第6話 大草原への遠征

―冒険者ギルド ゼカイア―


 その日は遅めの朝食を食べながらの作戦会議だった。先日パーティが新たに3人プラス一匹となり、更なる可能性へと挑戦可能となった。そのため、今後のパーティの方針の打ち合わせを行おうと言うわけだった。


「と、言うわけで、俺達はついに討伐系クエストにも挑戦可能となった」


 俺は何枚かのクエスト依頼が書かれた壁紙をテーブルに広げた。


「随分沢山あるものね?」

「おうとも! 一つ一つ見ていこう。まず、こちらが険しき山のファイアドラゴン退治」

「「無理!」」


 エルルとチムチムの意見が重なった。


「やっぱり? まぁ、気にするな。俺も駄目もとでお約束ってやつをやろうと持ってきただけだ。自分でもドラゴン退治が出来るだなんて思っちゃいないよ。次はこれだな。入り江の洞窟の魔神退治」

「ん、これは少々厳しいかもね。まず、統率をして戦う相手は厳しいかもよ。私達前衛すら居ないから。魔神とってもピンキリだから意外とどうにかなっちゃうかもしれないけれど、最初は動物並の知能の相手が良いのかも。まずいときには逃げられるし」

「そう。知恵があり、回り込む、不意打ちする。そんな相手、危険」

「そうなんだ。貴重な意見、感謝する」


 俺はそういうと、先ほどの二人の着眼点でアウトとなる討伐クエストを選り分けた。


「いのちをだいじにしようというみんなの意見を尊重し、ここでいくつかのクエストを却下した結果、この三つが残った」


 俺は三枚のクエストの依頼書をテーブルに並べた。

 一つ目、砂漠のサンドリザード退治。街から西の方角の巨大砂漠に住む大型のリザード退治だ。当然知性は低く、個体を相手とするであろう事から、難易度はまだ低いほうだと見積もった。

 二つ目、南の草原の辺りに住まう、クレイジーバッファローの群れ退治。こちらも知性は低く、群れは成しているが戦術的に人を襲う真似はしない。だが、馬車で群れに遭遇して大変な目に遭うものは数多い。

 三つ目、北の山のキラーグリズリー退治。木々生い茂る山の奥に生息する大型の熊退治。こちらもたまに群れなすものも居る。基本は知能が低いが、若干人間を襲う個体が現れることがあり、ハンターが彼らを倒すことを名誉とするくらいの強敵だ。


「これ、私の私見。キラーグリズリー、山奥。山登り、大変。遭難する。危険」


 チムチムは三つ目のクエストへの反対意見を述べた。


「それならば、私はサンドリザードの退治も同様に、砂漠で遭難する危険があると考えて反対するわ」


 エルルは一つ目のクエストへの反対意見を述べた。


「どちらも戦闘そのものではなく、探索する場所の危険性に対する意見だな。俺には想像もしなかった着眼点をありがとう」


 俺は流石にクエストの地域名から、その場を冒険する苦労までは考慮していなかった。山登りも砂漠の探検も経験が無い。だが、どちらも大変なことであるのは想像に難くない。


「えー、両者の意見を取り入れまして、二つ目のバッファロー退治のクエストを受領しようかと思うが、反対意見のある人は居るかな?」


 俺はみんなを見回す。


「私は賛成。妥当な意見だと思うわ」

「チムチムも、賛成。草原、行く、戻る。難しくない」


 パーティの意見は綺麗に纏まった。


「では、バッファロー退治に決定だ! 細かな作戦はどうする? あいつらの生態系を俺は良く知らないんだが」


 初めての三人+一匹パーティは狩猟クエストに決まった。後は、どのように、の作戦を練るばかりだ。


「バッファロー、先頭の牛、集団を先導。脅威となるもの、突撃するか、逃げるか、判断する。集団、人をも襲う。群れじゃない、狙い目」

「じゃあ、シシトウが弓で狙撃して囮になって、そこを横からチムチムが狙うってのはどう?」

「あー、それなら俺もそれほど危険じゃないし大丈夫かな。一頭だけならバウエルにも手伝ってもらって誘導可能かもしれない」

「チムチム、それ、助かる」

「誰か怪我したときは、私が治すから大丈夫」


 細かな作戦も決まった。後は準備して出発するばかり。

 と、その時給仕さんが食後のホットチョコレートを持ってきてくれた。給仕さんがテーブルの真ん中のバッファロー討伐クエストの紙を見る。


「あら、あなた達。バッファロー退治のクエストを受けるの?」

「そうです。みんなで意見を募った結果、妥当なクエストだと考えまして」

「そうなんだ。バッファローのお肉、料理屋には高値で売れるから、がんばってお店にも卸してくださいね」

「へぇ、そうなんだ。一頭、いくらぐらいで売れるんですか?」

「そうねぇ、うちなら一頭20,000Gで買い取るかも。沢山ステーキとか作れるし、各部位も色々なお料理に使えるから」


 このお店でも、バッファローステーキは一皿500グラムで200Gだった。たぶん、簡単に元が取れるんだろう。だが、それなりのお値段と言う事は、やはり狩り手側も危険が伴うのだろう。


「結構な値段なんですね! 頑張って牛を狩って持ってきますよ!」

「じゃあ、期待して待っているわね」


 給仕のお姉さんは去って行った。


「狩ったもの、食べる。自然の掟。チムチム、頑張る」


 チムチムの目が燃えている。彼女はどうやら狩猟民族のようだった。


「チムチムは狩りが好きなのか?」

「チムチムの部族、魔法使いの部族。戦える者。狩りする。成人にしか無理。度胸ある。大事。大物倒す。部族の誉れ」


 チムチムは握りこぶしをぐっと握る。その背は益々燃えている。


「そういえば、チムチムはどんな魔法を使えるんだ?」


 俺は何の気無しにチムチムに尋ねた。


「チムチム、『詠唱魔法の基礎スキル』を持つ。魔法の基礎、アロー、使う。範囲魔法、苦手。チムチム、新しいこと覚える、苦手。後、『魔道具の知恵の基礎スキル』を持っている」


 チムチムが少々申し訳なさそうに言う。


「俺はチムチムがすごいと思うよ。俺は雑用だからなぁ」


 普通の高校生だったのだから、何か特別な力などいきなり使えたりしない。ハデス・・・あの神様、何か特別な力をくれたらいいのに。


「チムチム、族長に、いつも怒られる。勉強苦手。新しい、覚える、むずかしい」

「チムチムってさ。魔力かなり高いよね。アローであれだけの威力を出せるんだもの」


 エルルがチムチムの放ったファイヤアローの話題を出した。

 先日、反社会的運送業を営む船員一名が火達磨になったところだった。


「あれってかなりの威力だったのか!」


 俺はいまさらながらに驚いた。


「本来は矢みたいに細いものなのよ! 殆ど火球みたいな大きさだったじゃない!」


 思い起こせば、もはや空飛ぶ丸太のような太さの火の塊だった。


「ここだけの話、チムチムって私が居た時代にも同じような部族が居たかも。超強力な魔法を使う部族の一団。聞いたことがある。たぶん、体に魔法を補助する為の文様を描いているかも」


 彼女と出会った時に見かけた体のタトゥー、どうやら意味があるもののようだ。


「そういえば、エルルは何のスキルを持っているんだ?」


 俺はずっと聞いていなかった大事なことを今更ながらに聞いた。


「私? 『神聖魔法の上位スキル』と『神学の上位スキル』。他、雑学的なこと色々」


 色々と言う中にも色々あるだろうが、あえて尋ねることはやめた。自分自身はコモンスキルしかない。


「シシトウ、どんなスキル、ある?」

「俺か?『採掘』『狩り』『料理』の基礎スキルだ」

「生存、高める目的。優れた雑用」

「・・・どこでも生きていけそうなスキル構成ね」


 俺は二人から慰めともお褒め預かっているともわからない評価を得た。趣味スキルで動物会話を覚えたいが、もう少し実用的な雑用を目指したほうがいいのだろうか?

・・・そういえば、スキルには含まれないが、俺は謎の翻訳能力を得ていた。このパーティははたから見れば古代語で会話しているのか。どんな風に見られているんだろうか。

後付の翻訳能力を除けば、それこそ村人向けのスキルしかない。平凡な人生を歩む予定だったのだから当然だと思う。

 ふーむ。エルルは人生ゲームをガチプレイしている勢力と思えなくもない。チムチムはパラメータ一点特化だがその他で苦労している勢力のように思える。

 全パラメータ平均振りのような俺はどのようなスタイルが良いのだろう。


「大丈夫。みんなでそれぞれが特技を活かせばなんとかなるよ」


 ガチ勢エルルがフォローしてくれたので、話は綺麗に纏まった。


「そう」

「じゃあ、早速出発しようぜ!」


 気力良し、パーティ間のコミュニケーション良好。後は物資の準備だけ。


Quest Set! 「クレイジーバッファローを退治せよ!」 Get Ready? ………Go!


―ザーラムの南 大草原へと至る道―

大草原へ向かう道路を歩く。町外れまでは石畳の道路だったが、そこから先は馬車の轍が残るのみの道路だ。もっとも、ただの轍であっても道に迷わない為の確かな道しるべ。

 そこで早速雑用の真価が発揮された。旅の間の日用品や食料などは雑用が一手に運ぶ。これだけでもパーティメンバーは大助かりだ。

 荷物を背負い歩くだけでも負荷はすごい。


「冒険がこんなに大変だ何て思いもしなかった・・・」

「馬か馬車を買う? どちらもかなり値が張るけれど。だれかは乗馬スキルが必要にもなるし、馬の移動可能な範囲のクエストに限られるって制限もあるね」


 馬車付きで馬を買うと5万G。既に市場はリサーチ済みだった。流石に生活にも商売にも使えるだけあって高価だ。


「まだ大丈夫」


 とはいえ、馬車もまた大所帯での長距離の旅という雰囲気がたまらない。欲しいのはやまやまだ。所持金はあるが、生活費が枯渇しないリスクさえ解消できれば買ってしまいたい。なにせ幌付き馬車なら家代わりにもなる。

 目的の大草原までは地図で図る上では約20キロメートルといったところだ。正確な測量技術があるのかはわからないが、地図の細かさを見る限りではという見積もりだった。

 その20キロメートルの旅で必要となる物。初めての長旅だから、何が必要かがわからない。

必要物資がどれほどになるのかを冒険者ギルドのみんなに聞いた。

アドバイスとして貰ったのは3日分の水と食料。水、大人一人一日3リットルとして、トータル27リットル。バウエルの分も追加する。食料、乾パン、大人一日300グラム。トータル2.7キログラム。干し肉3キログラム相当。バウエルのドッグフードは1キログラムの袋。尚、小型犬での見積もりだ。一日200グラム計算で考えてある。

 さて、この荷物の比率。水が重い。

 水。比重1の場合、1リットルにつき1キログラム。トータルで35キログラムの水と食料品となってしまう。

 そこで考えた結果、チムチムがアイスアローで氷を出し、それを火で溶かして使う事となった。魔法使い様様だ。それでも常備するのは5リットルの水。最低限はこれだけ確保した。食料も最低限の量を確保で5キログラムになるかならないかだ。

 そして毛布3枚(600G)。火口箱(50G )。生活用のナイフ一本(500G)。ロープ20メートル分。雨よけにもなる牛の皮の防水テント1枚(1000G)。緊急時用も含むお酒一ビン(250G)。

薬草500グラム(貰い物)。今回は薬草はいらないかと思ったが、疲労も取れる薬草は旅では必要不可欠と、鞭でも振り回しそうなとげ付き鎧の格好のお姉さん冒険者が言った。そして必ず持っていけと言われて渡された。後は塩こしょう。少々でも調味料は必需品だ。

 気がつけば俺の背負いバッグは15キログラムほどの重量にまで膨れ上がっていた。


「まぁ、往復3日の行程だから。・・・3日でようやく俺が一人で荷物を運べるかどうかなんだな。だから長距離の旅はしばらく控えような!」


 だからこそ馬車が欲しくなった。片道20キロメートルとは言え、この荷物は中々に大変だ。


「3日の辛抱・・・。この冒険が終わったら、俺は馬車を買うんだ・・・」


 そんなことを呟いていた。


―大草原―

歩くこと6時間。そこでようやく大草原の入り口まで辿り着く。正午過ぎに出立したので辿り着いたときには大分薄暗かった。

 日も傾いてきた頃、持って来たロープでテントを張り、焚き火の準備を行った。

 わずかばかりの乾パンと干し肉で食事を取る。


「この先、大草原みたい。明日、バッファロー、探す」


 チムチムがお湯を沸かし、お茶を飲みながら言う。


「直ぐに見つかればいいね。遠くまで行かなければ帰りも楽だから」

「なら、目安としてここにテントを残したままで明日は活動するか?」

「名案ね。そうすれば大草原に居ても方角にも迷わなくなるでしょうし、帰り道の方向もわかる」


 荷物も軽くなるので、そうしたかった。


「ところで、バッファローの肉を持って帰るにしても、運ぶのに困らない?」

「あ、忘れていた」

「帰りなら荷物も少なくなるだろうし、解体してみんなで運んで帰りましょう」


 総重量一トンにもなるというバッファロー。さすがに一頭20,000Gにもなるわけだ。全部を持って帰れないのは残念だが、ステーキに使う部位だけなら持ち帰れそうだ。


「とにかく、明日、狩れるかが、大事。みんな、早く休む」


 俺達はチムチムに促されて早めに休むことにした。ここでバウエル大活躍。バウエルは人間よりも気配に敏感なので、見張りを立てずとも皆が休むことが出来る。


「いざと言うときは頼んだぞ、バウエル!」


 犬は人間と遥か古来より友人同士だったらしいが、なんだかわかる気がしてきた。

 夜間はバウエルの見張りに任せ、俺達はぐっすり眠った。

じっくり休んだ翌朝。テントはそのままに大草原へと繰り出す。


「随分と見晴らしがいい場所だなぁ」


 俺は早朝、昨日は確認できなかった草原の遠景を確認した。


「ここはかなり広いから、帰る方角を見失わないようにしないとね。それだけでもかなり時間をとられるから」


 俺は木で棒を立て、先端に布を巻いた。旗になるように。これで遠くからでも見つけられるだろう。そうでなくともチムチムはかなり視力が良い為、ある程度遠くまでならいけそうだ。


「さて、今日の行動を確認する。目標はクレイジーバッファロー一頭。上手くはぐれているやつが見つかればいいが・・・」

「がんばりましょう。きっと神のご加護があるから」

「チムチム、頑張る」


 皆で広い草原を歩く。ここでも活躍するのはバウエル。早速バッファローを見つけたようだ。


「猟犬なんているぐらいだし、さすがに犬は良いお供だなぁ」

「シシトウもよく犬を冒険に連れて行こうと考えたよね。元々冒険者の家の生まれだったの?」

「いや、違うよ。ただ、いざ連れ歩いてみたら、犬の素晴らしさが良くわかる」


 もはやこの先の冒険、俺はバウエルなしじゃやっていけない気さえする。

 そのバウエルの吼えた先にはクレイジーバッファローの群れが居た。


「さて、困ったぞ。流石に都合よくはぐれているやつは居ないな」

「どうする、このまま、向かうの、危険」


 チムチムでも相手に出来るのは一体までだ。


「おびき寄せるのは難しそうね。群れから切り離す方向が安全そう。あの林はどう?」


 エルルが指差した方角は草原の中に林がある一角。


「あの林、逃げ込む。何とかなる」

「あちらの方角に俺がバッファローの群れをおびき寄せるので、みんなはあそこで待っていてくれ」


 俺も賛成の為、細かく作戦を変更する。


「あなたも林の中なら分断可能、と見たわけね」

「チムチム、木の上登る。そこから狙い打つ」

「妙案だろう? そうだな。エルルはバウエルと遠方から見張っていて、指示をくれ。いざと言うときは治癒を頼むよ」


 この作戦なら最悪失敗しても何とかなりそうだ。危険な役は自分でやる。なんとなく怖いが、この世界での居場所は自分で作る。雑用だってなんとかなるさ。してみせる。

 バッファローの群れと林の間は短くても300メートル。走れば何とかなるのかもしれない。尚、俺の100メートルの記録は12秒くらい。バッファローの100メートルの記録は7.2秒と言われている。

 しかし、人間は持久走では動物界最高峰とも言われている。人間の持ち味は瞬発力ではなくスタミナ。

 弓の有効射程距離は大体50メートルとも言われている。つまり、この距離が俺とバッファローの間にあるハンディキャップ。この距離を生かして長距離走に持ち込めば勝てる。


「俺が弓でバッファローを怒らせる。上手く向かってきてくれると嬉しいんだけど」


 バッファローは気性が荒い動物。ハンター側の死傷率が一番高い草食動物であると言う事を知っていたら、俺は向かってきてくれたら嬉しいなんて言わなかっただろう。何せあのライオンでさえもが死傷することがある相手なのだ。


「勇気あるね。相手はあの獰猛なバッファローなのに」


 エルルは知っていたのかもしれないが、俺の男気に打たれて黙っていたのかもしれない。


「まかせておけよ!」


Battle Encounter! 「バッファローの群れ」


 こうして新たなる作戦の元、皆がそれぞれ所定の位置についた。

俺は林の方角からクレイジーバッファローの群れに近づき、その距離を測る。今は逃げられないようにと言うより、自分が逃げられるように慎重に近づく。

 弓の有効射程を測りながら近づく。狩りの基礎スキルのおかげで、獲物との距離感はかなり正確に測れている。大体自分が狙って当てられそうな距離を知ることが出来る。

 そのぎりぎり離れた位置に付き、俺は弓でバッファローの背を狙う。一番群れから離れたバッファローを狙った。

 ヒュッ! カッ!

 狙い違わず矢がバッファローの背に当たる。これはスキル補正のおかげだ。自分に弓を扱う技術が身についていることに今更ながらに驚く。

 バッファローは全く怯んでいないが、矢をけしかけた相手を探しているようだ。もう一本矢を番え、狙い撃つ。

 ヒュッ! カッ!

 またしても矢がバッファローに当たる。こうなると狙われたバッファローはいきり立って俺のほうを見ている。俺は眼が合ったことを確信して走り出す。

 バッファローに背をむけ走る。相手が追ってきているかわからないが、エルルを見ると危険を伝え、林に逃げるように指示している。

 こうなるとなりふり構わず林へ駆け込むだけだ。

 俺は見えていなかったが、バッファローの群れが俺を追いかけていたらしい。が、そんなことを確認している暇は無い。初動で遅れれば追いつかれる。

 全力疾走で林へ駆け込んだ。自分では自己ベストに思えるくらいだ。後ろを振り返ろうとしなくても、途中で背後から聞こえてきたドドドドと言う足音を聞けば、自分の置かれた状況はわかると言うものだった。

 事前に見繕っていた大きな木に一気に登る。一番低いが、自分よりは身長より高い位置にあった枝に落ち着く。

 と、追って来たバッファローがどーん、と木に体当たりする。ドドドドと、他のバッファロー達は林を縫うように走り抜けて行ったが、一頭が俺の足元で木に体当たりしている。


「裁きの象徴、閃光となる雷よ、我が意に答えよ、サンダーアロー!」


 直ぐ近くの木の上で成り行きを見ていたチムチムが、俺の足元に居たバッファローを雷の矢で打ち抜く。

 流石に強力な電撃を浴びては、巨体を誇るバッファローでもひとたまりも無かったようだ。一撃でおとなしくなる。

 と、そこにバッファローの群れが折り返して駆け抜けていく。

 どうやら追う対象を見失ったようで、草原に抜けてからは遥かかなたへと走り去って行った。


「やりました」


 チムチムが杖を天に掲げ、勝利のポーズをとった。


「ふぃー、流石に緊張したわ」


 俺は頬の汗を拭った。

 しばらくしてエルルがやってくる。


「かなりの数の群れが走りこんで行ったけど、大丈夫だった?」

「あぁ、なんとかな。チムチムのおかげで一頭仕留められた」


 俺は横たわったクレイジーバッファローを指差した。


「これは見事なバッファローね。しかも、良い角を持っている。知っている? バッファローの角は高級な調度品の細工の材料となるの」


 バッファローの角が密漁の対象となったという話なら聞いたことがあった。それなりに高価な品のようだ。


「じゃあ、早速解体するか」


 ちょうど持ってきた生活用のナイフを持って、解体を始める。料理スキルがあるとはいえども、巨体を誇る牛を解体するのは苦労した。


Victory!  Result 「クレイジーバッファローの角×2、クレイジーバッファローの皮×1、クレイジーバッファローの肉20キログラム×1、5キログラム×2」


 その日一日かけて解体をする。

 バッファローの角と食べられそうな肉を切り分けた頃には日が暮れていた。

 最初の野営地点へ戻る。火を起こして夕食の準備をする。


「今日食べる分、持ってきた」


 チムチムが野営地点とクレイジーバッファローの間を往復して戻ってきた。彼女は二キロほどの肉の塊を持ってきた。


「お疲れ様。無駄には出来ないものな。今日はこれも食べよう」

「もう日が暮れるわ。これ以上は近づかないほうが良さそう。肉食獣がやってくるから」


 エルルの指示で持ってきた三つの肉の塊は、同じ牛の皮で密閉するように包んでおいた。


「言われたとおりに密閉したぜ」

「これでここには肉食獣が襲って来る確率がぐんと低くなる」

「血の臭い、隠した。エルル、頭良い」

「焚き火でほのかな臭いも消してしまえば大丈夫。後はチムチムの持ってきた食べる分を片付けてしまいましょう」

「今日の食事は昨日より豪華だぜ!」


 バッファローステーキを食べる。意外と臭みも無く美味しい。鉄分が多く、疲労回復の効果も期待できるらしい。薬草の付け合せと一緒に食べた。


「流石に中々食卓に上らないだけのことはあるわねー」

「お肉、美味しい。元気出る」


 エルルもチムチムも上機嫌だ。


「神様。今日と言う日に糧を得られたことを感謝致します」


 エルルはお祈りを始めた。

 バウエルも大きな肉の塊にありついて喜んでいる。

 皆疲労していたが、戦利品を確保したことで安堵して眠りについた。バッファローの肉は薬草の付けあわせと相まって、一気に疲労が回復するのに役立った。高価だからと敬遠していたら、この薬草の素晴らしさにいつまでたっても気がつかなかっただろう。

 翌朝。俺は20キロもの肉塊を皮に包んで背負い、さらに二本の角を持つ。エルルとチムチムもそれぞれ5キロもの肉塊を抱えて帰路を歩く。


「ねぇ、シシトウ。私も馬車を買う案に賛成する」

「チムチムも、異議なし」


 パーティの心一つにして帰る道。同じ苦労を味わうことで一丸となった。


―冒険者ギルド ゼカイア―

 いつもと変わらない冒険者ギルド。そこに帰還兵さながらに帰ってきた俺達パーティ。


「なぁ、みんな。賛成でいいんだな」


 俺は今一度みんなに聞いた。


「私はかまわないよ。私はあなたの考え方にも賛成」

「チムチムも」


 誰も意義を唱えなかった。


「給仕のおねーさーん。バッファローの肉を持ってきたよ!」


 俺は馴染みの店でいつもの給仕のお姉さんを呼んだ。


「はいはい、これは素晴らしい! こちらで買い取りますね」

「それなんだけど、今日は俺達からのおごりだ」


 俺達は自信満々に言った。


「ん? それはどう言う意味ですか?」


 みんなで決めた。普段からこの冒険者ギルドにはお世話になっている。肉を売れば計り売りでも6000Gは行くだろうが、今日はお世話になっている人達への恩返しも兼ねて、バッファローステーキをおごることにした。出掛けに薬草を貰ったが、店で計り売りでも1000Gもするものだから、そのお礼としても十分だろう。


「ここのみんなでバッファローステーキを食べてください!」


 俺の台詞に冒険者ギルド内から大歓声が上がる。総勢30キログラム。一人頭300グラムのステーキとしても100人分はある。


「やるじゃねえか、お前達!」「良くバッファロー狩りをそんな少人数で成功させたな!」「なんて気前の良い連中だ!」と次々と賞賛の声が上がる。


「エルルの作戦とチムチムの魔法のおかげさ」


 俺は軽く謙遜した。


「あとはシシトウの度胸とね」


 エルルが付け加えてくれた。

 なんにしても、ギルドの人達と良好な関係を築くと言う俺の意見を、みんなは賛成してくれた。


「施しとは聖者の行い。あなたと言う同胞に恵まれたこと、神に感謝致します」


 不殺生をモットーとするような、博愛を信条にしているであろう宗教の大神官。エルルは宗教観から良かったようだ。最近は彼女の俺の扱いもかなり良くなってきた。


「気前、良いオトコ、モテる。シシトウ、チムチムの、故郷来たらイイ」


 狩猟を行う部族の生まれの魔法使い。チムチムは社会観から良かったようだ。彼女の事も少しずつわかってきた。


「みんなと仲良くやっていけそうでよかったよ」


 初めての3人パーティ戦である今回。大戦果ともいえよう。


Quest Clear!!  Result.

・5,000Gを獲得(バッファローの角の売却価格)

・冒険者ギルドのみんなからの名声

・バッファローの皮


第7話へと続く

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