第7話 危険と隣り合わせの世界

―商店街通り イサノバ―


 その日、俺とエルルは商店街を歩いていた。


「馬車って色々あるんだなぁ」

「荷馬車や幌馬車などがあるし、積載量も異なるから。馬もきちんと見繕わなきゃ」


 前回必要と感じた馬車を探して歩いていた。


「予算はあるんだが、その中で買えそうな物と言ったら限度があるのがなんとも」


 安い馬車なら30,000Gからあった。だがそれらは荷馬車だった。


「後はオーダーメイドで作る方法くらいかしら。あれなら必要な機能だけを持たせた馬車を持てるようになる」

「てことは、しばらくは馬車無しでの生活になりそうだなぁ」


 二人で考え込む。


「後々後悔しないような買い物をするなら、一点もののオーダーメイドが一番だと思うの」


エルルは高級嗜好なんだろうか。


「じゃあ、冒険者ギルドに広告を出していた業者に頼んでみるか。以前、中堅冒険者向けに馬車のオーダーメイド広告が張り出されていたから。受付のお姉さんか給仕のお姉さんに聞いてみるよ」


俺は冒険者ギルドの広告を思い出しながらそう言った。


「ギルドの友好関係を重視するのね。それも賛成。所属組織と親しい組織と懇意にするのも、長期展望を視野に入れれば有効だから」

「エルルはいつもそんな方向からも物事を考えているのか?」

「元々組織間のやり取りをも決定する職業に居たから。こう見えても執政の中級スキル持ちです!」


 エルルが胸を張った。確かに大神官と言う位に居たのが確かならば、そのような立ち回りを求められていてもおかしくは無い。依然聞いた話では、あとは鑑定眼あたりの基礎スキルがあると聞いた。だから馬車探しに付き合ってもらっていた。


「じゃあ、今日の買い物はこれくらいだな」

「後は道具屋」

「え、何を買いに?」


俺は思わず訪ねた。他に入り用なものを思い出せなかった。


「一番消耗が激しい薬草。あれは前回の冒険で価格以上の価値を学んだから」


 俺は薬草の効果を見誤っていた。ゲームのようにHPが一気に回復するような効果を期待していた。実際には滋養強壮に効果満点で、スタミナ回復に大活躍の品物だった。

 期待と異なっていた為に落胆したが、前回はそれなりの距離を旅した為、野宿の間の疲労回復と言う実際に旅をしなければわからないような状況下で、その効果を実感したのだった。


「前は先輩冒険者に貰ったんだったな」

「前回は好意に甘える形になってしまったけれど、ギルドで一人前のパーティに認められる為にも必要なことは自分達できちんと行いましょう」


 元々教導的な立場に居る人間だったのだろう。公の場、という舞台において、彼女はかなりの人格者なのではないだろうか。最初はジェネレーションギャップ(世代と言うより時代)での価値観の違いを感じることもあったが、彼女は今の時代の一般通念を推し測り、適切な判断をするようになっていっていた。俺も必要に迫られてこの世界に適応を求められたが、それは彼女も例外ではなかったようだ。

 そんな古代人は道具屋方面へと向かう。


「あー、それなら俺が立ち寄って買って帰るよ。エルルはもう自由行動でいいんじゃないかな」


 俺はやる事もないので道具屋に立ち寄ってから帰ることにした。


「そう? じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら」


 エルルはランラン♪と上機嫌に商店街を歩いて帰っていった。さて、俺はもう少しお店を見て回るとしますか。

 鉱山が主力産業の商店街は大いに発展していた。鉄製武具の取り扱いは豊富なようだ。蹄鉄などの馬具の生産も盛んである為、馬車の製造業も発展しているらしい。


「薬草はこんなものでいいかな」


 買い物袋に一杯の薬草。用事も済んだので、拠点として使っている掘っ立て小屋まで帰ろうかとしたところ、見覚えのある姿が目の前を通り過ぎた。


「・・・ん、チムチムじゃないか。どうしたんだ、こんなところで?」


 チムチムは一枚の紙切れを覗き込んで歩いていた。


「シシトウ、チムチム、人探している。だけど、道迷った」

「んー? 俺でよければ手伝おうか?」


 俺はチムチムの持っていた紙を見る。手紙のようだった。


「この街、チムチム、親戚いる。挨拶、行こう、思った。場所、よくわからない」


 俺は彼女から目的地を聞いた。どうやら中層居住区という場所に居るようだ。名前を見た事はあったが、行ったことが無いので場所がわからない。


「街の中央付近の住宅街らしい。俺も同行しよう」


 俺はチムチムと町の中心部へと一緒に向かう。道中、人に道を訪ねながら目的地を目指した。


「そういえば、チムチムはどうしてこの街に来たんだ?」


 歩きがてら、チムチムの事を聞いてみた。


「チムチムの部族、大人になったら、外の世界、修行の旅、する」

「武者修行の旅をするのか。みんな魔法使いなのか?」

「魔法使い多い。けど、戦士、弓使い、色々居る。チムチムの一族、みんな魔力高い。親戚も、魔法使い。外の世界、歩かないと、新しい魔術、入ってこない。みんな、新しい、魔法、見つけて戻る。・・・チムチム、新しい魔法、覚えるの、苦手」


 彼女のステータスは間違いなく魔力全振りで知力を上げなかったケースなのだろう。なんとなくだがそんな気がする。俺も割り振れる総パラメータがわかっていればそうしていたかも。この世界での俺は平均振りみたいなものだ。・・・学業は程ほどに行っていたから知力はそこそこに高いと言われたんだろうが、水晶球みたいなものが俺の世界にもあったら間違いなく極振り人生を目指すと思う。


「俺、そこそこに勉強しかしてこなかったから、水晶球診断じゃあ何もなれないって言われたんだぜ。何か職業持てる人がすごいと思うよ」

「チムチム、生まれつき、魔力高かっただけ。・・・シシトウ、戦闘職ではないが、セージ、なれるかも」

「ん? セージ?」

「勉強できるなら、学術院で、セージ、目指せる。コモンスキル、博学の基礎、収める。スキル習得すると、なれる資格職」


 なにか受験勉強をやる羽目になりそうな話だと感じた。資格職・・・そんなものもあるのかと思った。


「戦闘職ではないけど、なれる職業はあるんだな」


 チムチムは頷いた。雑用から卒業は可能か。


「セージ、あらゆる文化、道具、魔物、精通する。後、シシトウ、語学力、神がかり。凄い。探検家、なれる。どこでも、行ける」


 謎の語学力は俺の努力じゃないし原理不明だが、これも役得というやつだろうか。有効利用しない手は無い。


「博学の基礎スキルを習得すればいいなら、早速師となる人を探したいな」

「師から学ぶ、内容。普通、3年かかる」

「え、いつもの感じで覚えられないのか?」


 チムチムが頷いた。


「だから、資格職、なれる」

「・・・まぁ、考えておくよ」


 3年。頑張れば夢のセージ職生活。たぶん堂々と後衛を張れる。何だ、このパーティ後衛しかいなくなるじゃないか。


「セージも後衛職になりそうだから、俺はみんなをサポートできるような中衛を張れるポジションを目指すよ」


 攻守、回復サポートもこなせる万能職をそのように言うと知っていれば、こんな事を言わなかったかもしれなかった。


「シシトウ、かっこいい事、言う」


 攻守、回復サポートをこなすようなやつなんて、それこそ勇者ヒーローとか魔法戦士ルーンファイター神官戦士パラディンみたいな最上位職を言うようだ。


「え、そうかな?」


 俺はサポート役を目指そうと言う謙虚な点をかっこいいと言われているのだと勘違いしていた。

 そんな会話をしながら歩いていたら、目的の中層住宅街に辿り着いた。


―中層住宅区―


 街の機能の中枢を担う者達が多く住まう住宅地。それぞれの組織の役職を担う者が良く住む場所のようだ。


「もしかして、チムチムの親戚の人ってどこかのお偉いさん?」

「魔術ギルド、中間管理職」

「へー、いろんなギルドがあるんだなぁ。チムチムは魔術ギルドに行かなくて良かったのか?」

「学術研究、苦手。冒険者ギルド、良い」


 どうやら彼女の都合的にも俺達のギルドが良かったようだ。


「チムチム、故郷に錦、飾る。期待、されている」


 チムチムがぐっ、と拳を握る。勉強が苦手なんて言っていて良いのだろうか?


「俺でよかったら協力するよ」


 俺は文化や価値観の違いを感じながら、今の自分は何を目指そうと考えていた。

 と、そこで手紙の差出人の住所の付近に着いた。


「ところで、手紙の住所はこの家のようなんだが・・・随分大きい家だなぁ」


 門構えの立派な家の前に着いた。チムチムが表札を見る。


「ここ、間違いない」


 俺達が入り口をノックしたところ、使用人の老婆が顔を出した。


「どなたさまでしょう? お客様でございましょうか?」


 チムチムが持っていた手紙の差出人を見せる。


「おお、ようこそいらっしゃいました。主様のご親戚でございましたか。主は自らの研究の為、北の山を目指されましたが・・・中々戻られないご様子。もしやと思い、捜索願を出そうか迷っておりました」

「なんだって?」


 聞けばチムチムの親戚の人は、北の山の湖に採取クエストに行ったらしい。


「チムチムの部族、みんな行動的。人任せ、あまりしない。きっと、自ら行った。大丈夫、思いたい」


 話を聞く限りは腕の立つ魔法使いのようだった。魔物にやられたとは思い難いが。


「わかった。チムチム、探しいく」

「・・・エルルにも相談しよう」


 俺達は支度を整え、使用人が言った北の山の湖を目指すことにした。


Quest Set! 「チムチムの親戚を捜索せよ!」 Get Ready? ………Go!



―北方の森―


 遥か彼方にはファイアドラゴンが住むという険しい山が遠方に見える森の入り口。ザーラムの北に位置し、うっそうとした森はきこりや炭職人がまばらに住む程度で、殆ど人は居なかった。


「魔物はそれなりに出る、との事。先輩冒険者談」


 俺はギルドで聞いてきた前情報を二人に伝える。


「まさかと思うけど、チムチムの親戚が魔物に襲われた、と?」


 エルルが尋ねる。


「わからない。けど、魔物、負ける、思えない」


 チムチムは親戚の人の力を信頼しているようだった。魔術ギルドの中間管理職らしいので、強さは申し分ないようだ。


「何かはあったようだな。ともかく急ごう。帰る予定より一日過ぎ去ったらしい」


 俺達は森の中を進む。まずは山奥にあると言う湖を探す。


「この間のエスクワイアほど草や木の種類は豊富じゃないようだな」


 俺は辺りの様子を観察した。街の近くの森はもっと彩りがあった。


「南方の草原や湿地に近い森は他からの動植物が入り込むから、その認識で間違ってはいないはず。と言っても、この間のような草の魔物が出ないとも限らないし、注意は必要でしょうけど」


 多少の草の魔物なら、チムチムが何とかしてくれそうだ。戦力増強の恩恵は大きい。今回も俺が前衛、中衛だ。他二人が後衛をカバーする。他、捜査犬としてバウエルが道中をフォロー。使用人から預かってきたチムチムの親戚の私物をもとに、捜査犬がどんどん先導して歩いた。


「いまのところは、湖の方角に真っ直ぐ歩いているけれど・・・」


 リードの先のバウエルは何かを探すように前へ進む。俺達は獣道と間違えそうな程に狭い道を進んでいる。

 と、1時間ほど歩いた頃であろうか。森が開けて大きな湖が見え始めた。


「ここが目的地か・・・ん?」


 湖を見渡したところ、何か黒焦げたような物体が転がっていた。


「なんだこれは・・・大きな熊?」


 俺は大きな熊のむくろを調べながら言う。


「だとすると、キラーグリズリーかしら。巨体を誇り、並みのハンターでは太刀打ちできないと言う山の支配者」


 その巨大な熊は、何か炎のようなもので倒されていた。状況から察するに、チムチムの親戚が倒したのではないかと思える。


「まだ付近にいるかもしれないな。探してみよう」


 と、捜査犬バウエルに任せるように進んだところ、湖を回り込むように迂回した先に山小屋があった。


「ん、あれは・・・行ってみようか」


 俺の言葉に二人は頷いた。



―北方の森 湖のほとりの山小屋―


 山小屋の中には3人の人間がいた。

 一人はベッドで横たわる男。もう一人は狩人のような女性。もう一人は大きなロッドを持った魔法使いのような格好の、牛乳の瓶底みたいな丸眼鏡をした女性だった。


「サリアリ!」


 チムチムが女性に話しかけた。


「チムチム! どうしたの、こんなところで?」


 その質問は俺達も相手にしたかった。


「屋敷の人にあなた達の帰りが遅いと聞いて、探しにやってきました」


 俺はサリアリと呼ばれた女性の疑問に答えた。


「予定より帰りが一日遅れてしまったからな。心配もされるか」


 狩人の女性が話しに加わった。


「私達、湖のほとりで採取中に魔物に襲われたの。キラーグリズリーは倒したんだけど、ジャイアントスパイダーの麻痺毒に道案内の人がやられちゃって・・・」


 ベッドに横たわる男を見た。


「自然治癒に任せていたの」


 サリアリが付け加えた。エルルは言葉がわからないので、俺が翻訳した。


「あら、そちらの方は古代語で話されるの?」


 サリアリがものめずらしげに俺とエルルの成り行きを見ていた。


「エルルなら、麻痺毒も直せるみたいです」


 俺の言葉に、サリアリと狩人の女性は喜んだ。


麻痺治療キュア・パラライズ!」


 エルルが神聖魔法を行使する。徐々に横たわっていた男性の容態は徐々に良くなった。


「・・・ありがとう。何とか動けそうだ」


 そう言うと、横たわっていた男性が起き上がった。何とか歩けると言った感じだった。


「携帯する保存食などは殆ど無い。多少大変かもしれないが、早めに帰ろう」


 狩人の女性がそう語った。

 身支度を済ませ、早急に帰還する準備を整えた。

 徐々に日が暮れ始めた頃、山小屋で合流した3人と街への帰路に着く。


「まずいわね。日が暮れ始めた。山の獣達が活発になり始める」


 女狩人の言葉に、サリアリが周囲を警戒し始めた。


「え、ここまで俺達はまだ何にも遭遇してこなかったんですが・・・」


 そう言いかけた時、俺はバウエルがそわそわしている事に気がついた。そして、後方にうなり始める。

 と、遥か後方で狼の遠吠えが聞こえた。


「昨夜、あれらが小屋の周りを取り囲んでいたの」


 サリアリが話を付け加えた。


「群狼、執拗に狩り、する。恐らく、追いかける」


 チムチムがサリアリと頷きあった。


「病人が居るから早く進めないけれど、なるべく急ぎましょう」


 エルルの言葉に俺は同意した。

 みんな帰り道を急ぐ。・・・また狼の遠吠えが聴こえてきた。前よりも距離が近い。


「みんな。気をつけて! 間違いなく狼はこちらを狙っている!」


Battle Encounter! 「群狼」


 隊列を変更し、いかなる状況にも対処可能なようにした。

 俺とバウエルを先頭に、中間に病み上がりの男とサリアリ、その後ろにエルルとチムチム。最後尾に狩人の女性。なんて後衛向けの人だらけのパーティなのだろうか。


「しんがりはこちらで引き受ける。だけど、必ず後方から来るとは限らないから気をつけて!」


 狩人の女性はそう叫んだ。厄介な事になった。前衛が一人も居ない状況で、狼達に包囲されている。

 俺は弓に矢を番えた。獣との争いであるならば、狩りスキルでも対処可能な範囲だ。獣の気配を読む。バウエルの様子を注意深く観察しながら、狼達のおおよその方角を計る。


「後ろだ!」


 俺は叫んだ。バウエルが後方に向かって吼え始めたからだ。

 一匹の狼が飛び出してきた。俺は振り返りざまに矢を向け狙い定めて放つ!

 ヒュッ!

 放った矢はパーティ後方の木の幹に、カッ! と当たった。その脇を狼が走り抜ける。


「みんな、分散しないで円陣を組んで!」


 サリアリが指示を飛ばす。

 俺と狩人の女性は木々の間に矢を飛ばす。狼の動きはとてもすばやく、そして距離を縮めてこない為、決定打を与えるのは難しい。そもそも何匹居るのかも定かではない。

 周囲から獣のうなり声が聞こえてくる。バウエルは周囲へ向かって賢明に吼えている。

 ドッ! と地に足を突き、駆けてくる一匹の狼!


「全て、切り裂く、冷徹なる、刃よ。我が敵を、引き裂け、アイスアロー!」


 チムチムがアイスアローをその狼へ向けて飛ばす。

 狼は避けようとしたが、狙い違わずアイスアローの直撃を受けた。


「魔法、自動追尾。多少、狙い、ずれても、当たる」


 チムチムがぐっ、と拳を握った。サリアリがなにやら長い詠唱に入っている。


「サリアリ、範囲魔法、唱えている。時間、稼ぐ」

「とにかく矢を放っているよぉ!」


 俺は矢継ぎ早に矢を放ちながらそう答えた。

 と、俺が矢を番える一瞬の隙を狙った一匹の狼が飛び掛ってくる。


「しまった!」


 俺は思わず腕で狼の突撃を阻もうと身構えた!

そこにバウエルが横から狼へ飛び掛った。横からの突進で、バウエルは狼を退ける。


「みんな、サリアリの周り、集まる」


 チムチムがそう叫んだので、全員が一気にサリアリを中心とした密集陣形を取った。


「怒れる大地よ、奮起せよ! グランドプロチュバランス!」


 サリアリは大きなロッドの先端を、どんと大地に突き立てた。

 と、俺達の周囲に円を描くように、ズドドド! と、大地から岩が突き上がり天を貫いていく。波状に広がり、周囲10から20メートルを一掃する!

 隆起した岩に腹部を貫かれた狼、或いは空に跳ね上げられた狼が吹っ飛ばされていく光景が見えた。その数、7,8匹。

 狼達が悲鳴を上げるように逃亡して行った。


Victory!  Result なし


「あれが範囲魔法・・・すごい」


 俺は思わず感想を漏らした。


「サリアリ、うちの一族でも、強い」


 チムチムが誇らしげだ。彼女もいずれはあのような魔法を使えるのだろうか。


「昨晩は山小屋を取り囲まれていた為、範囲魔法を使うのをためらいました。今日は周囲を包囲しようとしたのが彼らは仇となりましたね」


 サリアリが額の大粒の汗をぬぐいながらそう言った。さすがに精神疲労がすごいようだ連発できる代物には見えなかった。


「周囲から獣の気配が消えた。今のうちに急ぎましょう」


 エルルが俺に進む事を促す。他にも魔物が現れるかもしれない。俺達は先を急いだ。

 しばらく歩き続け、一息ついたのは遠くに民家の屋根が見えてきた頃だった。


Quest Clear!!  Result.

・なし


 ようやく街まで戻ってきた。その安心感がみんなから伝わってくる。


「チムチムたちにお世話になっちゃったわね。ありがとう、助かったわ」


 サリアリがお礼を言った。

 麻痺毒が直ったばかりの男は狩人の女に連れられて、その場を去っていった。麻痺が直るまで安静にしていたとはいえ、まだ万全ではないからだ。


「サリアリ、心配だった」

「確かにあのままではまずかったかも知れない。街からそれほど離れてはいないし、それほど危険は無いだろうとたかを括った私達の失敗ね」


 きこりや炭火職人はまばらに住んでいると聞いたので、少なくとも俺達でもそれほど脅威とは見なさないかもしれなかった。


「今日はうちのおばばにご馳走を作ってもらうから、楽しみにしていてね!」


 サリアリはそういうと自分の屋敷に俺達を案内した。おばばと言うのは俺達が最初に会った使用人のことらしい。


「みんななんとも無くてよかったな」


 俺はポツリとそう呟いた。

 その日はサリアリのもてなしで、チムチムたちの住む南方系の料理を堪能した。チムチムも久しぶりの生まれ故郷の料理を喜んでいた。

 なんとか今日一日を乗り切れた事を安堵した日。俺は危険と隣り合わせの生活と言うものに慣れてしまっていたのかもしれない。それがやがて、あんな出来事に繋がるとは思いもしなかった。


第8話へ続く

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