第29話
好美は美大に行く以外は、あまり外出しない。外出しても外での活動は安心して見てられるのだが、テルミはそういうわけにはいかない。
仕事に行くのだとわかっていても、テルミが何も言わず大きなドアの音を立てて出て行った夜は、後を追っかけて連れ戻したい衝動に駆られる。
自分と起きたことを考えると、あまりにも奔放で自己中心的なテルミの言動が彰夫を落ち着かなくさせるのだ。
外では、お客や男友達とどういうつき合いをしているのだろう。男漁りでもしているのだろうか。
恥ずかしがる好美から苦労して聞き出した話では、目が覚めたらベッドに知らない男がいたなどということは過去には無かったようだ。男を自分の部屋に連れ込むようなことはしない。では、自分の時はいったい何だったのだろうか。
あの夜、彰夫は幸いにもベッドの下に落ちていたので、朝コンビニへ買い物へ行く好美に気付かれなかった。しかしあの時目覚めた彼女が自分を発見していたら、どうなっていただろうか。
テルミが男と寝ると言うことは、肉体的には好美が寝ているのと一緒になる。考えれば複雑な心境だ。とにかく彰夫は、テルミを縛り上げて自分そばに置いておきたかったのだが、無理に彼女の行動を規制したり強要したりしたら、好美に何をしでかすかわからない。そう考えてじっと我慢しながらも、やはり帰って来るまで心配で寝られなかった。
彰夫がまず知りたかったのは、テルミが基本人格である好美をどれだけ認知しているのかだった。テルミが好美に抵抗するとか攻撃するとかがあるとすれば、それは相手を認知していることが前提だ。その認知の度合いによって、彰夫の対応の仕方も考えなければならなかった。
彰夫は何とか話を聞き出そうと、ある夜寝ずにテルミの帰宅を待っていた。いつも通りに酔って帰って来たテルミは、リビングで待ち構えた彰夫にあからさまな警戒を示す。
「なによ…。そこで何してるの」
「そんな怖い顔するなよ…。寝られないんだ。少しおしゃべりしない?」
「彰夫と話すことなんかないわ。そんなことより、セックスしよう。あたしもご無沙汰だし、彰夫もよく寝られるわよ…」
「いや…そうじゃなくて」
「彰夫が嫌なら、他の男と寝るわ」
「そ、そんな脅しを…言うな」
「あら、あたしが他の男と寝るのが嫌なの?」
「ああ、絶対に嫌だ」
「それでも、あたしとセックスするが嫌なの?」
「脅されてするなんて、まっぴらだ」
「あの女とだったらやりたい?」
「それは…」
彰夫は答えようがなく、慌てて話題を切り替えた。
「テルミ、あの女のことをどこまで知ってるんだ?」
「ぜんぜん知らないわよ」
「この前、急性アルコール中毒で倒れた時、『そんなことができる女じゃない』ってうわごとで言ってたじゃないか」
「言うわけないでしょ」
テルミは、吐き捨てるように言うと自分の部屋に入り、荒々しくドアを閉めてしまった。
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