781 親友との再会、そして……
『ルーちゃんなの? 本当に?』
「はい、ルーちゃんですよ」
『本当に本当に本当にルーちゃん?』
「本当に本当に本当にルーちゃんですよ。私のあだ名を知ってるあなたはどなた?」
こっちのロボットもなかなかカッコいいけど、誰が乗ってるのか全く想像もつかない。
少なくとも普通に考えれば私の一番の友だちのナータじゃないことだけは確かだ。
『あたしよ! インヴェルナータよ!』
「ナータがこんなところにいるわけないよ」
『っ……! じゃあ、これでどう!?』
ロボットの胸の中心部分に切れ目が走り、コクピットハッチが開いた。
そこから出てきたのは金髪ツーサイドアップの超絶美少女。
どこから見ても私の大親友のナータだった。
「ナータ!? なんでこんなところに!?」
「決まってんでしょ、あんたを追いかけてきたのよ!」
ナータは開いたハッチ部に足をかけると、そのままジャンプして機体から飛び出した。
「ちょっと、なにやってんの!?」
いきなり飛び降り自殺……かと思ったら、足につけた謎のパーツからボボボと火を噴きながらこちらに向かって飛んでくる。
そして、私は空中でナータに思いっきり抱きしめられた。
「やっと見つけた! やっと会えた! もう離さないからね、ルーちゃん!」
「え、あ、うん。それはいいけど、あのロボット操縦する人がいなくなって大丈夫?」
「ホバリングモードにしてあるから大丈夫」
ナータの言う通り、彼女が乗っていた二〇メートル級の白と薄い水色の猛禽類っぽい人型ロボットは、背中と足のバーニアから火を噴いたまま空中で静止している。
「ねえ、あのロボットって」
「ずっと会いたかった。生きててくれてよかった」
「あ、うん。私も会えて嬉しいよ。ところであのロボットってどこで」
「あたしと一緒にフィリア市に帰ろうね。友だちもみんな待ってるからね」
いろいろ聞きたいことがあるんだけどナータはこっちの話を聞いてくれない。
肩を掴まれて強引に引っ張られ、気が付いたら操縦席に連れ込まれていた。
内部はゴテゴテした
「ちょっと狭いけど座席の後ろのスペースに座っててね」
ナータは操縦席に収まると手動でハッチを閉めた。
一瞬だけ暗くなった後、周囲の壁面がすべて外の景色に変わる。
一見すると透明になったみたいだけど、よく見ると映水機の画面みたいな感じだ。
「おお、すごい! かっこいい!」
「そんじゃ行くわよ」
ナータがレバーを掴んで動かすと、外の景色がぐるんと回転する。
まるで座席だけが空中に浮かんで飛んでいるみたい。
これが……ロボットの中!
「って、ちょっと待って。どこに向かってるの?」
夢みたいな光景が現実になったことに感動してぼーっとしてたけど、気が付けばジュストくんからどんどん離れて行ってるよ。
「決まってんでしょ。フィリア市に帰るのよ」
「いやいや。私、これから魔王をやっつけに行かなきゃいけないんだけど」
「そんなのあの男に任しておけばいいじゃない。ルーちゃんはこれ以上危ないことする必要ないの」
「というか、そもそもなんでナータがこんなところにいるの? このロボット何? なんでこんなの操縦できるの? っていうかどうしてジュストくんと戦ってたの?」
「あー、ちゃんと答えるから質問はひとつずつにして!」
「このロボットの名前は?」
「最初がそれかよ。えっと、たしか『ヴォレ=シャープリー』とか言ったかしら」
ほうほう、なかなか良い名前だね。
輝攻戦神グランジュストほどかっこよくはないけど。
「じゃあ次。このロボットは何? どこで手に入れたの?」
「あたしもよくわかんないんだけど、なんか軍の実験機だとか言ってたわ。ミドワルトでもビシャスワルトでもない第三の世界で借りたの」
「え。それって紅武凰国ってところ?」
「知ってんの?」
知ってるもなにも……えっ?
なんでナータがそんな世界の秘密みたいなことに関わってるの?
「つもる話は帰ってからにしましょう。こっちもいろいろあって大変だったのよ」
「ちょっと待ってってば。帰る前に魔王をやっつけなきゃ、世界の平和が大変なんだって」
「だからルーちゃんがそんなことに巻き込まれる必要は――痛っ!」
「どうしたの?」
とつぜんナータが頭を押さえて痛みを訴えた。
「な、なんでもないわ。ちょっと頭痛がしただけ。それよりルーちゃん。何度も言うけど、あんたが魔王とかそういう危ない相手とわざわざ戦うことは……」
ナータがちょっと怒ったような顔で振り向いた、その時だった。
私は前方を移す画面に突然現れた『人』に気づく!
「ナータ、前っ!」
「え? あっ!」
正面を向いてそれに気づいたナータは素早く操縦桿を横に倒した。
機体がぐるっと回転し、そいつの攻撃を大きく回避する。
ナータ、かっこいい!
……じゃなくて。
「は? なんなのアイツ?」
「あれはたぶん……」
黒と赤の襤褸を纏ったような衣装。
人間サイズだけど背が高く筋骨隆々の体躯。
以前に一度だけ見たことがある、あいつは間違いなく……
「魔王!」
ビシャスワルトの王様、すべてのエヴィルの頂点に立つ男……魔王だ!
でもなんで? ぜんぜん輝力を感じないし、接近にも気づけなかったのは……
あ、もしかして。
このロボットの中にいると、外の輝力が感じられない?
そういえばナータやジュストくんが中にいることもわからなかったし。
えっと、じゃあもしかして。
「
視界の先、このロボットの『外』に輝術を展開。
……しようとしたけど、できなかった。
「なによいきなり意味わからない言葉を叫んだりして」
「ナータ、すぐに私を外に出して! あいつをやっつけなきゃ」
「飛行中なのにそんなことできるわけないじゃない。心配しないでもとっくに遥か後ろに――」
行ってなかった。
振り返った私はハッキリと見た。
魔王が黒い巨大な剣を振りかぶり、背後から迫っているのを。
カーディの使っているような常識的なサイズの大剣じゃない。
さっき輝攻戦神グランジュストが使っていたような、人が持つレベルをはるかに超えた本物の巨大剣。
『まずは一匹』
魔王の低い声がスピーカーから聞こえた。
その直後、私たちの乗ったヴォレ=シャープリーは巨大剣に斬り裂かれてしまった。
「ちょっ、なんなのよ一体!?」
六枚翼の半分と左足を奪われた機体はどんどんと高度を下げていく。
っていうかあと少し上にずれてたら、コクピットが両断されていたよ!
「コントロールが効かない……!」
ナータはレバーをガチャガチャ動かす。
どうやら操縦不能になってしまったみたい。
このまま地面に激突したら、私はともかくナータが危ない。
こうなったらナータには悪いけど、このロボットを内側から破壊して――
「るっ、ルーちゃん!」
「わっ!」
ナータが座席の背もたれを越えて抱き着いてきた。
な、何!? こんな大変な時に!
「あたしが守るから、ルーちゃんだけは絶対に守るからね! だからしっかり掴まって!」
「待って私は大丈夫だからちょっと離れて」
「離さない!」
突然の状況にパニックになっているのか、ナータは私をがっちり抱き込んだまま放してくれない。
こんな狭いコクピット内で下手に輝術を使ったら彼女を巻き込むかもしれない。
やばい、このままじゃ本当に激突する!
こうなったら、イチかバチか……!
「
自由になる右手で閃熱の剣を逆手に作る。
それで後方の壁をぐるりと円を描くように切り取った。
ガコッ! と盛大な音を鳴らして外れた部分が落下していく。
同時に外の景色を移していた画面が真っ白な壁面に戻ってしまった。
「熱っ! 何!?」
「あ、ごめん」
閃熱の刃が触れたらしく、ナータの服の裾が焼け焦げている。
機体に穴が開いたことで外へと感覚の手を伸ばせるようになった。
魔王の莫大な輝力が肌でひしひしと感じられる。
「それよりナータ、早く脱出を――」
しなきゃ、と言いかけた直後のことだった。
機体は地上に落下し、強烈な衝撃がコクピットを襲った。
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