第48話
「杉浦先生」
「いやあ、思わぬところで会うね。奈良へ旅行かい?」
「いえ、観光旅行と言うよりは、友人に会いに…」
「休日でもないのに、仕事を休んでまで会いに行く友人が奈良に居るのかい?」
「…先生こそ奈良へはなにしに?」
「奈良大学主催の精神保健学会があってね。泊まりは奈良かい?」
「いえ、友人の都合次第で、どうなるかわかりません」
杉浦教授は、メモを取り出すと何やら書き込んで彰夫に差し出した。
「そうか、もし泊まるようなことがあったら、電話したまえ。食事でもしよう」
「はい、ありがとうございます」
JR奈良駅で、杉浦教授と別れた彰夫は、タクシーに乗り込み好美の住所を告げた。
タクシーの車窓から奈良の街を眺める。奈良へは初めて訪れた。彰夫は小さな街だが、独特の空気があると感じた。
土地の持つ歴史のオーラなのか、この街だけ見えないシールドで覆われていて、他の都市とは異なる時計で営まれているようだ。京都は以前行ったことがあるが、同じ古都とは言えまったく違う印象がある。それが平安京と平城京のちがいなのかと問われたとしても、歴史的知識の乏しい彰夫には具体的にそのポイントを指摘することができない。
歴史書を紐解けば、平城京の遷都は約1300年前まで遡らなければならない。
皇室を交えて氏族間でどろどろの覇権争いを演じていた当時、遣唐使を復活させ、本格的な律令制国家の構築を目指した朝廷は、代を超えて発展していく都城の必要に迫られていた。また、天皇家との結びつきを強めていた藤原氏は、飛鳥を中心とする旧来の豪族勢力の力を殺ぐ必要があった。そこで、飛鳥の地から離れた奈良北部への遷都を実行に移す。平城京に遷都されたのは、710年のことである。
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