第38話

「リビングが騒がしいわね…。好美さん、起きたのかしら」


 彰夫がリビングからの声に耳をすませた。その声に居るはずのない女の声を聞き分けると愕然とした。


「ちょっと、様子見て来るから…」


 彰夫は慌ててリビングへ向かう。そこでは完全に泥酔状態の克彦と、一升瓶を小脇に、立て膝で日本酒をあおるテルミがいた。


「なんで、ろろにテルミちゃんがへるのか、なんか不思議だなぁ…なんて、どへでもいいっしょ。この際…」


 克彦が喋るが、酔いのため満足な言葉になっていない。


「そう、酒が飲めれば、それでいいのよ」

「ああ、出張キャバクラ、バンザーイ。我が家にテルミちゃんが来てくれるなんて…。もっとそばに寄ってもいいかな?」

「いいとも!」


 克彦が、立ちあがってテルミの側に向うが、一歩も進まぬうちに、畳に倒れ込んで動かなくなった。

 彰夫はそんな克彦に構わず、彼の身体をまたぎテルミに詰め寄った。


「なんでテルミが、ここに居るんだ?」

「彰夫が連れてきたくせに…」

「俺が連れてきたのは、好美だ」

「あたしは来ちゃいけないの?」


 テルミの放った言葉が、彰夫の胸に刺さった。返事を返すことができなかった。


「あたしは家族に紹介してもらえないわけ?」


 テルミはそう言うと、彰夫を睨みつけながら立ちあがった。


「待て、テルミ。どこへ行くんだ」


 家を飛び出すテルミ。

 彰夫は台所の手伝いでしていたエプロンもそのままに、彼女の後を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る