が、平城京において実権を握っていた貴族階級及び仏教勢力と手を切り、新たな国家統合を模索するため、平城京からの遷都を決断。784年に長岡京へ、そして794年に平安京へ遷都されることになるのは、周知の歴史的事実だ。
そう考えてみれば、まさに平城京は天皇が入れ代わり立ち変わり氏族の覇権争いに利用される舞台となった怨念の都なのだ。今、彰夫が感じているシールドは、そんな覇権争いで命を落とした人々の怨念が魔界となって、形成されているのかもしれない。
そんなことを考えている間に、タクシーは古い居住区に入った。
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