第9話 悲運の女
―ザーラムの南街道―
青空の下、一本の道を走る馬車。
その日は馬車の中で揺られていた。と言っても、俺達の馬車が完成するのはまだまだ先だ。その日乗っていた馬車はクエストの都合で乗った馬車だった。
俺達はとある豪邸で要人警護の依頼を受けた。それはザーラムの遥か南の帝都からの護衛だった。
護衛対象の詳細は聞かされていない。何もかもが極秘だった。依頼のきな臭さは俄然高くなり、話を聞いた時点で既にクエストを受諾するかしないかの選択肢はなくなっていた。
ただ、帝都からザーラムまでの間、要人を護送する馬車に乗り警護を頼みたい・・・と。
聞けば、特に護衛が必要な状況にあるだとか刺客を向けられているだとかそんな事はないという。だが、『念の為』護衛に当たって欲しいと言う内容だった。
「聞けば聞くほど怪しい依頼だったよなぁ」
俺は馬車の中で御者に聞かれないことを確認したうえで周りに洩らした。
「極秘の要人警護、だからあまり公にはされたくないんでしょ。私の時代にもよくある話。要人がお貴族様なのは間違いなさそうだけれど、詮索しないほうが身の安全よ。知られたくは無いから情報開示をしていないのだから」
エルルが真剣な表情でそう語る。語る当人もそのお貴族様のようなものなので、依頼人の事情とやらは鑑みるようだった。
「だってよぉ、『何も危険はありません』て言うのに『護衛をお願いいたします』だぞ?」
俺はなんとなく気乗りしない理由を仲間に告げる。チムチムは黙って話を聞いている。
「貴族ってのはね、面子や体面も大事なの。遠出の際に大勢の付き人をつけたりするのも世間体の為でもあり、家柄、家格の誇示でもあるの。護衛というのもそういった形骸化した風習の名残で依頼している事もあるのかも」
古代の時代に既にそんな話が形骸化しているのに、その名残を現代でもやっているのなら問題なんじゃあないかと思いつつ、なんとなく説得力のある話に俺は納得しかけていた。
「・・・であるならば、極秘での依頼と言うのは気になる話なんだけどね」
と、エルルはやはり気になる点を付け足した。
「考えても、仕方ない。今、休む」
チムチムは思考放棄してくつろいでいた。
「考えてもわからないのは確かなんだし、俺もチムチムを見習うかぁ」
俺は馬車の席でゆっくり背伸びする。遠出とはいっても馬車の中で揺られているだけなので、これだけでもお金がもらえるのなら楽なものだった。
今回のクエスト。特に道中で何も無くても賃金保証はある。なんとも美味しいクエストだった。この点だけ見れば貴族の面子の為の人員と言われても納得するだろう。
前回の事もあり、出来る限り安全なクエストをしたかった。そもそもが冒険者稼業と言うギャンブラーな業界から脱却するのが一番だと考える。しかし、その為に翻訳出版を生業にしようと画策したが、この世界にはコピー機のような便利なものは無いので、出版物は手書きの写本だった。出版で稼ごうと考えたらかなりの労力を費やす。短い夢だったと落胆した。よって、今回の楽して儲けられるかも、はありがたいクエストだった。
―帝都グランフェルム―
大草原沿いにさらに南下した先に大きな町が見えてきた。大きな丘の上には巨大な城があり、この地方で一番大きな町であることを示していた。
「ここが帝都グランフェルム・・・」
俺は馬車の窓から外の景色を眺めた。炭鉱の町ザーラム以外の街を見るのは初めてだった。石造りの町並み。大きな門。活気ある市場。人通りの多い大通り。どれをとってもザーラムより遥かに活気があった。
「ほぇー、私の居た時代にもここまでの町並みはなかったよ」
「チムチムも、こんな大きな町、知らない」
エルルもチムチムも感心している。
俺達を乗せた馬車はどんどん進む。目的地は聞かされていない。このまま黙って乗っているしかなかった。
「やっぱり馬車があると便利ね」
エルルがぽそっと呟いた。
徒歩なら大草原まで半日。それが馬車なら半日足らずで街まで着いた。途中の街道もほぼ何も無く、殆ど疲れも無いままで長距離の移動が可能となる。荷物も多めに持てる。今後この世界を旅するならば、必ず必要になる予感がある。
「馬車かぁ。RPGらしくなってきたじゃねーの! 船を買えれば冒険も中盤かなぁ」
となれば、飛行船とかの類も欲しくなると言うものだった。
「なにそれ。中盤とか何基準?」
「いやなに。こっちの話さ!」
乗り物があれば通商ギルドに所属して交易を行えるようにもなる。それならそれで冒険の幅が出来るし、もっと世界中を冒険するのも楽になる。
俺は先の事を考えながら期待に胸を膨らました。
「まずは、今日の、お仕事」
チムチムがぴしゃりと言った。確かに今日は今日のクエストがある。まずはそれを無事に終わらせなくては。明日以降のことはそれからだ。
そうこうしている間にも馬車は進む。そのうち馬車は一軒の立派な館の敷地へと入った。
―帝都の豪邸―
それはザーラムの豪邸よりさらに立派な装飾の施された大きな館だった。敷地の中には大きな庭園や噴水もある。傍目にもかなりの富豪が住んでいるのでは? と思えるような屋敷だった。
「お館様にお目通りしてきます。あなた方はこちらでお待ちを」
御者はそういうと馬車を降りて館の中へと入って行った。
「私達はどこまでも事情はわからないようにされているのね。まぁ、館の主と面識をもてないのは残念だけれど仕方ないわね」
「あくまでも雇われの人間ってスタンスでいいのかな」
「理解が早いわね。そのほうが雇用主から好まれるでしょうね」
体面の為で雇われているならば、臨時でも問題はないだろう。ならば今回の仕事で上の方とコネクションを持つのは難しそうだった。
一時間ほど後・・・。
馬車の後部がガシャリと開けられる。俺達は馬車から降りた。
執事と幾人かのメイドさんが出迎えてくれた。その先頭に立つのはアップシニヨンのロングヘアーの白銀の鎧を着た、見た目麗しい女性だった。
その白銀の鎧を着た先頭の女性が周りの使用人達を労う。
「皆の者、長らく世話になった」
使用人達が深々と礼をする。
「そんな、お嬢様。私達にはもったいないお言葉・・・」
使用人達を指示していた老紳士の執事が深々と礼をする。
「いや、かまわん。私はもうここには戻ってこれないだろうが、私はお前達のことを決して忘れん・・・」
使用人達は目に涙を浮かべ、各々が別れを惜しんでいる。
と、白銀の鎧を着た女性はくるりと振り向き、俺達のほうを見た。
「あなた方が私の護衛か。私はカルパサッティーナ。よろしく頼む」
カルパサッティーナが軽く一礼をする。俺達もみな名を名乗り一礼を返す。
その間にメイド達が彼女の荷物らしきものを馬車へと積み込んだ。
やがて御者が現れた。
「今からならば、日が暮れる頃にはザーラムに着くでしょう。皆様方はその間の護衛を頼みます」
御者はそういうと御者台に座った。カルパサッティーナが馬車へ乗り込む。俺達も後に続いた。
元来た道を帰る。時間はまだ正午を過ぎたくらいと言ったところだった。今日は早朝にザーラムを出た事を考えれば日帰りで行って帰って来れそうだった。だから、行きは何事も無かったこともあって、帰りも楽勝だろうと俺は考えていた。そう。俺は甘かった。あまつさえ現実で死亡事故に遭い異世界転生した俺がいるのに、これで何事も無く終わってクエストの賃金だけ貰い丸儲け、何てことになるはずが無かった。そして俺以上のハードラックの持ち主が居ると知っていたら、帰り道こそ全力で警戒していたはずだった。
帝都を出るまで、カルパサッティーナは終始無言でただ座っていた。彼女はどこか全身から重苦しい雰囲気を漂わせていた。
―ザーラムの南街道―
曇り空の元、一本の道を走る馬車。
行きと同じように帰りも馬車の中で揺られていた。
行きと異なるのは馬車の中が無言だったからだ。馬車の中にはカルパサッティーナが居る。護衛対象が居る間ははっきりと任務時間だと言う意識はあった。
護衛対象が無言のままなので、必然俺達も無言になった。
気がついたら外は雨がぱらぱらと降り始めている。
と、ゴロゴロゴロ! と雷の音が聞こえてきた。
「あれぇ、今日はずっと青空のままだと思ったのに、雨が降ってきそうだぜ」
俺は無意識に沈黙を破った。あからさまな雷の音に驚いてしまったからだ。
「今の音はどこかに雷が落ちた音だよね」
エルルも馬車窓から外を見ながら言った。
馬が雷に驚いたのか、気がついたときには馬車が止まっていた。
「この季節に雷とは珍しいな」
カルパサッティーナも口を開いた。どうやら全く会話をしてくれないわけではなさそうだった。
「カルパサッティーナさんはザーラムへ来た事は?」
俺は思い切って彼女に聞いてみた。
「いや、ない。私のことは・・・そうだな。これからはカルナと呼んで欲しい。貴公らとは今回限りの間柄かもしれないが、同じ町に住む事になるのだから、少しあの街の話でも聞いておくか」
彼女はそう言った。俺もエルルもチムチムもザーラムの住民ではないので詳しくは答えられ無いかも、と思いもしたが。
「ねぇ、カルパサッティーナさんは何て言ったの?」
エルルがそう俺に尋ねた。
「おや、そちらの女性は古代語で会話をされるのか?」
カルナがものめずらしげに古代語で聞いてきた。
「うん? えぇ、そうです。私の日常語でして」
エルルが少々驚きつつもそうカルナへと返事を返した。
「カルナさんは古代語も話されるんですか」
俺は少々敬語気味でカルナへと返事した。
「あぁ、私とは敬語を用いなくてもいい。そういうシシトウ殿も古代語で話されるではないか。古代語は魔術師達の基本言語でもあり、貴族達には教養の為の言語でもある。当然私も古代語は少々嗜んでいる身」
彼女の話しぶりから察するに、俺が疑問系的な返事を返したのは少々無礼だったのかもしれない。が、謝ろうとしたらかえって彼女が『遠慮は要らない』と返してきた。
と、御者が小窓を開けて話しかけてきた。
「もうしわけございません、お嬢様。先ほどの落雷によって木が倒れ、この先の道が通れなくなっております。少々遠回りいたします」
平坦な一本道は倒木で通れなくなっていて、林を遠回りしていく形となった。
「かまわん。いつもの事だ」
御者がカルナの言葉を受け、また元の席へと戻って行った。
俺はカルナがお嬢様と呼ばれた事で、彼女の身分をなんとなく思い出した。彼女は腰に帯剣していたが、今は剣を壁に立てかけていた。その剣の柄の紋章が削られている。
「ん? あぁ、この剣が気になるか。これはさるお方より頂いた宝剣。今は訳あって私が所持しているが、この世に二振りとない優れものよ。私にはなんともったいない事か」
俺の視線に気がついてカルナが答えた。
「ところで、先ほど御者に『いつもの事だ』と答えていたけれど、どんな意味ですか?」
俺はカルナが諦めたようにそう言っていたので尋ねた。
「あれか。あれが偶然にしか起こらないであろう出来事であっても不運のこの身。不幸な偶然の出来事ほど私が原因でそうなったのではないかとそう思うのだ」
聞けば彼女は生まれつき運が非常に悪く、周囲ごと度々危険にさらす事も珍しくは無かったらしい。俺もエルルもチムチムも半信半疑でしか聞いていなかった。
それは彼女の側に居る事によって、これでもかと再認識させられる事になるのだが。
しばらくして御者がまた小窓を開けてきた。
「もうしわけございません、お嬢様。土砂崩れによって、この先の道が通れない様子。少々荒れた道を通りますがよろしいでしょうか?」
「かまわん。いつもの事だ」
カルナは腕組みしてそう答えた。
馬車がごとごとと進んでいく。多少道が平坦でなくなったのもあり、乗り心地が少々悪くなった。
どうやら当初の一本道は倒木で使えなくなったので、林の道を行こうとして土砂崩れで使えなくなり、森の中の道を行くようだった。
と、森へ入ろうとした時の事。
「皆様方、盗賊でございます!」
御者が叫んだ。
心の準備をしていなかった事もあって俺達は驚いた。
「よし、貴公ら。私も出るぞ!」
カルナが宝剣を手に携えて馬車を飛び出した。俺達も慌てて後に続く。
―名も無き森の入り口―
森へ続く道の入り口で馬車が止まる。
進行方向には5人の盗賊が立ちはだかっていた。
Battle Encounter! 「盗賊×5」
動物の毛皮などで作った鎧を着込んだ男達がみなショートソードやロングソードを抜き放ち、周りを囲んでいた。
こちらはカルナが先頭に立っていた。
「盗賊風情に見せるようなものではないが、冥土の土産に持っていくが良い。我が剣、そして我が剣技、名乗る事は許されぬが、もとより貴様らに名乗るほど安い剣ではないわ!」
カルナは剣を抜き放ち、右に左にくるくると回転させながら前口上を述べた。彼女の持つ剣の刀身から淡い光が輝く。
「・・・これはブレイブ・パフォーマンス!」
エルルがそう小さい声でささやいたのが聴こえた。
後ほどカルナ自身から詳しく聞く事になるが、物理職が使うアーツと言うものの一つのようだ。演武を行いながら相手を挑発し、敵の意識をひきつけて囮になる技らしい。後衛を守るために使うのが一般的なとても献身的なアーツだった。
3人がカルナを取り囲む。残る2人が後衛の俺達のほうへと向かってきた。
「貴公ら、残る者達は任せた!」
集団戦の火蓋が切って落とされた。この状況下での最善は・・・俺はチムチムと目配せしあう。
「これでも食らいやがれ!」
俺は即座に一人の盗賊に矢を放つ。もちろん狙いを外すなんて真似はしない。無意識に急所は外して右肩と左足に当てた。矢に貫かれた盗賊は武器を取り落としてその場にしゃがみこんだ。
「やったぜ!」
「逆境にありて、尚尽きぬ、燃える闘志よ、我が敵を焼き尽くせ、ファイヤアロー!」
降り注ぐ雨などモノともしない極大な炎の矢がもう一人の盗賊に襲い掛かる。
・・・不運なのは狙われた盗賊だろうか。明らかに大ダメージを負って戦闘不能となったようだ。
残るはカルナがひきつけた3人・・・は彼女の風のように軽やかですばやい剣技であっという間に、ばったばったと薙ぎ倒されていた。明らかにレベルの違いを感じた。
カシャン、とカルナが剣を鞘に収めた。
「盗賊と遭遇するは我が不運。だが、私は自らの不運を己の力で退けてきた。今回は貴様ら盗賊の不運であったな?」
カルナは倒れた盗賊らを見下ろしながら勝ち誇った。
Victory! Result 「ショートソード×2、ロングソード×3、獣の皮鎧×5」
行きがけの駄賃ではないが、討伐しても報奨金が出る保証は無かったので、盗賊たちの身ぐるみをはいで装備を取り上げた。
そして全員縛り上げて馬車へ放り込んだ。
「こんなやつらでも討伐すれば少しはこのあたりも平和になる。それはひいてはあのお方の為でもあるならば、私はいかなる苦難もものともしない」
カルナは盗賊たちへ向けてそう言った。それは果たして誰に向けた言葉であっただろうか。
気絶(一人はやけどで重傷だった)を乗せて、馬車はザーラムの街を目指す。
「誰も怪我しなくて良かったわね。私の神聖魔法はこんなやつらの為にあるわけじゃないと言いたかったけれど、治しておいたわよ」
エルルの神聖魔法のおかげで特に重症患者含め、盗賊たちの怪我は致命傷とはならずにすんだ。盗賊とはいえ人間相手に温情をかける。さすがに聖職者だ。
「そうか。エルル殿はプリーストか」
本当はハイがつくほうだが黙っていた。それも、死者さえ蘇生するほどの。
「シシトウ殿はハンターで、チムチム殿はウィッチか。・・・ふむ」
カルナはなにか考え事を始めた。
ごとごと走る馬車。気がついたら外は晴れ始めていた。
しばらくして馬車は森を抜けて、遠くに見慣れた街の風景が見える場所に来ていた。
「(いろいろ遭ったけれど)何事も無くてよかったな」
俺は誰にとも無く呟いた。
―炭鉱の町ザーラム―
捕らえた賊を官憲に突き出して、褒賞をいくばくか貰った。
「ん? 私か? 私は不要だ」
カルナは金貨袋に興味なさそうに言った。
Result「3000G(褒賞)+1500G(盗賊の装備品売却分)」
盗賊の身ぐるみを剥いだ売却価格もそこそこの実入りだった。・・・生活に困ったら賊を追いかけるのも良さそうだな、と思わなくも無かった。
「不運に見舞われたけど、結果的に良かったな」
俺はそう思った。
「そういうものなのか?」
その時カルナが不思議そうに呟いたのに、俺はさほど気も留めなかった。
「それに俺達のパーティは後衛しか居ないから助かったよ。これからも居てもらいたいくらいだ」
カルナは俺の台詞を聞いてしばらく考えていた。
―ザーラムの名士の館―
始めに要人護衛の依頼を受けた館まで戻ってきた。
馬車から降りると、館の給仕達が現れて俺達をもてなしてくれた。
「これはこれは、カルパサッティーナ様」
町の名士が様付けでカルナを呼んでいた。
「お前か。これから世話になる・・・と言いたいところだが、私はこの者達としばらく行動をともにしようと思う」
カルナは町の名士にそう告げた。
「・・・よろしいのでしょうか。その・・・」
名士が返答に困った。それもそうだろう。彼はカルナの後見人に世話を頼まれていたのだ。それが急に冒険者達と行動を共にしたいなどといわれても、はいそうですかとも言えない。
「なに、かまわん。もとよりこれは『私の気まぐれ』であって、元々面倒ごとを抱える事になった『そなたの責任は一切問われぬ』から、気にするな」
カルナはことさら台詞の一部を強調しながら名士を説得した。
背後関係に何があるのか明確にされていない以上、俺達は口を挟みこめない。
が、パーティのメンバーになる、と言う以上はこちらも何かしらは言ったほうが良さそうだが、先ほど俺が『これからも居てもらいたいくらいだ』と言った手前、今の流れがあるのならば、なんとも口を挟みがたい。
「まぁ、そこまでおっしゃられるのでしたら・・・」
名士は肩の荷が下りたと言わんばかりに安堵しながら言った。
―ザーラムの通り道―
冒険者ギルドへ向かう道すがら、俺達はカルナと話しながら歩いた。
「なかば私が強引に決めてしまったようですまないが・・・」
カルナはばつが悪そうにそう語る。
「気にしないで。元々シシトウがパーティに勧誘したようなものだから」
エルルが俺に向けてそう告げた。確かに、そのような会話の文脈が無かったとは言い切れない。
「そう。俺達には念願の前衛職ってわけだし、ありがたいよ」
何より彼女にレベルがあるならば、俺達より一回りくらいは上だろうと感じる。
盗賊相手には全く本気になっていないと言うか、余裕で倒していた。
「それは嬉しいが、私は生来運が悪くてな。もしかしたら迷惑をかけるかもしれない。今日の災難も本来は何事も無くこの街についていたかもしれないところを、あそこまで様々な出来事に遭遇したのやも知れぬのだぞ」
「あぁ、結果として盗賊に遭遇したが、結局はそれで臨時収入も得られたわけだし、冒険者としてはむしろありがたいほうかもな」
カルナにはゲームで言うところのエンカウント率上昇でもあるのだろうか。それならそれで、討伐系クエストが楽になるのではないかと考えてしまう。
「であれば、今後ともよろしく頼む」
カルナはそういうと嬉しそうにほほ笑んだ。その瞬間は、白銀の鎧を纏った騎士さながらの格好でありながら、どこか令嬢を思わせるような雰囲気を感じた。
俺達は彼女の背後関係などは詮索しない方針で、彼女のパーティメンバー入りを歓迎した。
尚、冒険者ギルドでの彼女の水晶球診断結果。
彼女は類まれなる技量を兼ね備えた戦士。自己申請どおり、運は人類史に名を残すレベルで不幸な人という評を得た。
彼女の職業は本来、中級あるいは上級職も可能だったようだが、彼女はなぜか辞退し下級職に留まった。
その理由も後々彼女の素性と共に明らかになったので、俺達は誰も彼女に不服は言わなかった。
そう。俺はゲーム思考でしか考えていなかった。職の上下というものが、必ずしも上の方が望ましいとは限らない事に。そんな事がわかるのはまだ先の話だ。
第10話へと続く
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