回想、3
それから僕はいろいろな事を教わった。
食人種は普通人間よりも寿命が長いこと。
14歳までは人肉以外も食べる事で普通の食事の味に慣れること。
食人はそう頻繁に行わないこと。
そして、食糧となる人間は罪を犯した、不幸な人間だけだということ。
それ以外の、特に幸福な人間はとても食べられたものではないという。食べて死んでしまった同胞もいたとか。
父さんは僕に自身の知識を全て教え終わると、その一年後に静かに永遠の眠りについた。最期の言葉を残して。
『お前が3歳のときに、俺はお前の母親を食べた』
大きかったはずの父さんは気がつけば枯れ枝のようになっていた。
*
その10年後くらいだったっけ。父さんの教えを忠実に守って生きてきた僕は1人の女の子を見つけた。手足が骨と皮しかないように細くて、足を少し引きずって歩いてたその子を。直感だった。食糧の匂い。犯罪者なんてそう簡単に見つかるものじゃなくて、1年くらい人間に飢えてた僕の第六感がビンビンに反応してた。
その女の子を家までつけて、しばらく近くで観察した。案の定、女の人のヒステリックな叫び声がした。僕の目は多分ぎらぎらしてたと思う。ドアを開けてするりと中に入って、二人の間に割って入った。もう慣れたもので、そのまま悲鳴をあげる隙も与えずに首を一捻り。
だらりと力が抜けた身体に僕は一心不乱にかぶりついた。久しぶりのご馳走に文字通り血湧き肉躍った。
満たされて残りの肉を持ち帰ろうと手提げに入れたときだった。ふと、視線を感じて振り返ると、女の子がじっとそこに立っていた。
静かな子だった。母親が喰われたってのに悲鳴一つ上げない。なんだかシンパシーを感じた。
「君、お母さんいなくても生活できる?」
静かに首を振る女の子。お父さんいないのかな。どうしよう。罪犯してくれなきゃ喰えないしなあ。
でも、この子の母親を奪ったのは僕だから責任は取るべきだよね。
僕はその女の子をうちに連れて帰った。
それが君だよ、サチ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます