第15話

 彰夫達が案内された席は、部屋の隅の末席だった。


 やがて、ショーが始まる。小さなステージに店で働く女の子たちが入れ代わり現れて、AKB48よろしく踊りはじめる。

 テルミがいた。彼女はすぐ彰夫を認めたようだ。いつにもまして、広く胸元が開き、腰までスリットの入ったドレスを着て、思わせぶりに体をくねらせて踊っている。彼女が妖しく笑って彰夫にアイコンタクトをしてきた。

 彰夫は思わず視線をそらした。ショーのエンディングのラインアップでは、彼女はテルミとして紹介されていた。どうやら本名で働いているようだ。


 ショウが終わり、再びマネージャがやって来た。


「只今よりお時間を始めさせて頂きますが、ご指名はありますか?」

「いや、べつに…」


 克彦を遮って彰夫が叫んだ。


「テルミさんをお願いします」

「なんだ彰夫君。お目当ての女の子がいたのか?」


 驚く克彦に返事もせずに、彰夫はテーブルのタンブラーをじっと睨み続けていた。


 指名はしたものの、テルミはなかなかやってこなかった。他の席を盗み見すると、テルミは他の席でも指名されているようで、大声で騒いでいる。


『こんなことだったら自分を呼びつける必要はないのに…』


 そう思いながら彰夫はテルミを見つめた。

 触ったり、触られたり。おもちゃにしたり、おもちゃにされたり。挙句の果てに、客と本気でケンカしていたり。生まれた時からこの店にいたように溶けこんでいた。

 嫌悪はない。しかし、軽蔑はあった。彰夫にとって女はああではいけなかった。やはり、女はベランダから男の姿を認めて、走ってコーヒーを持ってやってくる純真があるからこそ、愛おしいものなのだ。


 彰夫たちの席に、見知らぬ女の子がやってきては去る。それを何回か繰り返しているうちに、ようやくテルミがマネージャに導かれてやってきた。テルミは、挨拶もなく彰夫の横にどかっと座ると、マネージャに言い放つ。


「マネージャ。ボトル入れて、フル盛り持ってきて。おなかすいたからサンドイッチもね。それに、私にはいつも通り冷酒を持ってきて」


 勝手に注文するテルミに困り顔のマネージャ。テルミは彰夫に振りかえって言った。


「ごめんなさいね。あたし日本酒が大好きなものだから…」


 彰夫は首をふりながらも、マネージャを見て軽くうなずいた。テルミの傍若無人な指示はさらに続く。


「もう閉店までここを動かないから、他に指名入れないで。ヘルプもいらないわ。余計な女の子はよその席に付けちゃって。それから…」


 テルミは、正体を無くして女の子の膝枕に崩れている克彦をあごで指し示した。


「お連れさんのために、タクシーを呼んであげてくれる」

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