回想、3

それから僕はいろいろな事を教わった。

食人種は普通人間よりも寿命が長いこと。

14歳までは人肉以外も食べる事で普通の食事の味に慣れること。

食人はそう頻繁に行わないこと。

そして、食糧となる人間は罪を犯した、不幸な人間だけだということ。

それ以外の、特に幸福な人間はとても食べられたものではないという。食べて死んでしまった同胞もいたとか。


父さんは僕に自身の知識を全て教え終わると、その一年後に静かに永遠の眠りについた。最期の言葉を残して。


『お前が3歳のときに、俺はお前の母親を食べた』


大きかったはずの父さんは気がつけば枯れ枝のようになっていた。








その10年後くらいだったっけ。父さんの教えを忠実に守って生きてきた僕は1人の女の子を見つけた。手足が骨と皮しかないように細くて、足を少し引きずって歩いてたその子を。直感だった。食糧の匂い。犯罪者なんてそう簡単に見つかるものじゃなくて、1年くらい人間に飢えてた僕の第六感がビンビンに反応してた。

その女の子を家までつけて、しばらく近くで観察した。案の定、女の人のヒステリックな叫び声がした。僕の目は多分ぎらぎらしてたと思う。ドアを開けてするりと中に入って、二人の間に割って入った。もう慣れたもので、そのまま悲鳴をあげる隙も与えずに首を一捻り。狩りの仕方これも父さんから教わったことだ。

だらりと力が抜けた身体に僕は一心不乱にかぶりついた。久しぶりのご馳走に文字通り血湧き肉躍った。


満たされて残りの肉を持ち帰ろうと手提げに入れたときだった。ふと、視線を感じて振り返ると、女の子がじっとそこに立っていた。

静かな子だった。母親が喰われたってのに悲鳴一つ上げない。なんだかシンパシーを感じた。


「君、お母さんいなくても生活できる?」


静かに首を振る女の子。お父さんいないのかな。どうしよう。罪犯してくれなきゃ喰えないしなあ。

でも、この子の母親を奪ったのは僕だから責任は取るべきだよね。

僕はその女の子をうちに連れて帰った。

それが君だよ、サチ。

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