回想、1
僕は生まれてから14年間、人間として生きてきた。いや、正真正銘人間だったはずなんだ。自身をそうでないと疑ったことなどほんの一度もなかった。そもそもそんな考えすら浮かばなかった。至極当たり前のことだったから。
ただ他のヒトより少しだけ感情に疎くて、少しだけ貧弱な、どこにでもいる少年だった。恋だの友情だのってヤツの熱に浮かされ始める同級生たちを見て、自分もいつかは、って密かに憧れてるような、そんな年頃。母親は物心ついたときから居なかったけど、父親がここまで育ててくれた。父子家庭だなんて今どきよくある話だろ?
無口だけど本当は優しい父さんで、たまに二人でゲームしたりしてた。学校に行けば仲が良い友達がいた。特段不満とかなかったし、普通の少年時代をおくることができてたと思う。14歳の誕生日までは。
あの日は教室でお調子者のかっちゃんがクラスメイトに誘いかけてクラス皆で僕の誕生日を祝ってくれた。プレゼントも貰って、少し浮き足立って家までの道を歩いたっけ。
うちの玄関の扉を開けたときだった、違和感を感じたのは。
いつもならまだ帰ってきてないはずの父さんの黒の革靴がきっちりと揃えられてそこにあった。ここまではまあ、息子の誕生日を祝う為に早く帰ってきたのかな、とか思って少しにやにやしちゃうくらいだけどさ。
見たことないハイヒールが脱ぎ捨ててあったんだ。父さんは几帳面だからこういうのうるさいはずなのに。それに、真っ赤なそれはどう見ても父さんが履くものなわけない。首を傾げた。
「ただいま、父さん帰ってきてんの?」
靴を脱ぎながら家の奥に呼びかける。返事がない。おかしいな。
不審に思っているとリビングの方からズズ、と何かを引きづる音がして、少しして父さんが顔を出した。
「……お帰り、《 》。荷物置いたらリビングへおいで。話があるんだ」
僕の誕生日のこと?プレゼントが買えなかったとか?いやでも、早く帰ってこれたってことは違うよなあ。
不信感はだんだん積もっていく。とにかく父さんの言う通りにしようと、僕は二階の自分の部屋に荷物を投げ捨ててリビングへ行った。そこには何があったと思う?
女性の死体が、床に転がっていたんだ。
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