番外編2 夢を照らせ


 立ち並ぶビル群の合間に見える、冬の青空。

 真白い横断幕が寒風にはためく。


「シャインレンジャー本隊昇進試験

 最終試験会場」


 腰に手を当てそれを見上げる、巻き毛の美女が一人。――あたしだ。

「魔道に柔軟性のある戦士求む、ねえ」

 運はあたしに味方しているらしい。

 早くから首都の分隊で勤務できていた上に、こんな機会が巡ってくるなんて。

 全国のレンジャーの最高峰である本隊に入れる大チャンス。絶対に逃せない。

 ブルーのスーツ着てテレビや動画に映ったら、さぞ目立つんだろうな。


「受験番号1番の入山いりやま星奈せいなでーす」

 意気揚々と受付スタッフに書類を提出していると、ぬっと大きな影がさした。ぱっと振り向いて、心拍数が跳ね上がる。

 高い背丈にサラサラヘアー、物静かな自信を湛えた面持ち。間違いない。

静矢しずやさん!」

「やあ、君が受験生?」

「どうして、先代のブルーがここにいらっしゃるんです?」


 浦野うらの静矢──この人が怪我したために欠員が出たのだ。あたしにとっては憧れのスターであると同時に、気まずさを感じる相手。

 まあ、あたしは自他ともに認めるふてぶてしい人間だから、態度には出さないけど。


「急遽、試験の方法が変わってね。先代の私が、後釜を選ぼうということになったんだ」

「お怪我はよろしいんですか?」

「幸い、日常生活には支障は無いよ」

 それならよかった。まあ入れ替わりの激しいレンジャー業界だ、こういうケースは珍しくない。

「おいで」と彼は奥へと続く廊下を歩き出した。「私は準備があるから、君は控室で待機だ」


 案内されたのは、狭めのロッカールームだった。先客の男が一人、ベンチの隅に座っている。

「ちわっす。あんたも受験生?」

 声をかけると、胡乱な顔で振り返ってきた。言っては悪いが、特筆すべきことは何もない、印象の薄い風体をしている。

「……そうですけど」

「あたしは星奈」

「……タロウ」

 素っ気ないなあ。話すのが面倒臭い。でも、聞きたいことがあるし。

「いきなり試験が変わってビックリしたんだけど。あたしたち試されてんのかな」

「さあ?」

「何か意見ねーの」

「特にありません」

「ふーん?」

 特徴なし、覇気なし、意見なし。よく最終試験まで生き残ったものだ。


「あんた、どっから来たの」

「……あなたは」

「あたし? 首都勤め」

「……それは、幸運ですね」

「まあね。専門学校じゃなくて大学出だから、配属で優遇してもらっちゃった」

 途端、太郎がジトッと陰気な視線をよこした。

「なんだ。エリートですか」

 ああん? と威嚇しそうになって、すんでのところであたしは飲み込んだ。だが結局「何か文句あんの?」と険のある声を出してしまった。ヤッベ。


 太郎は、フイと目を逸らした。

「いいえ。……学歴頼みの女の実力なんて、タカが知れてると思っただけです」

「あ゛ぁん?」

「まあ、お色気枠として活躍する可能性なら、わずかにあるんじゃないですか」

 あたしはベルトにさしていたビームガンをすばやく抜き取り、太郎にピタリと狙いを定めた。

「どういう意味だテメェ。あたしの腕を疑うなら、ここで試し撃ちしてやろーか」

 もちろん、レンジャーが放つ魔道のビームは、怪人にしか効かない。人体には無害なんだけど……太郎はビビったのか、ベンチから転がり落ちた。

 ざまあ。


「太郎ってさあ、あんまヒーローっぽくないな」

 あたしは得物を引っ込めながら言った。

 レンジャーの使う魔道は使い手の“勇気”をエネルギーとする。ビビリは当然レンジャーに向いていない。しかもこいつときたら、女性に対する言葉の使い方も知らないようだ。

 腰抜けで非紳士的なヒーローなんて、夢が壊れちゃうでしょーが。


 太郎は、よろよろとベンチに座り直した。

「……お互い様でしょう。ひとを脅すなんて」

「いや、あんたもカンに障る言い方すんなよな。確かにあたしは美人だけど、んなアホな理由で採用されても困るわ。正義の味方はそんなことしない」

 言い切って、太郎の返答を待つ。が、彼が何も言わないので、諦めて先に謝った。

「銃を向けたのは悪かった。ごめん」

 敵にしか使わないものを人に向けるのは、侮辱に当たる。

「……こちらこそ。余計なこと言ったみたいですね」

「いーよ別に。これからはよろしくな」


 あたしは手を差し出そうとしたが、急な肌寒さに襲われて動きを止めた。

 何かと思えばドアが開いていて、静矢が顔を出していた。廊下の冷気が部屋へ流れ込んでいる。


「お待たせ。受験生の二人は、こっちへ来てくれ」

「はーい」

 気を取り直して、あたしと太郎はビームガンと戦闘スーツを持っていることを確認し、静矢について別の部屋へと向かった。


 ☆☆☆


「星奈ちゃんは、どうして本隊に昇進したいんだい?」

 薄暗い廊下を進みながら、静矢は尋ねてきた。

「あー、あたしは、子供たちに夢を与えたいなと思いまして」

「夢?」

 静矢は意外そうにこちらを見た。……え、そんなに珍奇なこと言ったか?

「あたし、魔道の修行は全部、公共機関でやってたんですよ。貧乏だったから、習い事はできなくて」

「へえ」

「それでも大学の推薦をもらえて、いい条件でレンジャーに就職できまして。つまり、あたしが活躍すれば、貧乏な家に生まれた子供でも夢を叶えられるっていう、希望っていうか……前例になるじゃないですか」

「ふうん」

 聞いて頂けるのが嬉しくて、あたしは図々しくお喋りを続けた。

「金持ちしかヒーローになれないなんて、夢のない話っすよ」

 だいたい、強い力を持つ者ほど“悪の魔道”に目覚めやすい、すなわち怪人になりやすいのだ。金持ちが慢心でもしたら危なっかしいことこの上ない。

 無論、ほとんどの人は平穏な人生を送るわけだが……。


「さあ、着いた」

 静矢は足を止めた。

 頑丈そうな扉が開いたその先に、雨にけぶる集合住宅地が現れた。

「ここが模擬戦の会場だよ」

 模擬戦。仮想空間にて行う、実戦を模した訓練。

「一人ずつ敵を倒してもらうからね」

 ドアが閉まり、街の景色は周囲360度に及んだ。大小のマンションがぐるりと配置されている。

 あたしたちが立っているのは八階建てほどの、中くらいの高さの建物の屋上。小さなパイプテントが審査席の雨を凌いでいる。……どれも実際にあるように知覚されるが、全てバーチャルだ。


「あの」

 あたしは、椅子に座った静矢に話しかけた。

「何だい?」

「試験官ってマジで静矢さんだけっすか?」

「そうだよ。これまでの試験をクリアした時点で、ほとんど合格みたいなものだ。最後の判断くらい、私一人で事足りる」


 あたしは彼の穏やかな表情を、ジッと見下ろした。

 ――この試験には裏がある。水面下で何かが進行している気がする。

 でも、上手く考えがまとまらない。頭がぼんやりするのは、湿気のせいだろうか。


「じゃあタロウくん、先に試験を」

「あれ、受験番号1番からじゃないんすか」

「順番はさっき私が、クジで決めたよ」

「はあ……」


 あたしの戸惑いをよそに、太郎は「変身」と呟いてベルトのボタンを押した。

 灰色の戦闘スーツが、彼の全身を覆う。

 使用者の魔道と密接にリンクすることで、身体能力を何倍にも増幅させる、専用のスーツとヘルメット。カラーのものを着用できるのは本隊のメンバーだけで、平社員はみなグレーである。それでもそれなりに格好よく着こなせるものだが、不思議なことに太郎はいささか精彩を欠いて見えた。


「じゃあ、開始」

 静矢は言った。


 だが、仮想敵を作動させる様子がない。

 太郎は臨戦態勢で銃を手にしている。

 あたしは不審に思って、腰に手を当てた。


 だから、太郎が不意にあたしに向けてビームガンをぶっ放した時、咄嗟にあたしもスーツを纏って飛びのくことができた。


「あっぶね!」


 喧嘩っ早いあたしの直感が言っている。

 こいつはつもりで撃ったのだと。


 攻撃を外した太郎はしかし、慌てもせず、自分の放ったビームに対し腕を振った。

 するとビームはぐいっと進路を変え、魚雷のようにこちらへ突進してきた。

 

 追跡型ビーム。静矢の特技とそっくり同じだ。


 あたしは再び躱そうとしたが、その動きすらも追われてしまった。

 閃光が背中に当たり、ウッと息が詰まった。水溜まりを蹴立てて、屋根の上をごろごろ転がる。

「やっぱりか……!」

 あたしがダメージを受けた、ということは、この魚雷は“悪の魔道”の産物。

 

 起き上がるのももどかしく、あたしは続けざまに四発のビームを撃った。

 うち二つは太郎が放った二発目に向けて。もう一つはタロウ自身に。最後のは、静矢に。


 三方向からの、ネズミ花火のような爆発音。

 コンクリートの峡谷に残響がこだまする。


 太郎のビームは大破。彼の銃は地上へと落下。静矢は――椅子から吹っ飛び、雨の下に投げ出された。


 認めたくはないが、そういうことらしい。ヤバイ事態になった。

 あたしは一人でここへ誘い込まれていたんだ。


「こんな形で、試験官様に技をお見せすることになるたぁな」

 体当たりで突撃してくるタロウに対し、振り向きもせずにビームを五発。

 即座に、試験官へ銃口を向ける。

「動くな。あんた、何者だ」

「……」

「なぜ怪人が静矢さんに化けてる」

「……」


 五本のビームが頭上で白いリボンになって、くるくるとタロウを追い回している。

 あたしがパチンと指を鳴らすと、一本一本が指のように動いて、獲物を掴んでしまった。

 宙に浮く魔道の檻の中で、ぐああ、と苦しむ声が発される。


「あたしのビームは威力こそ凡庸だけど、バリエーションと柔軟性は誰にも負けない」


 全国屈指のレベルだという自負がある。そういう意味では超エリートだ。

 魔道のビームは普通、長時間消さずに留めておくことさえ難しく、その形を自在に操るのは更に困難だ。だがあたしは、その技術を武器にここまでやってきた。

 十代の頃から、魔道パフォーマンスの試合で幾度も優勝している。その縁で学校の推薦も貰った。地元アイドルのコンサートの演出を手伝ってくれないかと、オファーが入ったこともある。

 花に炎に盾に爆弾、何でもござれ。魔道であらゆる形を作れる稀有な能力の持ち主、それがあたしだ。


「で、テメェは誰だ」

「……」


 再度、指を鳴らす。タロウを捕縛したリボン達が無数の腕を生やして、網状の袋を形成した。魔道に触れる面積が広がったタロウは、いよいよもがき苦しむが、動けば動くほど体力を消耗していく。


「まだ吐かねーの?」


 あたしは最後に、左手をギュッと握りこむ仕草をしてみせた。

 網がどんどん縮小し……

 バチッ、と大きな音を立てて、タロウが跡形もなく霧消した。

「あり?」

 密かに驚愕する。

 思ったより小物だったぞ、こいつ。まあいいや。


 おや、と男はようやく口を開いた。

「参ったね。私の作った怪物の第一号が、こんなに早く倒されてしまうとは」

「……あ、そう。分かったなら、あんたも早く正体を現しな」

 急かすと、彼はゆるりと笑いかけた。

「私はシズヤだ」

「……嘘つけ」

 あたしは銃を持つ手に魔道を込めた。あの静矢さんにあたしの攻撃が効くものか。

「レンジャーからも“悪の魔道”に目覚める者が出ることは、星奈ちゃんも知っているだろう?」

「嘘だ。静矢さんは怪人になんかならねえ」

 レンジャー本隊は全国のレンジャーの中でも最強。そして、力を持つ者ほど怪人に転落しやすい――だから、ごく稀に、“悪堕ち”するケースがあると聞く。だが、静矢さんに限ってそれはない。

 正義の味方はそんなことしない。あたしの憧れの対象がそんなことになるのは許さない。子供たちの夢を壊すようなこと、静矢さんにはしてほしくない。

「こんな風になる野郎が、元レンジャーのはずがない」

 軽く引き金を引いた。光の糸が男の右足を貫通し、彼は思いっきり顔を顰めた。


 だが――

 

「諦めてくれないかい、星奈ちゃん」

 思わずたじろいでしまうほど、冷たい声音が向けられた。

「私は元ブルーのシズヤだ。表向きは怪我で引退とされていても、実態はこの通りだよ。まだ人間のナリをしているが、れっきとした怪人だ」


 そう言うシズヤの瞳は、日の沈みきった真夜中のような、虚ろな闇に満ちていて……一ミリとて揺らいではいなかった。


 雨音がやたらと耳につく。

「何で」

 あたしの声も湿っていた。

「何であんたが、こんな」

 視界が潤んできて、瞬きをしたのがいけなかった。


 気づいたら、シズヤが目の前に迫っていた。あっけなくビームガンをもぎ取られる。

「さあ、変身を解いて、両手を上げて」

「……ちっ」

 油断した。弱点となる魔道を向けられたら、最悪の場合、魔道を生み出すコアを砕かれる。死ぬ恐れもある。

 相手がシズヤでなかったら、体術で渡り合うことも可能だったが、ビームで追跡されてはたまらない。

 あたしは大人しく、スーツを解除した。心臓や頭を守っていた重みが外され、一つに結った髪の毛先がぼとりとうなじに落ちた。

 全身が徐々に濡れそぼっていく。冷たいものが背を伝って気持ち悪い。


「君一人で、この私を制圧できるとでも思ったのかい? 勇気がありすぎるのも困りものだね」

 否定できない。何であたしは、元本隊員という実力を持つ怪人を相手に、単独で立ち向かうような無謀な真似を。普段ならもっと冷静に対処できるのに。

「私の催眠の効果も、多少はあったみたいだ。効きが悪かったから、失敗したかと思っていた」

 ああ、たまに頭がぼやっとしたのはそのせいか、ドチクショー。

 つくづく怪人って面倒臭いんだな。

「何でこんなことを、って言ってたね。これから私の要件を言うから、余計なことはせずに従って」

「……了解」

「私は他の怪人たちから、レンジャー本隊の試験を邪魔するよう仰せつかっている。受験生の首を取ってくるか、仲間に引き入れるかすれば、正式に迎え入れて頂けるそうだ。……死にたくなければどうするべきか、分かるね?」


 なるほど?

 下手に抵抗すると、頭ボンヤリじゃ済まないかも。今は丸腰だし、意識に干渉されたら厄介だ。

 あたしは慎重に、魔道を練り始めた。


「オーケー、あたしはそっちに寝返る」

「物分かりが良くて助かるよ」

「その前に、一つ確認。犠牲になった受験生は、あたしで一人目?」

「そうだよ。君が受験番号1番だからね」

 じゃあ、あたし次第で境遇が変わるんだな。

「もう一つ。魔道のエネルギー源は、どうやって変える?」

「考え方次第で簡単に変換できる。私が説得してあげよう」

「催眠で無理やり変えさせられるのはお断りだぞ」

「これよりはマシだろう?」


 シズヤは眉一つ動かさずにあたしの銃を撃った。

 頬をかすめたビームは、あたしの全力と比べても倍は威力がありそうで……正直、心臓が止まるかと思った。

 なーるほど?

 あたしは、雨粒を振り払って、降参の姿勢をしてみせた。

 それから再び、自分の魔道に集中する。


「……考えてもみて、星奈ちゃん。レンジャーの目指す平和が実現したら、戦士は用済みになってしまう。君だって、希望だなんだと言っていたが、本隊に上がるほどのその実力、腐らせたくはないだろう? 君も怪人の側から、戦える環境を作っていくべきだよ」


 転落した人の話を初めて聞いた。ふーん、そんな風に考えるのか。

 随分、楽しそうに語るんだな。

 

「シズヤ」

「何だい?」

「意外と簡単でしたね」

「……もう変換できたんだ?」

「いえ」


 あたしは手を挙げたまま、パチンと指を鳴らした。


「あんたの隙を窺うことが、です」


 グャアッ、とシズヤはおよそ人間とは思えない悲鳴をあげた。

 手足をわななかせ、胸をかきむしって膝をつく。


 今頃、心臓付近にある魔道のコアが、ピンポイントで攻撃を受けているはずだ。


「君、ビームガンも無いのに、なぜ」

「さっき右足に撃ったのを、消さずに残しといたヤツだ」


 見つからないよう極限まで圧縮して、シズヤの近くに漂わせておいたのだ。成功するかは五分五分だったが、彼は持論を語り出した途端に隙だらけになったものだから、遠慮なく衝かせて頂いた。


「そんなこと、できるはずが……!」

「うっせ。できるんだよ、あたしは」


 さっさとビームガンを奪い返し、スーツも装着した。


 銃の状態を確認しながら、ヘルメットの陰でニッと口角を持ち上げる。


 ――確かにあたしも、自分の力を存分に活かしたいと思うよ。

 あんたが蛮行を繰り広げて子供たちの夢をぶち壊す前に、この手で片を付けてやろう、ってね。

 今ならいける。


「おらぁっ!」


 あたしの渾身の一撃は、銃口から吹き出した途端、何十にも枝分かれして華のように広がった。

 いっちょ、派手に決めさせてもらおう。


「じゃあな!」


 死ね、のハンドサインを振り向ける。

 一斉に膨らんだ瑠璃色の花弁が、鋭い切っ先でシズヤに襲い掛かった。


 怒涛の勢いで押し寄せる、玲瓏たる花の清流。


 聞くに堪えない咆哮が雨空に轟き、シズヤの体はマンションの谷底へと押し流されていった――。

 

 ☆☆☆


 後日、あたしは改めて試験を受け、めでたくシャインブルーとして本隊に昇進した。

 元ブルーは無事、地下牢に繋がれている。


 うん。死んでほしいとは思ったけど、殺しちゃいない。

 あたしの独断じゃ殺れないし、何より生け捕りにしたかったからね。


 あの時シズヤに死の恐怖を味わわせたあたしは、魔道で彼を縛り上げた後、仮想空間を解除した。

 天気も水気も高低差も奥行きも、何もかもなくなった白一色の部屋に、シズヤが泡を吹いて転がっていた。


 あたしは、あたしの夢がひとつ永眠したことを悟った。


 早く本隊に連絡して処理してもらおう……と考えていたら、赤と黄と緑の戦闘スーツの男らが駆けつけてきた。

 催眠が解けた受付スタッフが、すでに通報していたらしい。


 三人は到着するなり、あっというまに旧友のコアを破壊した。間近で目にする最高峰のパワーは、桁違いだった。

 レッド──天堂てんどう明良あきらは、「女性を危険に晒すなんて」と憤慨していた。やはりヒーローは紳士的である。


 もちろん、現在はレディではなく戦士として見てくれているわけだが。


 戦士――。

 平和な世が訪れたら、不要になる存在。

 あたしはそれでいいと思う。

 争いを好んで作り出すなんて、正義の味方はそんなことしない。

 平和のために力を使ってこそ、皆の憧れるヒーローだ。

 

「おーいブルー、怪人はこっちだぞ!」

 レッドが呼ばわっている。

「了解。今行く」


 あの日のシズヤの姿を、瞼の裏から追い払った。


 この青いスーツの記憶を、塗り替えてやろう。

 誰かの夢を照らせるような、大輪の花になるのだ。


 あたしは力強く地面を蹴り、晴天めがけて駆け上がった。

 

 



        ────「夢を照らせ」おわり

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