第23話
入れ込むモエを焦らすかのように、ドラゴンヘッドはゆっくりとキセルにたばこを詰めると、煙の中に我が身を漂わせるかの如くゆっくりとキセルを吹かした。
「今、その後の足取りを追わせているが…」
ドラゴンヘッドはモエの顔を正面で見つめながら、言葉を止めた。
「どうしたの」
「いや…この仕事を続けるには…あんたもわしらもそれなりの覚悟が必要になりそうだ」
「どういうこと」
「厄介なな奴らの顔が見え始めた」
「この香港であなたたち以上に厄介な人たちがいるのかしら」
ドラゴンヘッドはモエの皮肉にも反載せず、話し続ける。
「あんたの息子さんの街歩きを尾行しているやつがいてね…それが中国人民解放軍総参謀部第二部の連中だとわかった」
「誰それ」
「いわゆる中国のCIA(Central Intelligence Agency/中央情報局)みたいなものさ」
「えええっ!」
「いくら日本総領事館が依頼しても、香港警察の捜索が遅々として進まない理由がなんとなくわかってきたよ…」
ドラゴンヘッドの言葉に、モエは腕組みをして考え込んでしまった。
「いずれにしろだな…」
ドラゴンヘッドがずる賢そうな目でモエの思考を中断させる。
「本土の役人が絡んでいるとなると、かなり危険だ」
「なによ…おじけづいて仕事を放り投げる気」
「いや、わしらが一番嫌うのは、わしらのシマで、本土の奴らに好き勝手されることなんだよ。しかしな…」
「しかし…なに」
「必要経費がもっと必要になる」
「なによ、ここにきて値段を吊り上げるのは、フェアじゃないわよ」
「いや…死人が出てもおかしくない仕事だってわかったのだから、危険手当を要求するのは当然だろう」
ドラゴンヘッドが平然と放つ言葉に、モエは背筋が寒くなる思いがした。彼女は息子もこの仕事に関わる人も、誰も死んでは欲しくない。
「それとも、もしあんたがもうここでやめて欲しいというなら、話は別だが…」
ドラゴンヘッドは意地悪な顔で彼女に問いかけた。
「ドラゴンヘッドさんに会うとなった時から、とっくに覚悟はできているわよ」
モエは背筋を伸ばして毅然と言い返す。
「ますます頼れるのはドラゴンヘッドさんだけって状況なのだから…ドラゴンヘッドさんの仲間も、誰も死ぬことなく、生きた息子に再会できると信じているわ」
なにが相手であろうと、ここでやめるわけにはいかないのだ。
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