724 ◆伝説の剣が眠る森
気がついたらさっきとぜんぜん違う場所にいた。
そこはちょうど森と草原の境。
目の前には鬱蒼と木々が生い茂っている。
振り向けば遠くにうっすらと大きなお城の威容が見えた。
「この森の中にルーちゃんがいるのね?」
「いえ、ルーチェさんはここにはいません」
なんだと!?
あたしはシルクの胸ぐらを掴み上げた。
「どういうことよコラ。ルーちゃんの所に案内するって言ったじゃない」
「あ、あああ、案内はしますけど、その前に寄るところが……」
「やめろ馬鹿者」
ごちっ。
ベラお姉様に殴られた。
「痛いわよ」
「お前はチンピラか。その方は恐れ多くも新代エインシャント神国の王女殿下だぞ」
王女?
こいつが?
「ふーん……」
「ど、どうもすみません」
まあ、どうでもいいわ。
「ルーチェさんを追ってビシャスワルトに行くためには、ウォスゲートがある神都に行かなくてはなりません。そこには多くのエヴィルが待ち構えています」
「ぜんぶ蹴散らして行けばいいじゃない」
「調子に乗るな。
うっ。
あ、あの化け物は特別でしょ?
それとも、あんな大怪獣が二匹も三匹もいるっての?
「我々が聞いた話では、魔王は複数の
「マジで二匹も三匹もいるのかよ。じゃあどうするってのよ」
「この森の奥深くにある勇者の剣を手に入れます」
「勇者の剣!?」
その単語に思いっきり食いついたのはミサイアだった。
「すごい! ファンタジー全開ですね! ぜひ見てみたいです!」
「ファンタジー、ですか……?」
「あー、こいつの事は気にしないでいいから。で、その勇者の剣がなんなの?」
「あくまで伝承ですが、勇者の剣には山を裂き、海を割る程の力を秘めていると言われています」
嘘くさいわー。
剣で山を裂けるかっての。
「し、信じて下さい」
「いや無理でしょ。どう考えても眉唾よそれ」
「眉唾じゃありませんよ! ねえ、皆さん?」
シルク姫が他の人たちに同意を求める。
ベラお姉様、ヴォルモーント、ナコはそれぞれこう答えた。
「正直に言えば、私たちも半信半疑なのですが……」
「そんなの実在するなら輝士団なり五英雄なりがとっくに手に入れてるでしょ」
「藁にも縋らざるを得ない想い。心中お察し致します」
「えっ」
どうやら誰も本気で信じてはいなかったみたい。
シルク姫はかなりのショックを受けていた。
「どちらにしても、いきなり敵陣に乗り込むのは得策ではありません。ここはひとまず別行動をとるのはどうでしょう? シルフィード王女が勇者の剣(笑)を探している間に我々は神都近辺の調査をして参ります」
「そーね、捕らわれてる人たちの居場所も探らなくっちゃいけないし、ついでにできるだけ敵の数を減らしておくわ」
フォローするようなベラお姉様の提案にヴォルモーントが賛成。
結局、あたしたちは二手に分かれることになった。
「もうすぐルーちゃんに会えるってのに! こうなったらあたしひとりで突っ込んでやろうかしら」
「ダメですよナータ。勇者の剣を見に行くんですから」
なんでこいつはここに来て無意味な寄り道をしたがるのよ。
放っときたいけどミサイアがいないと万が一のマシントラブルで死ぬ。
「オレも見回り組に……」
「ダメです! 勇者様がいないと剣は抜けないんですから!」
「それってどういう仕組みなんでしょうね。わくわく」
「大五郎が行くのでしたら私もそちらに……」
「ダメよナコ、アンタはこっち。ちょっとは弟離れしなさい」
「そんな!」
それぞれのメンバーはこんな感じで別れた。
エヴィル本拠地の調査……ベラお姉様、ヴォルモーント、ナコ。
勇者の剣(笑)の探索……シルク姫、勇者、ミサイア、あたし。
「定期的に
「わかりました。ベレッツァ様たちも無理はなさらないでくださいね」
「大五郎、元気でね。怪我しないようにね。何かあったら周りの人たちを頼るんですよ」
「わかってるよ姉ちゃん」
調査組の三人は遠くに見える城の方へと向かって言った。
残ったあたしたちは森の中へと入っていく。
「さあ、勇者の剣を探しましょう!」
「深い森に隠された伝説の剣。わくわくしますね」
「ほんとにあんのかよ、そんなの……」
ただし、それぞれテンションにはかなりの差があった。
どう考えてもこれ、時間の無駄だと思うんだけど。
※
森の中は薄暗く、歩くだけでも一苦労だ。
月の光も届かないので、シルク姫の
「夜に森の中に入るとか自殺行為だと思うんだけど」
「ぜ、善は急げと言いますし」
「っていうか、こんな薄暗い中で剣一本を見つけられんの? どこにあるのかちゃんとわかってるんでしょうね?」
「きっと神々がお導き下さるのではないかと……」
わかってないのかよ。
「いいじゃないですか。いかにも冒険してるって感じでドキドキしまあぶっ!?」
ミサイアが木に顔をぶつけたわ。
「やっぱり人類には光が必要だと思います!」
「はいはい」
とりあえずこのままじゃ暗すぎるから、あたしも
「インヴェルナータ様も輝術をお使いになられるんですね」
「初歩程度だけどね。っていうか様付けとかやめてよ、あんた王女なんでしょ」
「す、すみません」
だから謝んなって。
なんでこんなに低姿勢なんだろう。
あたし別に、こいつのことビビらせてないわよね?
「しかし意外と平和ね。エヴィルでも襲ってくるかと思ったけど」
いかにも何か出そうな雰囲気なのに、さっきから何も出てこない。
フクロウの鳴き声がどこかで響いてるくらいで、猛獣の類いすら全く見当たらないわ。
「ここは
「エヴィルが嫌がる何かがあるのかしら?」
「それが恐らく勇者の剣ではないかと」
まったく根拠がないってわけでもないのね。
けど、それがどこにあるのかわからないんじゃ仕方ないわよね。
「あれ?」
「どうしました?」
「あのダイゴロウとかいうやつがいないんだけど」
勇者とか呼ばれてる黒髪の男がいない。
一緒に森に入った所までは見てたんだけど。
がさがさ。
前方の茂みが揺れた。
あたしはとっさにMSGΖを構える。
「誰!?」
「あん?」
草を掻き分け出てきたのは、いなくなったはずのダイゴロウだった。
「あんた、いつの間に先に行ってたのよ」
「お前らこそいつ後ろに回り込んだんだよ。戻って寝ようと思ったのに」
なに言ってんだこいつ。
話がかみ合わないわね。
「ここは別名を迷いの森とも言われてまして、一度入ったら中々出られないことでも有名なんです。前に進んでいたつもりが気づいたら同じ地点に……と言うこともあり得るので、絶対にはぐれないよう気を付けてくださいね。私が以前に入った時は三日出られませんでしたから」
「そう言うことはもっと早く言いなさい」
なにが聖域よ、普通に危険地帯じゃないの。
「ナータ。ちょっと脳波干渉装置の索敵機能をオンにしてみてくれますか?」
「あん?」
「この森、少し変な感じがします。感覚を狂わせる何かがあるみたい」
んじゃやってみましょうか。
サーチ開始……完了。
「あっちの方からものすごいエネルギーを感じるわ」
「それが感覚を狂わせている原因ですね。勇者の剣かどうかはわかりませんが、行ってみましょう」
「勇者様、勝手に帰ろうとしないでください……」
「わーったよ」
怪しい気配の出所へ向かって、あたしたち四人は歩き出した。
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