番外編3 哀れな存在


「パパー! ママー! わあああん!」

「アサヒくん!」

「わああああああ」

「ええい黙れ、うるさい人間め!」


 まるいドーナツ状の人だかり。その真ん中に、頭を禿げ散らかした二足歩行のゴリラのような怪物がいて、幼い男の子の首根っこを捕まえている。


「いいか、この人間の命が惜しくば、儂に近寄るな──レンジャーども!」


 駆けつけたレンジャー本隊員たちは、怪物に近づくことができない。悔しそうに怪物を睨んでいる。

 男の子は泣き喚いている。彼の両親らしき男女が、うろたえて悲痛な声で子を呼んでいる。

 胸が痛む光景だ。


 はぁあ、と吐息を落とす。

 ああ、こんなの、ちっとも柄じゃないのよ、私。本当に。


(でも……私の方が、ずうっとマシなのよね……)


 そこで、愛花梨あかりは一歩前へ踏み出した。

 がくがくする膝を叱咤して、二歩、三歩、四歩。


「何だお主は!」


 この気持ち悪いゴリラは──ハゲゴリラという名らしい──威嚇するようにこちらを向いて怒鳴った。

 体がびくっと怯んだが、愛花梨は浅く息を吸って、言った。


「あのう──私を人質にしてくれません? その子の代わりに」


 野次馬たちのざわめきがピタリと止んだ。

 待って下さい、というレンジャーの声も聞こえた気がしたが、愛花梨は動かなかった。

 ハゲゴリラは不審そうな目つきで愛花梨を見た。


「は?」

「ですから、私を捕まえていいので、その子を解放して欲しいんです」

「何でだ?」

「だって、一般人なら誰でも同じでしょう? それに私はその子と違って、泣いたりしませんから、きっとあなたも楽ですよ」


 愛花梨の手も声も、情けないほど震えていた。

 怖い。怪物と話すことすら初めてだ。ましてや人質になるなんて……恐ろしくて気が遠くなりそう。

 でも、しょうがないわ。だってこれじゃあ可哀想だし、助けてあげなくちゃって思ってしまったんだもの……。


 ハゲゴリラはしばらく思案顔だったが、やがて舌打ちをして、男児を捕まえていた手を離した。


「……行け、ドチビ」

「わあああん!」

「アサヒくん……!」


 抱き合って涙に咽ぶ親子。──良かった、という安堵は、毛深い手に後ろ手を捕らえられた瞬間に消え去った。

「うっ……」

 恐怖と嫌悪感で鳥肌が立った。


 いいか、と気を取り直した怪人が言った。


「この人間を死なせたくなきゃ、儂に手を出すなよ。儂が安全な場所に着くまで、大人しくしていろ! レンジャー!」


「ゴリラ貴様!」

「このハゲェ! ボケカス! 小汚ぇ糞虫が! その人を置いて肥溜めへ帰れ!」


 レッドとブルーが怒鳴った。


「こえっ……!? 何を言うか小娘!」

「るせー。手ェ出すなっつーから口出してるだけだ! どうせお前らの組織なんてウンコの塊だろうが」

「お、おおお、お主、悪の組織を愚弄するかっ! この馬鹿者め、余計な口を出した場合にもこいつを殺すぞ。代わりは幾らでもいるのだからな!」

「……くそ」

「そうだ、黙っていろ。……一時間後だ。一時間後に、隣町の廃ビルへ来い。それまで何もするなよ。遅れても駄目だ。そして来る時は──

「!!」


 愛花梨は目を丸くした。

 そういうことか、とイエローが言った。


「何を、意味のない人質作戦を取っているのかと思えば……それが目的かぁ」

「そうだ。お主らは五人だから厄介なのだ……。儂は、一人を確実に嬲り殺しにしてやる」


 怪人は愛花梨を乱暴に前に突き出した。


「きゃあ」

「いいか、レンジャーが二人以上で来てみろ。儂の手がこの人間の首を掻き切るぞ」


 ゴリラは反対側の手から、虎のように鋭く大きな爪をジャキンと剥き出した。

「ひゃっ……」

 何これ、刃物みたい! こんなので裂かれたら大事おおごとだわ……こ、恐い……。


「隠れてついてきても殺す。何人なんぴとたりとも、ビルの半径百メートル以内に近づくな。もし近づいたら儂はすぐ気付くからな」


 言って、怪人は歩き始めた。愛花梨は不安で胸をどきどきさせながらも、大人しく引っ張られていく。


「いいか、必ず一人で来るんだ」


 怪物は最後にそう念を押した。


 ☆☆☆


「ブルー。君の言うことは尤もだけど、女の子がそんな下品な言葉を使ってはいけないと、いつも言ってるだろ?」

「またそれかよ。悪党に悪態をついて何が悪い?」

「だって君、さっきの短時間でクソって意味の言葉を四回も言ったんだよ。分かってる?」

「へー、よく数えたな」

「そうじゃなくてだね……」


 ゴホン、とグリーンは咳払いして、二人の会話を止めた。

 漫才に割く時間はない。

 レッドはふいとこちらをみて、肩を竦めてみせた。


「ごめんごめん。会議をしなくちゃな。さて、むろん一人で行くとして、誰が行くかが問題だけど……」

「それはもちろん」

「俺が」

「あたしが」

「ぼくが」

「おれが」

「……」


 しばし無言の時が流れる。


『……ワタクシは辞退します』

「おう」


 グリーンは低く応じた。

 そこから、自己PR大会が始まった。


「あたしのビームは一般人にもさわれるからな。あの人を直接くるっと巻き取っちゃえばすぐだぜ」

「それじゃあ怪物に対処できないでしょ。ぼくなら素早く動けるから、あいつが何かする前に全部終わらせられるよ」

「いや、もしものことがある。奴を消すのが先だ。おれが一人で奴を倒す。それからあの女性を助ける」

「いや、それは俺の役目だね」

「兄さ、……レッドは駄目だ!」

「何でだい?」


 レッドが本気で不思議そうに問うので、グリーンは憤然とした。


「レッドはレンジャーの要ではないか! 一人で行って、もし帰れなかった場合、おれたちはどうすればいいのか……!」

「でも今一番強いのは俺だよ?」

「……?」


 それは否定しないが、どういう理屈か分からない。グリーンは首を傾げていると、レッドが自信満々に断言した。


「俺は、誰かが帰れなくなるのを絶対に許さない」

「!」

「だから帰れる可能性が最も高い俺が行く。君達は待機」

「しかし」

「これはリーダー命令だ」

「そう言われても!」

「それに」


 レッドの声音が、ちょっぴり気取った感じになった。


「レディが危険にさらされているのを黙って見ているなんて、紳士的じゃないからね。俺の主義に反する」

「じ……冗談を言っている場合じゃないだろう!」

「冗談じゃないよ? 俺、あの人に一目惚れしちゃった。だから俺に行かせてよ」



「……………………は?」



 ブッファ、とブルーが盛大に吹き出した。


「オイオイお前マジかよーレッドさんよォ」

「マジだよ」

「ブッヒャヒャヒャヒャ」

「わ、笑い事じゃないだろうが……!」

『これが、ヒトメボレ! ワタクシ、初めて見ました』

「あっはっはははははは。あはははははは」

「イエローまで! 不謹慎だぞ」


 グリーンがプンスカしているうちに、レッドはくるりと背を向けた。


「じゃあ、行ってくる」

「待っ……」

「おう、行ってこい行ってこい。白馬の騎士になってこい」

『お気を付けて』

「ありがとう!」

「待ってくれ、レッド!」

「待たないよ、グリーン。ばいばーい」

「あははははははは……ゴホッ、ヒィー、ヒィー」

「い、いつまで笑っているんだ、イエロー」

「ご、ごめ、……ぷくくくくく」

「おれは心配で心配で腹が痛くなってきたというのに!」


 なじると、イエローは何やら必死な様子で深呼吸をした。


「フゥー。……大丈夫だよ、グリーン」

「何が大丈夫なんだ」

「レッドが強いのは本当でしょ? それにああなったレッドは絶対に負けないって」

「ああなった……?」

「だってレッドは女の子の前だとすごく張り切るもの」

「……」


 ──それも否定できないけれども。


「我が兄ながら何たる不純な……」

「まあまあ」

 ブルーがグリーンの肩を気安くぽんぽんと叩いてきた。

「勝ちゃあ何でもいいだろうが。今は信じて待とうぜ?」


 グリーンは、俯いた。

 そりゃあ、信じている。信じていないはずがない。

 自分よりずっと強くて大きくて、才能もカリスマ性も持ち合わせている。自分などがどれほど努力しても追いつかないような──憧れの兄だ。

 だが──。


「心配するなってのは無理だろうな」

「……。ああ」

「そんなのはあたしにも無理だ。だからあたしらはあたしらにできることをやろう」

「できること」


 ブルーはビシッと指を突き出した。


「レッドが怪物を消せるとは限らない。残り四人は百メートル離れたところで待って、すぐ出動できるようにしておくんだ。

 ホワイトは隠れてシッカリ奴を見張っていろ。魔道の探知も怠るな。

 ホワイトが危険を察知し次第、あるいはレッドが何かしらの合図を出し次第、あたしらは突入する。

 その際はもちろん人質の安全確保が最優先だ。いいな」


「! ら、ラジャー」


 グリーンは、イエロー、ホワイトと共に返事をした。

 ブルーは何だかんだで頼りになる。こう見えて意外と冷静だし、判断も早い。


「あとは」

 ブルーの声がほんのり和らいだ。

「本当に、信じて待つことしかできねぇけどな」


 ☆☆☆


 廃墟の廊下は、薄暗くて埃っぽくてシーンとしている。

 愛花梨は隅の壁に寄り掛かってじっとしていた。

 別に拘束などはされていないが、「逃げたら殺す」と言われては、私にはどうしようもない。

 そもそも逃げるつもりもなかったけれど。

 どうせ逃げたって別の人が捕まるだけだもの──。


「恐がらないな」


 それまでずっと黙っていた怪物が、唐突に喋ったので、愛花梨はビクッとした。


「……そうかしら?」

「怯えた様子がない。つまらん」

「まあ……ごめんなさいね。これでもすごく恐いのよ」

「……」

「手だってこんなに震えているんだから」

「……ふん」

「殺さないで頂戴ね?」

「それはお主と奴ら次第だな」

「そう……」


 愛花梨は俯いた。

 ──レンジャーさん、ちゃんと私を守って下さるかしら。

 映画の中の正義の味方なら脚本通り必ず助けに来てくれるけれど、実在する組織の一員にすぎない彼らのことを無条件に信じることは、愛花梨にはできなかった。

 人間には不可能なことだってある。失敗だってする。大勢のために一人を犠牲にすることだって──。

 だからこれは賭けだった。


「恐いなら、何故身代わりを申し出た?」

 怪物の声は淡々としていたが、心の底から謎に思っている様子だった。

「お主のように、弱く、脆く、大人しいだけの人間が……。もしや、レンジャーか警察の任務か?」

「いいえ」

 私は本当に何者でもない。事務職をやっているしがない一般人ですもの。

「しかし……死にたいわけでもなかろう」

「そうね」

「では、何故」


 その質問に答えるのは、何だかとっても阿呆らしく感じられた。


「……。それは、これから来てくれるレンジャーさんと同じ理由じゃないかしら」


 そう言うと、ゴリラは桃色の禿頭をぼりぼりと掻いた。


「それが分からん。この作戦はボスに命じられたものだが……何故これでたった一人をおびき寄せられるというのか。理解に苦しむ」

「……気の毒ね」


 つい、ぽつりと、愛花梨は呟いていた。


「何?」

「あなたに分からないのは仕方がないわ。怪物はそういう風に生まれついているのだもの。それが……何だか哀れ。哀れな存在だわ……」


 突然、毛むくじゃらの太い腕が愛花梨の髪を鷲掴みにした。


「きゃ!?」

「儂が哀れなものだと? ぬかせ!」

「は、離して……」

「儂はボスに作って頂けて光栄だ。ボスのお役に立てて光栄だ。何も知らんニンゲンが愚昧なことを言うな!」

「……っ」

「分かったか! 分かったら返事をしろ」


 凄まじい形相での恐喝に、愛花梨は精一杯コクコクと頷くしかなかった。


「……ふん」


 手が離され、愛花梨はトサッと床に座り込んだ。びっくりした──腰が抜けた。心音で耳が痛い。たまらず蹲った時だった。


「やあやあ。来たよ」


 やけに明るい声が、近づいてきた。

「!」

 愛花梨はパッと顔を上げた。


 ……足音がしなかったので気づかなかった。


「レッドさん」


 来た。来てくれた。ああ、良かったわ──。

 はあっと息を吐き出した。自分が思った以上に緊張していたのだと分かった。

 レッドは屈み込んで、優しげに声をかけてくれた。


「大丈夫ですか、お姉さん? 怪我は?」

「あ……ありません」

「じゃあコイツちゃちゃっと倒しちゃうから安心して。危ないから離れていて下さいね」


 愛花梨は頷いて、床を這いずって怪物から離れた。レッドはその大きな背中で愛花梨を護るように立ち上がり、怪物と対峙した。


「本当に一人で来たんだな」

 ゴリラは半ば呆れ顔で言った。

「まあね」

「知りもせん人間一人のためにか。愚かだな」

「いや、どう考えてもこれが最善の手でしょ」

「……分からん……分からんぞ……」

「君が分からなかろうが知ったことか。俺はお喋りに来たわけじゃないんでね」


 レッドはすっと鋭い殺気を放ち、構えを取った。怪物もピクリと反応して拳を固める。


「……女の子を攫った悪漢は」

 レッドがそのままの体勢で低く言った。

「ブツをもぎ取られて然るべきだけど、そもそもお前らにはからなぁ。色んな意味で幸運だったね」

「……何の話だ?」

「ははっ。人間様の話だよ。肥溜めから来た糞虫くんは、知らなくてもいい話」

「お主、またそのような……!」

「あれ? 下水から湧いたハゲゴリラ、だったっけ」

「……。怪物ひとを侮辱するのも大概にしろ!」

「いや文句ならブルーに言ってよ。これ俺のボキャブラリーじゃないし」

「……。よく分からんが、お前、めちゃくちゃ喋るではないか」

「ああごめん」


 途端、赤い旋風が巻き起こった。


「わ……」


 愛花梨は反射的に頭を手で庇っていた。

 はっとして見れば、防御のために十字に組まれたハゲゴリラの毛むくじゃらの腕から、黒い体液が滴り落ちている。


「無駄口はやめて早く消してあげようね」

「……戯言ざれごとを。たった一人で何ができる!」

「そっちこそ、俺を相手に何ができる?」


 そして、バトルが始まった。

 荒事とはこれまで全く縁が無かった愛花梨には、何が起きているのかいまいち把握できなかったが、両者ともなかなか退かない。

 と思ったら、レッドが思い切り怪人を蹴飛ばした。ハゲゴリラは床を何度もバウンドして転がってゆく。その間にレッドはビームガンを抜き取り、畳み掛けるように、流麗な銃捌きで連射を食らわせた。


「お姉さん」

「はっ、はい」

「ごめんね、逃げ場を塞がれているから逃がしてやれない。怖いかもしれないけど、俺が必ず守りますから」

「ありがとう……」

「とにかく頭を保護して伏せていてくださいね」

「分かりまし──あ、危ない!」


 ハゲゴリラが、ブーメランの様な鋭い武器を出現させて、こちらへぶん投げてきた。レッドがそれを迎え撃った隙に、ゴリラは突進して距離を詰めてきた。


「刃物か。厄介だな……」


 レッドは呟きながらも、何度も投げつけられるその凶器を撃ち落とし続ける。

 ハゲゴリラはにやにや笑った。まあ気持ち悪い、と思いながら頭を抱えて蹲っていた愛花梨は、ブーメランが自分に向かって投げられたのに気づいて身を固くした。


「わ……」


 やられる、と思った瞬間、レッドが足を突き出してブーメランを蹴り飛ばした。


「まあ!」


 戦闘スーツの上からでは分からないが、レッドは脚にダメージを食らったらしい。一瞬、痛そうに足を引きずった。


(わたしのせいで怪我をさせてしまったわ……!)


「人質がいるのを忘れるな」

 ハゲゴリラは言った。

「レッドよ。今後、お主が余計な抵抗をすれば、儂はその人間を狙うからな!」


 レッドは愛花梨を振り返ってから、ひょうきんに肩を竦めてみせた。

 それから、ビームガンを腰に収めてしまった。


(嘘……)


 愛花梨は今更ながら自分の愚かさと無力さを呪った。

 自分が大人しく捕まっていたせいで、この人が一方的にやられてしまう。


「それ、最初から言っておけば良かったのに。君は間抜けだね」


 レッドは特段動揺した様子もなく言った。


「う、うるさい。今思いついたのだ」

「まあ怪物に人間の心理が分からないのも仕方ないね。いいよ、好きにボコ殴りにして。俺のコアが砕ければ満足かな?」

「待って! 私のことはいいですから!」

「いやぁお姉さん、お気になさらず。これが仕事ですんで。──さあ殴っておいでよ、ハゲゴリラ。君の実力ならきっとすぐに俺を倒せるよ」

「ふはは、愚か者め。後悔するがいい!」

「そんな……駄目よ!」


 愛花梨の制止も虚しく、ゴリラはレッドのヘルメットに殴りかかった。レッドの体がぐらりと傾く。


「レッドさん!」


 ゴリラは容赦なくレッドを殴り続けた。最初は平然と受け身を取っていたレッドも、次第に「うっ」と呻き声を上げるようになり、呼吸も乱れ始めた。

 愛花梨はただただそれを見ているしかない。


(ああ、どうしましょう!)


 ハゲゴリラはひときわ拳を大きく振りかぶった。


「最後は心臓だ。お主のその忌々しいコアを粉々にしてやる」

「やっ……やめて頂戴!!」


 愛花梨が大声を出した時、それまでふらふらしていたレッドが、急にシャキッと構えをとった。


「……え」

スキありぃーっ!」


 レッドは、振りかぶった体勢でガラ空きになったハゲゴリラの腹に、強烈なパンチを食らわせた。


「ごふっ!?」

「ハイまた隙ありっ!」


 仰向けに倒れ込んだ怪物に飛び乗ったレッドは、紅に光る拳を掲げ、思い切りゴリラの胸を強打した。


「ガァッ!!」


 ハゲゴリラは身体を痙攣させ、四肢を床に投げ出した。


 ──強い。一撃が重い。


「お、お、お主……何故まだそれ程の余力が……」

 ハゲゴリラは息も絶え絶えである。


「全く。君程度の実力で、俺がやれるわけないじゃないか」

 対するレッドは涼しげに言った。

刃物ブーメラン使えば良かったのにね。俺の言った通りに殴ってくるなんて、やっぱり怪物は間抜けだなあ」

「く、くそ……っ」

「クソは君のことだろ」

「お主ら、何度それを言えば気が済むのだ……」


 レッドが頭を蹴飛ばしたので、怪物はその言葉を最後に気絶した。

 とどめにレッドがその心臓をビームで射抜くと、怪物は、まるで夢幻であったかの如く、砂のようにさらさらと崩れて消滅してしまった。


「……まあ……」


 圧倒された愛花梨は、やっとそれだけ言った。

 レッドは、はーっと長く息を吐いた。


「痛ててて……ちょっと無理しちゃったかな……」

「だっ、大丈夫ですか」

「もちろん! 元気溌剌ですよ。ピンピンしてる」

「えっ? でもお怪我が」

「平気平気。そんなことより俺は、勇敢なレディに敬意を表したいですよ。恐い思いをさせてしまって申し訳ありませんでした」

「そんな。わたしのせいでレッドさんが」

「気にしないで下さいってば。こんなのかすり傷ですよ。さあ、早くこんなところから出ましょう」


 レッドは優しく愛花梨の手を取って、非常口までエスコートした。


 ☆☆☆


 変身を解いた明良あきらが、やや足を引きずりながらも、元気に人質を連れて出てきたので、グリーンは心底安心して己も変身を解いた。


「良かった」


 恒輝こうきは立ち上がった。

 ばらばらに待機していた他の仲間も明良のもとに駆け寄っていく。


 かの勇気ある女性と明良は、親しげに会話を交わしている。


「ありがとうございました」

「当然のことをしたまでですよ。レンジャーとして、そして一人の男としてね」

「まあ、そんな」


 彼女は意外にも、おしとやかな仕草で笑っている。本来はおっとりした性格なのだろうか。いずれにせよ大した度胸と義勇だ。


「ところでお姉さん、お名前は?」

「……小口こぐち愛花梨あかり、です」

「そうか。素敵な名前ですね。俺は天堂てんどう明良という者です」

「ええ、存じてます」

「時に愛花梨さん、よければ俺と、お付き合いしていただけませんか?」



「……………………え?」



 愛花梨はすっかり驚いた様子で、明良を見上げた。


 恒輝は立ち止まり、呆れて天を仰いだ。

 やれやれ……。

 まあ、アキはアキだ。好きなようにすればいい。おれが口を出すことではない……。



 これ以後、明良は愛花梨に猛アピールを開始する。

 それに巻き込まれる形で、他の本隊員たちも、彼女と徐々に親交を深めることになるのだった。






        ────「哀れな存在」おわり

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