第2話
「私を殺してくれる?」
放課後、誰も真面目に書かないであろう日誌を自分は丁寧に隙間なく書いていた。そんな時に同じ日直で特に何もせず隣の席に座り携帯を弄っていた木本彩夏と言う女子生徒は、ふざけた様子で殺してくれないかと言ってきた。
「ねぇ、聞こえてたでしょ?私を殺してくれるの?くれないの?」
自分が何も返事を返さないことを不審がらず、そして彼女は彼女のペースで答えを急かしてきた。
「なぜ自分に?」
止めることを考えたが、まず先に、なぜ自分に殺してと話してきたのかが気になった。
なぜなら自分と彼女はクラスは同じでも会話するのは今が初めてだったから。
根暗で大人しい自分とは違い明るく常に笑顔の彼女。住む世界が違うと言っていいほど、違い過ぎる自分と彼女。なのにどうして彼女は自分に『殺してくれる?』とお願いするのか。
「あはは、やだ、そんな怖い顔しないでよ。綺麗な顔が台無しよ?」
彼女は自分の顔に手を伸ばし触れてきた。季節は真冬でもないのに、彼女の手は氷のように冷たかった。身をよじったり手を払うこともせず、彼女のしたいことをただじっと終わるのを待った。
「あなた、自分のことを俺でも私とも言わずに自分って呼ぶでしょ?そこに違和感を感じたの。だからあなたに殺してもらいたいの。それじゃだめ?」
可愛く小首を傾げ、上目遣いで自分を見てくる彼女は、世間一般で言えばとびきり可愛いのだろう。
だが生憎、自分には何も感じない仕草の一つなので、「分かった」と小声で了承した。 ただ一つ、なぜ殺されたいのか。その理由も気になり尋ねると、
「彼氏に浮気されたから」
くだらない返事が返ってきて、彼女に対しての興味が失せてしまった。だが一度了承したことを断ることは失礼な事だと考えている自分は断ることはしない。
日誌が書き終わり席を立ち彼女の傍へと近寄り両手を彼女の首へと触れる。手とは違い首は生暖かく生を感じることが出来る。ドクンドクンと脈打つ血がなおよしとする。
自分の行動に驚いたのか、彼女の表情は明らかに恐怖へと一変した。首に手をかけたまま、自分は彼女の瞳を覗く。黒球がユラユラと揺れて恐怖が彼女を飲み込み支配していく。
「木本さん、これが死だ。でもまだ序の口。殺すときは自分で決める。それまで生を楽しんで」
最後に彼女の震える唇に自分の乾いた唇を軽く押し当てキスを交わす。唇が離れる瞬間に彼女の柔らかくて綺麗な唇を一舐めした。顔が離れ彼女の瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。その表情を見て、
「とても綺麗だ」
そう彼女に伝え、日誌を届けるため担任のいる職員室へと向かった。
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