第2話 冒険者ギルド

―冒険者ギルド ゼカイア―

 それは全ての冒険者の憩いの場。冒険者としてのステータスの管理のほか、仕事の斡旋や受注。仲間探しなどを行う場所。彼らの活動の拠点だ。

 ギルドを見つけるのはさほど苦労しなかった。地図があるのは大きい。

 俺は入り口の羽扉を開けて建物へ入った。一見すると酒場と雰囲気は大差ない。

 室内に看板は無い。どこへ行けばいいのだろうか。受付らしき場所がある。そこに居るお姉さんに聞いてみるしかない。


「すみません。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが」


 白いローブに身を包んだ綺麗なお姉さんがカウンターの向こう側に座っている。


「はい、なんでしょうか?」


 お姉さんが俺の顔を確認しながら返事を返してきた。


「冒険者になるにはどうすればいいんでしょうか?」


 これまでに聞いた言葉は冒険者志望と鉱山の鉱夫志望。職業斡旋を受けておかないと、その日の暮らしすらままならない。所持金0。つまりこのままでは死ぬ。


「はい。それでしたら、この用紙に必要事項を記載の上、こちらに提出をお願い致します。また、冒険者志望の為のいろはと、最低限必要となる契約事項の用紙がこちらとなります」


 受付のお姉さんが複数の紙を渡してきた。


「ありがとうございます!」


 俺は礼を言うと即座に建物内の空き椅子に座った。受け取った紙の一つは申込用紙。簡単な略歴を記す為の物のようだ。身分を証明する必要が出たらどうしよう。出身地の証明のしようが無い。事務手数料とかが必要になったら、それはそれで終わりだ。

 自分の情報を書き込もうとして手が止まる。どんな字を書いたら良いのか…を思い浮かべたら、そばに見慣れない言葉が思い浮かんだ。なんとなくそれらの字を書き込んでいく。


 次に冒険者の心構えという箇条書きの用紙を手に取る。

① 冒険者たるもの、必ず生還すべし

② 冒険者たるもの、クエストで生計を立てるべし

…んん、いきなりなんだろうと思うような一文が出てきた。何を伝えようとする一文なのかニュアンスがわからない。手にした紙にはまじめそうな内容が続くので、一旦飛ばす。


最低限必要となる契約事項の紙に移る。

① 私は死亡した場合、救出者へ所持金の半分を提供いたします。

② 私は同一クエスト受注者が居た場合、彼らと協力する事を良しとします。

③ 反社会的活動には手を貸さないことを誓います。

などなど。


 …つらつらといろんな記載事項がある。箇条書きにして30項目以上。中には意味のわからないものもあるが、最初の①の一文目にドン引きした。ちゃんと了承を得る手続きがあったのか。

 …あ、閃いた。誰かを助けると今日のご飯が食べられる。…誰かが助けを必要とするところを自分ひとりで歩けるとも思えないので、やはり却下。

 俺は必要事項を記載した紙を持って、受付のお姉さんのところへと向かう。


「はい、確かにお預かりしました。では、こちらの水晶球に手をかざしてください。これはあなたの能力を測る水晶球。あなたの成るべき姿を指し示すでしょう」


「お、ここで能力値とか職業選択ができる? きたきたー、これをまっていました!」


 俺は迷わず水晶球に手をかざす。なにかしら字が浮かんできた。


「これは…おや、おやおや?」


 受付のお姉さんが困ったような顔をする。


「ん、どうかしましたか?」

「シシトウさんでしたか。どうも、現時点でなれる職業が無いようですが…」


 なれる職業がない?


「ど、どういうことですか!」

「パラメータが全般的に種族平均値。ぽそっ(運は人外レベルの高さです)…知力はかなり高いようですが、(運と)知力だけでなれる初期クラスがないので、選択可能な職業がありませーん!」


 受付のお姉さんが困ったような表情をした。途中でさりげなく何かを言った気がする。

「おい、いきなり無職スタートだとよ」「無謀な方も居たものだ」「前途多難だねぇ」「俺はあんな命知らず、嫌いじゃねえぜ」と、まわりがざわつき始めた。


「でも大丈夫です! 雑用ですとか荷物持ちならいけます! 安心してください、シシトウさん」


 受付のお姉さんが笑顔で慰めてくれる。ところで、自分の名前はシシドウなんですが。


「はぁ、雑用、ですか。何か戦闘用のスキルみたいなのが身に付いたりなんて事は…」

「ありません。コモンスキルなら習得可能なので、狩りスキルなどで弓の扱いを覚えることもできますよ」


 ファイトですよ! と、受付嬢は両手でぐっと握りこぶしを作って励ましてくれた。


「ところで、とりあえず今日の生活費だけでも稼ぎたいです。何か良いクエストとかないですか?」


 俺はとても重要な話を切り出す。


「兄ちゃんよぉ、その分だと装備を揃える金もねぇんじゃねーのか?」

「うっ、その通りで…」


 遠くの先輩冒険者が心配そうな表情をした。装備のことまで頭が回っていなかった。


「駆け出し冒険者のお仕事は…町の近隣の野犬退治。森の草刈り(食人草)や水辺のリザード退治など。まずは武器となる装備品が必要かと…」


 森の草刈りでどうして武器が必要なのだろう、と思わなくも無かった。受付嬢がいくつかのクエスト案内の紙をくれる。


「これは…ありがとうございました」


 俺はとぼとぼとその場を離れる。


「兄ちゃん、冒険者は体が資本だ。こいつぁヒントだぜ」


 強面のお兄さんが俺の肩をぽんと叩く。


「…ありがとうございます」


 俺は歴戦の勇士であろう冒険者のアドバイスを聞き流しながらギルドを後にした。

 外の空気に触れる。ギルドを訪れる前後での違いは自分の身分証代わりの札があるかないかだ。自分の名を記した札には職業・雑用と記されている。スキルは無い。覚え方はスキル所有者からラーニングをするだけらしい。が、その場合にはスキルに応じた謝礼が要る。つまり、今は何も覚えられない。

 詰んだ。冒険者の出だしにして無職。所持金0。装備なし。仲間なし。コネなし。ツテなし。スキルなし。こいつぁ無理ゲーだ。

 俺は力なく路肩に座る。情報もまた何も無い。

『鉱山の鉱夫希望なら歓迎するぜ』

 …脳内リフレイン。そうだ。職業斡旋してくれそうな人がひとり居た。ここは鉱山の町。鉱夫ならいくらでも募集している!そうだ、冒険者は体が資本なんだ!

③ 冒険者たるもの、クエストで生計を立てるべし

 ふと、冒険者心得の3条を思い出す。…いや、背に腹は変えられない。初心者の駆け出し冒険者だ。きっと大目に見てもらえるさ(後日強面の兄さんに聞いた話では、これは反社会的行為、犯罪行為を行わないと言う事で、野盗崩れにはなるなと言う意味だった)

 やるしかない。レッツ鉱夫。つるはしなどは土下座してでも借りよう。


―鉱山通り ドロクロド―


 …鉱山がたくさんある街だった。鉱夫募集中の張り紙はそこかしこにあった。先ほど出会った鉱夫の男は歓迎してくれそうだったが、どうやら総じて人手不足のようだった。

 俺は通りの壁にある張り紙に目を留める。

 『当鉱山は魔物出没の為、冒険者経験のある鉱夫急募! 日給2,000G』

 なるほど。身の危険がある職場はより一層の人手不足のようだ。…その為か給料は他より倍ほど高い。冒険者経験といわず、駆け出しだが冒険者の俺は可能だろうか。こうなったらここにしよう。冒険者ギルドへ登録してきた分、有利に交渉を進められるかもしれない。俺は張り紙を壁から引き剥がし、地図に記載の場所へと向かった。

 張り紙のある鉱山ギルド。古びた木造の建物の中に入ると、中は何人かのむさくるしくいかつい男達が居るだけだった。


「すみません、鉱夫募集の張り紙を見たんですが…」


 いかつい男の一人が顔を上げる。


「よく来たな、小僧。ここはこの町一番の危険な鉱山のギルドだ。度胸のあるやつぁ歓迎するぜ!」


 ごつい男がニッ!と笑ってぐっと親指を立てながら挨拶してきた。見た目によらずいい人なのかもしれない。


「俺は駆け出しの冒険者なんですが、それでも大丈夫ですか? 道具の類も一切持っていないし、鉱夫の経験もありません」

「かまわねぇとも。何なら今すぐ行くかい。俺が案内するぜ」


 こうも話がトントン拍子だと、却って危険な現場なのではと勘繰りたくもなる。


「はい、是非よろしくお願いいたします!」


 所持金0の自分には選択肢は無い。可能性のあるところ。道の拓けそうなところなら飛び込むしかない。

 ギルドに居た男に案内してもらいながら鉱山を目指す。つるはしなどの道具は、魔物が出没し逃げ出していった働き手の置き土産を使って良いようだ。なるほど、道具が無いと言っても問題ないわけだ。初回は鉱山ギルドだけど、仕事の斡旋を得られた。


Quest Set! 「鉱山で採掘せよ!」 Get Ready? …Go!


―ザーラムで一番危険な鉱山 グラナ・ガント―


 鉱山入り口付近の坑道。


「てなわけで、俺達ギルドの鉱山は古代の遺跡のある山を掘り進めてしまっていたって訳さ。だから魔物も入り込んでくる。正直言って、町の外の魔物が無害に見えるレベルだ。だから決して迷い込むなよ」


 先輩鉱夫の説明と注意事項を受けながら辿り着いた。


「はい、気をつけます!」


 この人がかなり良い人で助かった。


「いい返事だ。ここの鉱山は魔水晶が採れる良い鉱山だ。ちょいと見ていな」


 先輩鉱夫がつるはしで入り口付近の部屋の壁を穿つ。ぼろっと土が崩れ、小さい紫のかけらが転がり出てくる。


「こうやってこの紫色のかけらを集めるのさ。入り口付近のは純度が薄い。このかけらだと飯一食分になるかならねぇかだが、俺からの選別だ。鉱石のサンプルとして受け取れ」


 先輩鉱夫がかけらを放り投げる。俺は慌てて受け取った。その時、脳内に鉱山でつるはしを振るう男達の姿などが浮かぶ。『採掘の基礎スキル習得』と字が浮かんできた。なぜかつるはしの扱いを昔から知っているかのような感覚になる。このようにしてスキルを習得するようだ。


「色々とありがとうございます!」


「良いって事よ。夜まではあと3,4時間くらいある。今日の所は慣れるまでこの辺りで仕事をするんだな」


 先輩鉱夫は手を振って去って行った。

 ビバ、鉱夫ライフ。働くってすばらしい。俺は無我夢中でつるはしを振るい続けた。無一文なのだから躍起になっているとはいえ、ある種完全歩合制のお仕事。やる気が出ないわけが無い。俺はがつがつ壁を掘り進める。そこそこに色合いがまばらな魔水晶がころころと出てくる。小さいかけらを数えるたびに飯何食分とか数えていた。

 一時間も掘り続けた頃だろうか。俺は鉱山の中を軽くうろつきながら掘っていたが、坑道は似たような道が多く、気がついたら完全に道に迷っていた。

 ベテランならどうと言う事が無くても、自分みたいな初心者にはとても道の見分けが付かない。先輩鉱夫のアドバイスを思い出していた。

 途中で人に出会わなかったのは、元々人手不足だったことを思い出した。魔物のほうに遭遇しなかっただけましだと思うことにした。だんだんと壁の明かりが少なくなっていく。どうやら奥に進んでしまっていたようだ。足元が薄暗くて見えない。

 とその時、足場がボロッと崩れ、俺は空中に放り出される感覚に襲われた。



 …軽く気を失っていたのだろうか。起き上がり目を覚ます。火の明かりは無い。部屋の片隅に白くぼやっと輝く一角がある。真っ暗で他に何も見えないので、明るい場所へ向かった。

 白く輝いていたのは大きな水晶。…それも女の子が中に閉じ込められている水晶。


「なんだこれ?」


 俺は思わず水晶に触れた。と、俺の手が水晶に触れた箇所からどす黒いもやが入り込んでいく気がした。

 水晶にひびが入り、あっという間に砕け散る。中の女の子が外に出てきてどさっと倒れる。彼女が被っていた髪飾りは水晶ごと地面に落ちて砕けた。俺は慌てて女の子を起こそうとした。生きているように見えたから、揺り起こした。


「あ、あの大丈夫ですか?」


 女の子のまぶたが小さく動いた。良かった。生きている。やがて女の子が目を覚ます。


「ここは…どこ? あなたは誰?」

「俺の名前は獅子堂 空無。ここは鉱山のグラナ・ガント」


 俺の言葉に女の子が怪訝な顔をする。


「鉱山のグラナ・ガント? どう言う事? 私の名前はエルル・アルマーニュ。愛の女神の神官を務める者。私が居た記憶があるのは聖山の聖堂であって、鉱山ではないはず」


「そんなこと言われても、俺にはちょっと…。あぁ、あんたはこの水晶の中に居たんだよ」


 俺は床でほのかに拾っていた水晶を指差した。…俺が直接触れたら砕けたように見えた。そっと採集物を包むための布で拾い上げた。そのせいかなんとも無いが、このことは黙っていよう。


「私が…この水晶の中に? どういうこと?」


 俺が聞かれてもわかるはずが無い。わかるとすれば、ここが古代の遺跡だったという話。遺跡=聖山の聖堂と言う数式が成り立つなら…この人は古代人なのだろうか。

 その時、聖堂と思わしき居場所から遠く離れた位置より、魔物と思われる唸り声が聞こえてきた。


「っつ! まずはここから出よう! ここは今、危険な場所らしいんだ!」


 俺は拾い上げた水晶の塊の光を松明がわりに歩き出した。


「え、ちょっと。どこへ私を連れて行くつもり? あ、待ちなさいよ!」


 最初は女性に厳かな雰囲気を感じたが、そんなことは無かったようだ。ともかく、エルルの手を引いて俺はその場を後にした。

 崩れた箇所の方角には壁に明かりがある。つまり人がそこまで訪れた形跡があると言う事だ。俺は助けを呼ぶため叫ぼうとした。その瞬間に俺はエルルが手にしていた蒼玉のワンドで頭をごちっと殴られた。


「魔物に気付かれるでしょうが!」

「じゃぁどうしろと!」


 と言う俺達の声に反応したのか、先ほどの遠くの魔物のうなり声がまた聞こえてきた。


「あっ、まずっ! …誰かー助けてくださいー!」


 こうなると俺はなりふり構わなかった。4,5分後には天井側の坑道に他の鉱夫がやってきて、ロープを下ろしてくれた。


「あんた、新入りか? よくもまぁいきなり遺跡のほうにぶつかったもんだ。このルートはもう危険だ。立ち入り禁止にするからさっさと離れよう」

「シシドウさん。あの人は何て言っているの?」

「え、エルルさんはわからないの?」


 俺には両方の会話がわかる。…よくわからない方法で。彼女は他の人の言語がわからない。嫌な予感がした。彼女のことは黙っておいたほうが良さそうだ。遺跡に居ましたなどとはとても周りには言えない様子だ。

 他の鉱夫の人の手助けもあって、俺達は無事に鉱山を後にした。


―鉱山通り ドロクロド 鉱山ギルド ガララス―


 俺は自分が所属する事となった鉱山ギルドに戻った。


「よう、新入り。道に迷った挙句、遺跡に迷い込んじまったんだって?」


 誰だか知らないやつに絡まれた。俺は鉱山ギルドでは早くも有名人になっていたようだ。帰った頃にはギルド内では、仕事から帰ってきた鉱夫達がエールのジョッキ片手に酒盛りを始めていた。


「ええ、その遺跡でこんな石も見つけましたけど…」


 俺はそういうと、エルルが封じられていた水晶をテーブルの上に置いた。


「こいつは…純度の高い聖水晶だ。かなりの金になるぜ。兄ちゃん、運がいいな」


 運が悪く、なおかつ良いというのを何て言うんだろうな。


「ほう、初日にして大活躍か」


 最初に案内をしてくれた先輩鉱夫がやってきた。


「はぁ、まぁちょっとした災難でしたけど」


 俺は採掘品をギルドで買い取ってもらうことにした。


「ほらよ、採掘税と買取仲介手数料を引いた分だ。良い稼ぎじゃねえの」


 俺は実際にGと言う貨幣を手にしてようやく安堵した。見知らぬ世界でも何とか生きていけそうだと。後で知った。受け取ったのは恐ろしいほどの大金だった。


Quest Clear!!  Result.

・古代人の発見

・7万4千500G獲得


古代人のエルルの発見が俺の今後の運命を変えた。何せ、この子は現代の言葉がわからない。遺跡で発見したとも言って良い事かわからない。

 俺は鉱山ギルドで食事を頼んだ。豪勢な飯で100G程のようだ。なるほど確かにそれなりの所持金になった。聖水晶と言うのが希少で良かった。後で他のかけらを探しに行くのも手なのかもしれない。

俺はギルドの酒場で食事を頼んだ。正面の席に座ったエルルにも食事を勧める。


「なにこれ。見たこと無い料理」


 エルルがナイフとフォークを手に固まった。


「俺も知らない。現地の人間じゃあないんでな」


 俺はかまわず口に運ぶ。味は中々だった。エルルはゆっくりと料理を口に運び、やがて次々と食べ始めた。


「なんだか久しぶりに何かを食べたような気分」

「そういえば、あんたは何であんなところに居たんだ?」

「え、なぜって? あそこは私が崇める神の神殿。その大聖堂の一角。私はこれでも大神官。私が居ておかしいことが?」


 エルルがさも心外といった雰囲気で応えた。


「その話を聞く限り、おかしくはない(今は神殿が遺跡と呼ばれていることを除いて)」

「この鉱山の町ザーラムと言う名前も聞いたことが無い。見かける人間はたいした魔力も信仰心も無い劣等種ばかりのようにもみえるし、どういうことなの」


 なら、あなたは優等種というやつですか? ふと俺はそんなことを考えた。


「俺はこの町に来たばかりなもので、わからねーよ(異世界転生しましたという話は伏せて置こう。どう言った話になるのかわからないし)」

「知り合いも居ない。見たことも無い風景ばかり。まるで私だけ違う世界に着たみたい」


 俺はエルルの言葉にどきりとした。自分はまだ異世界から着たとは言っていないが、自分が周りに感じた感想と同じだったからだ。


「どこか行く当てはあるのか?」

「ない。まったくない」

「…仕方が無い。しばらくは俺も付き合うよ」


 俺はアウラ・ノヴァに訪れて、知り合いも所持金も何も無い状態を経験した。流石に彼女に同情する。少し協力しても罰は当たらないだろう。


「じゃあ、今日のところは宿を探そう。明日は冒険者ギルドのほうを通じて…」


 ふと、鉱山ギルドの方が稼ぎはいいんじゃないのかと疑問が浮かぶ。本格的に冒険者から鉱夫に転職したくなってきた。


「冒険者ギルドって何?」


 鉱山ギルドで彼女が働くとは思えないし、現状のままだと俺が彼女を養うこととなる。よし、冒険者ギルドへ行こう。大神官ならたぶんプリースト職かなにかだろ。

 その日、俺達は掘っ立て小屋の部屋の一角に泊まった。一晩500G。馬小屋よりは高いが、人並みの暮らしの最低ラインだ。所持金があるとはいえ、先が見えないので無駄遣いはできない。


「何この罪人でも捕らえておくかのような部屋?」


 エルルが部屋を見るなり口を開いた。


「何って今日泊まるとこだよ」

「絶句! こんな馬小屋みたいな建物が?」


 自分で絶句と言うやつを見るのは初めてだよ。それはそれとして、馬小屋は避けたんだがな。エルルはそこそこに良い暮らしをしていた人間のようだった。大神官と言うのも本当なんだろう。


「我慢してくれよ。俺もこちらのことは詳しくないから贅沢は避けたんだ」

「うううう…こ、こんなことが許されるはずが…」


 俺はさっさとベッドに横になる。部屋の中には簡易のベッドが二つ並んでいるだけだ。あとはベッドとベッドの間にナイトテーブルが一つ。テーブルの上の花瓶には何も無い。


「ささっ、寝よ寝よ。明日も早いんだ!」


 こうして俺の異世界転生ライフの一日目は終わった。気がついたら、学生服を着たまま一日を過ごしていた。明日は…こちら側の服を買おう。


第3話へと続く

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