第20話

「解離性障害となる人のほとんどは、幼児期から児童期に強い精神的ストレスを受けているとされているね。 ストレス要因としては、学校や兄弟間のいじめ、親などが精神的に子供を支配していて自由な自己表現が出来ないなどの人間関係、ネグレクト、家族や周囲からの心理的、身体的、あるいは性的な虐待などだな。さらに、殺傷事件や交通事故などを間近に見たショックや家族の死なども要因にあげられているよ」

「その障害の治療法ですが…」


 杉浦教授がいぶかしそうに彰夫を見る。


「ちょっと待って、及川君。まさか身近に患者さんがいて、君の手で何とかしようと思っているんじゃないだろうね」

「そんな…杉浦先生…」


 彰夫は、自らの心に冷水を浴びせられた思いがした。


「確かに、疑わしい人はいます。しかし、素人の自分が何とかしようなんて微塵も思っていません。ただ、良き理解者となって専門医につなげられる為の知識を得たいだけなんです」


 杉浦教授はしばらく彰夫の眼を覗き込んで、その真意を探っていたが、やがてうなずきながら言葉を続けた。


「学生時代に私の講義をちゃんと聞いておれば、そんな質問はしなかったはずだよ」

「面目ありません」

「解離性障害の要因が、ほとんどの場合幼児期から児童期に強い精神的ストレスを受けたからだと言っても、いまさら起きてしまったことをなしにすることはできない」

「なるほど、過去の問題があった時点まで記憶をさかのぼり、その問題に取り組んで解決をめざす睡眠療法とは異質な気がしますね」

「そうだよ。重要なのは過去ではなくて、現在なんだ。やっと学生時代の優秀な及川君にもどったね」

「恐れ入ります」

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