第3話



長くて短いような廊下、物静かなもので自分の足音だけが反響していた。


閉まっていたはずの窓が一か所だけ空いていて、そこから運動場で部活を励む生徒の声が聞こえてくる。

豊かで当たり前で、安定のある日常。そんな日常が懐かしく思える。



 「失礼します、早坂先生はいますか?」



 職員室の扉を開け、担任の早坂を探す。数人の先生が居る中に早坂を見つけ会釈をし近寄る。



 「日誌、書き終わりましたので持ってきました」


 「お前だけだな、ちゃんと書いて持ってくる奴は。ん?もう一人は木本か・・・・」



 早坂は日誌を確認する際に今日の日直が誰だったのかを確認し、小さく呟いた。そして携帯を取り出し何かを打ち込んでいく。




 「木本はもう帰ったのか?」




 携帯をポケットにしまい、日誌に目を通しながら彼女のことを聞いてきた早坂。担任としてただ聞いてきたのだろうか。




 「いいえ、まだ教室にいるんじゃないですか?呼んできましょうか?」


 「ん?いや、聞いただけだから大丈夫。君も早く帰りなさい」




 そう言われ頷き、教室を出た。


廊下は静まり返り、ここには自分だけしかいないように思える。 窓ガラスが反射し、自分の表情が映し出される。いつも閉じているしか出来なかった口が口角をあげ喜んでいる。口元を抑え自分の考えは確信へと変わる。




 (木本彩夏は嘘をついている)




 一度なくした興味がペタペタと足音を立てて近寄ってくる。自分の手を握り『ただいま』と声を出し静かに消える。


帰るために靴箱へと向かおうと思えば手に鞄を持っていないことに気がつき教室へと戻るが、彼女はもういない。

椅子は引いた状態で置かれていて、手を椅子に置けばまだ温もりが残っていた。




 (興味深いな・・・・)




 鞄を手に取り靴箱へ行き靴を履き替える。念のため彼女の靴箱を開けるとまだ外履きの靴が入ったままとなっていた。

明日、彼女に会えること、そして自分の手で彼女を殺せることを居もしない神様に祈りながら、帰路へつく。


だが、この日を境に、木本彩夏は行方不明となった。




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