723 ◆同行

「あー、しんど……」


 なんなのよ、あの大怪獣。

 こっちの攻撃はまるで通じないし。

 地形を変えるくらいの勢いで水を吐いてくるし。


 モフォークくんがくれた輝動二輪の仇は討てなかったわ。

 結局、エネルギー切れで撤退する羽目になった。

 まあ、逃げられただけでも御の字ね。


『ナータ、こっちです。もうちょっと右』

「あいよ」


 ミサイアの誘導に従って飛ぶ。

 あたしは彼女のいる方に視線を向けた。


 ……あれ、他にも誰かいるわね。


 とりあえずミサイアの傍に降り立った。

 六人ばかしいて、その中に知り合いの顔を見つける。


「あ、ベラお姉様じゃん。このまえぶり」

「お前、あの怪物と戦ってたのか?」

「ぜんぜん歯が立たなかったけどね」


 あいつビームもミサイルもまるで効かないんだもん。

 戦ってる最中にエネルギー切れの警告音が鳴った時は死ぬかと思ったわよ。


「だから言ったじゃないですか。いくら新型とは言えPBSでSS級の大型モンスターに挑むなんて無茶なんですよ。大きいってことはそれだけでどうしようもない特性なんですから」

「わかったわかった。あたしが悪かったわよ。で、この人たちは何?」


 あたしは周りの人を見回して、ふとピンク色の髪をした女に目をとめる。


 ルーちゃん!?

 ……じゃないわね。

 もうビックリさせなでよ。


 そいつはあたしを見て、驚いたように呟いた。


「あの……新世界の、イブ様……なのですか……?」

「違うわよ」


 とりあえず速攻で否定しておく。

 変な勘違いされても困るし。


「あたしはインヴェルナータ。フィリア市出身の、見ての通りただの学生よ。ちなみにベラお姉様の後輩だから」

「ただの学生は背中に機械マキナの翼を背負ってないし空も飛ばない。そもそもあんな化け物相手に一人で戦いを挑むなんて正気の沙汰じゃないわよ」


 真っ赤な髪の女が鋭い目で睨み付けてきたわ。

 なんだかすごく怖そうなやつね、ちょっとジルを思い出すわ。


「この翼はそこのミサイアからの借り物だし、あたし自身は本当にただの学生よ。ってか、こっちも名乗ったんだから、そっちも自己紹介くらいしてくれない?」

「ヴォルモーントよ」

「シルフィードです。シルクと呼んで下さい」

「あっちで寝ている黒髪の男がダイゴロウ。隣に座ってるのが姉のナコだ」


 赤髪とピンク髪がそれぞれ自分で名乗り、ベラお姉様が木陰にいる二人の紹介をした。


 別にこいつらに興味なんてないんだけどね。

 どうせここで別れたらもう二度と会わないでしょうし。


「そんなことよりミサイアこれからどうすんのよ。輝動二輪もなくなっちゃったし、あんなのが居座ってちゃ海を渡れないわ」

「大丈夫ですよ。彼女たちに同行させてもらうことにしましたから」

「また勝手に決めやがってこのアマ」

「待ちなさい異世界人。まだ同行させるとは言ってないわ」


 ほら、赤髪も嫌がってんじゃん。


「名乗るだけじゃなくてもっとちゃんと説明しなさいよ。アンタらは何が目的でビシャスワルトに向かってるわけ?」

「仕方ありませんね……ナータ、説明してさしあげなさい」

「偉そうに命令してんじゃねーわよ」

「私からも頼む。すまないが、力になってくれるのならありがたい」

「あ、うん」


 ベラお姉様の頼みなら仕方ないわね。

 でも、あたしは説明するだけだからね。

 こいつらがだめって言ったら諦めなさいよ。




   ※


 とりあえず、あたしの経験を主軸に、可能な限りくわしく語った。


 友達を追ってフィリア市を出たこと。

 その直後にドラゴンに襲われて、気づいたら異世界だったこと。

 ミサイアと一緒にミドワルトに戻って、なぜか一緒に旅することになったこと。

 サービスだかテストだか知らないけど、この機械の翼を借りてちょくちょく使わせてもらってること。


 ……話してて思ったけど、これ別に説明する必要なくない?


「そっちの子の事情はわかったわ。で、当の異世界人の目的は?」

「魔王の討伐と次元ゲートの封鎖です」


 ヴォルとかいう赤髪の問いかけに、ミサイアはきっぱりと正直に答えた。


「確かにこの世界ミドワルトを造ったのは私たちの住む世界の者たちです。ですが、だからといって我々は神のように振る舞うつもりは全くありません。というかハッキリ言って、ひとつの世界として自立した時点で、どちらの世界もすでに対等なんですよ」

「でもアンタらはミドワルトを支配できる力を持ってるんだろ?」

「それは単に文明の成熟度合いの差に過ぎません。不快に思われるかもしれませんが、私たちの多くはもうこちらの世界に興味なんてないんですよ。一部機関が監視を続けていますが、積極的に関わり合うつもりもなければ、支配や侵略をするつもりなんて全くありません」

「それを信頼しろと言うのは難しいな」


 ベラお姉様が厳しい表情でミサイアを睨み付けた。

 睨まれた本人はどこ吹く風で受け流してる。


「別に信用してくれなくても構いませんよ。私たちは魔王を倒したらすぐに紅武凰国に帰りますから」

「ちょっと待ちなさいよ。なによ『私たち』って。あたしは行かないわよ」

「言葉のあやです。とにかく、次元ゲートを強引に開いて別世界への侵略を行っている魔王こそ、私たちにとっても一番危険で許しがたい存在なんですよ。異なる世界を無理に繋げても混乱しか起こりません」

「利害は一致しているわけか……」

「私は助力を願うべきだと思います」


 シルクとかいうピンク髪の女が言った。


「彼女が本当にヘブンリワルトの住人なら、神々の力を借りられるようなものです。魔王に対抗するにはこれ以上に心強い味方はないでしょう」

「確かに、一理ありますね」

「アタシも別に反対はしないけど」


 なんかまとまっちゃいそうだし。

 ミサイアがウインクしてるがムカつく。


「こっちからも質問させてよ。なんでお姉様たちはこんな少人数でビシャスワルト? とかいう異世界に向かってるわけ? 普通は輝士団とか大勢引き連れるものじゃないの?」

「ああ、それはな……」


 今度は向こう側の事情を聞いた。




   ※


 話を聞き終えたあたしは言った。


「ミサイア! お姉様たちと一緒に行くわよ!」

「えっ、はい」


 モタモタしてる場合じゃないわ。

 さっさとビシャスワルトに向かわなきゃ。


 お姉様の説明……ぶっちゃけ、ほとんど頭に入ってないんだけど。

 なんか色々言ってたけど、とにかく重要なことはひとつ。


 ルーちゃんがそのビシャスワルトとかいう世界に行ったらしい。


 なら、あたしがやるべきことは、追いかける以外にない。


「お前は本当にルーチェの事が大好きなんだな」

「あったりまえよ。全身全霊を賭けて愛してるわ」


 じゃなきゃ誰がこんなところまで来るかっての。


「ちょっと待ちなさいよ。アンタ、ルーちゃんの何なの――」

「頼むヴォルモーント。これ以上話をややこしくさせないでくれ」


 何となくだけど、あの赤髪は要注意ね。

 あたしは誰にも負ける気はしないけど。


「そうと決まったらさっさと行くわよ。海峡を渡る手段はあるのよね?」

「は、はい。私が空間転移テレポートで皆さんを向こう岸までお運びします」

「そんじゃ行くわよ! 今すぐ!」

「仕方ないな……ナコ、ダイゴロウを起こしてこっちに来てくれ」

「あ、はい。わかりました」

「あー、話はまとまったか?」


 そういうことで、向こうで寝てた男と黒髪女も含めた七人が集合。

 ピンク髪のシルクが中心に立って輝言を唱え始める。


空間転移テレポート!」


 視界がぐにゃりと歪んだ。

 あっちの世界から帰ってきた時の感覚に似てる。

 なるほど、これで一気にルーちゃんの所まで瞬間移動できるってわけね!


 待っててねルーちゃん!

 いま会いに行くから!

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