715 みたび、黒将襲来
「いやあ、ずっとチャンスを待ってたんだよね。お嬢様が斬輝使いから離れて単独行動してくれる時をさ。余計な赤髪も着いて来ちゃったけど、まあ、これくらいなら良いでしょ」
「へえ、言ってくれんじゃない?」
ダイやナコさんに比べたら問題にならないとこいつは言っている。
あからさまに侮られたヴォルさんは獰猛な笑みを浮かべた。
「おっ、やるの? いいよ。まとめてやっつけてあげる。ぼく知ってるんだよ? お嬢様がいま全く力を使えないって――」
「
九つの黒蝶をゼロテクスの周囲に配置。
全方位からぶつけて一斉に爆発させる。
どかどかどかどかどかどっかーん!
「ぎゃーっ!?」
素早く耳を塞ぎつつ、私とヴォルさんは大きく後ろに距離を取った。
煙の中からボロボロになった先生の姿の黒将が現れる。
さすがにあれくらいじゃ倒せないか。
「ちょっと、どういうことなの!? 力が使えないんじゃなかったの!?」
「もう治ったっぽいよ」
まだまだ本調子には遠いんだけどね。
別に調子に乗らせてあげる必要はないし。
「ぐぬぬ……少し遅かったか……だったら手加減はしないもんねー!」
ゼロテクスの口から黒く小さな無数の球体が噴出する。
宙に浮かんで膨らみ、亀裂が入り、中から顔のない黒人形が現れる。
黒将ゼロテクスから生まれた暗黒の軍勢だ。
「ブラックフォース! ゆけ、ぼくの娘たちよ!」
何百もの黒将の分身たちは、あっという間に空を埋め尽くさんばかりに増殖していく。
そのうちの一部がゆっくりと地上に降りてきて――
「オラアッ!」
着地する前に、ヴォルさんが炎の輝粒子でぶっ飛ばした。
「ルーちゃん!」
「うん!」
倒したのはほんの一部。
全部やっつけてたんじゃ輝力と体力が持たない。
だから、とにかく二人がかりでゼロテクスの本体を倒す!
「
九つの白蝶で閃熱のオールレンジ攻撃。
大賢者の力を得た黒将に小細工は通用しない。
とにかく攻めて攻めて攻めまくる!
「死ね、クソ野郎!」
ヴォルさんが地面を蹴って急接近。
飛んでいるゼロテクスを正面から殴り飛ばす。
「ぶぼっ!? ちょっと、なんでこっちに向かってくるわけ!? ぼくの娘たちが暴れてるけどいいの!?」
「周りには村も町もないし、放っておいても大丈夫でしょ!」
「あっしまった」
近くに人が住んでるとかならともかく、別に急いで黒人形を退治する必要はない。
ゼロテクスが力を失えばすべて消えるのは前回に確認済みだし。
「ええい、なら……ばりあー!」
黒将の周囲が歪み、輪郭が水に浸されたように曖昧になる。
先生が編み出した輝力を強制的に散らせる技だ。
あの中ではヴォルさんの莫大な輝粒子すらもかき消されてしまう。
輝攻戦士に対しては最強の防御結界。
しかし。
「せいっ!」
「おふっ!?」
ヴォルさんは懐からナイフを取り出し、それを黒将の眉間めがけて投げつけた。
術者の集中が乱れたことによって、周囲の歪みが正常に戻っていく。
よし、やっぱりあれは常時展開式じゃなかった!
「えいっ」
そこに私が閃熱白蝶弾の九発同時攻撃!
「ぎゃぴっ!」
「油断しすぎなのよ、アンタは!」
ヴォルさんが敵の頭上を取った。
彼女が纏う五倍の輝粒子は正常に燃え上がったまま。
くるりと体を回転、上から下に叩き落とすような蹴りが炸裂する!
「うっぎゃーっ!」
地上に向かって落下していくゼロテクス。
私は閃熱の翼を拡げ、カウンター気味に敵の体を包んだ。
「えい!」
「熱ーっ!」
「とどめ、くらえっ……」
無防備な黒将に手を当てる。
ゼロ距離で最強の輝術を叩き込む。
「
翡翠色の矢がゼロテクスを押し上げたまま、はるか上空へと昇って――
いかなかった。
「ああもう! あんま調子に乗るな!」
一〇〇メートルほど打ち上げた所で、途端に光の矢が消失。
ゼロテクスの周囲で淡い輝きとなって散った。
「もうこうなったら本気でぶっころすよ! 変・身!」
黒将の全身が
あれは超絶パワーアップの術、
この状態になった黒将は本気で手がつけられない。
斬輝使いがいない限り勝つのはまず無理だ。
「ヴォルさん、こうなったら!」
「わかってるわ!」
私たちは詳しい言葉を交わさず次の作戦を確認し合った。
「くっふふふ! この状態になったぼく相手に、どんな抵抗をしてみせるのかな? 言っておくけどさっきみたいな小細工はもう通用しない……って、どこ行くの!?」
決まってるでしょ、逃げてるんだよ!
私は閃熱の羽を拡げ、ヴォルさんは輝粒子を全快にして走る。
変身した黒将や数百の黒人形を置き去りにして。
「ああもう、逃げるなんておまえらそれでも正義の味方かーっ!」
「別に正義の味方じゃないし!」
正義だろうとなんだろうと、勝てなきゃ逃げるでしょ!
……と見せかけて、
「
「ぎゃーっ!?」
直接当てるとかき消されるから、追ってくる足下の地面付近で爆発させる。
砂埃と煙が遙か上空まで立ち昇って奇妙な灰色の逆雲が生まれた。
見えないけど地面には巨大なクレーターができたはず。
「すっご……やったんじゃない?」
「あれくらいじゃ倒せないよ! それより今のうちに――」
斜め後方から氷の矢が豪雨のように降り注ぐ。
私はそれを閃熱の翼で振り払った。
「よくもやったなあ!」
煙の中からゼロテクスの声が聞こえてくる。
直後、翡翠色の矢が飛び出すのが見えた。
ヤバい、向こうも
このタイミングじゃ避けられな――あれ?
翡翠色の矢は近くの木に当たって大爆発を巻き起こした。
辺り一面を埋め尽くす莫大な光と轟音。
さっきと同じ、地形を変えるレベルの破壊が巻き起こる。
「はっははー! お嬢様、死んだ? 反応がなくなったねー? なんだ意外とあっさりだったね、最初からこうしておけばよかったよ!」
※
あのパワーアップモードは正直言って反則だよね。
なにせノータイムノーリスクで八階層の輝術を使ってくる。
まともに戦っても絶対に勝てないし、一直線に逃げ切るのも難しい。
「ヴォルさん、大丈夫?」
「な、なんとか……痛っ」
ゼロテクスが
煙と炎で視界を失っていたせいか、かなりズレた位置に着弾。
その隙に
地面の下に潜みつつ、
流読みじゃ地中にいる人間の気配を感じることはできない。
そういうわけで、なんとかゼロテクスから身を隠すことに成功した。
けれど、ヴォルさんは爆発の余波から私を庇ったせいで、結構な傷を負っている。
「いま治すね」
「わ、悪いわね……」
「ううん、庇ってくれてありがとう」
私はヴォルさんの傷に手を当てて
彼女の治療をしながら、今後のことを話し合う。
「ムカつくけど、アレを倒すのはやっぱ無理だわ」
「このままどっかに行ってくれればいいんだけど……」
糸状にして伸ばした私の新式流読みなら、地上にいる敵の気配を感じる事もできる。
ゼロテクスはここから少し離れた場所の上空に浮かんでいた。
分身である黒人形たちも周りに大勢いる。
「それとも、このまま地面を掘って移動する?」
「時間がかかりすぎるわよ。いつ崩落するかもわかんないし」
最悪なのは地面が崩れて空が見えてしまうこと。
逃げ場のない状況でゼロテクスに気づかれたら完全にアウトだ。
やっぱり、あいつがいなくなるまでここに隠れているしかない。
……とち狂って
そんな最悪の想像をしていると、ゼロテクスはもっと信じられない暴挙に出た。
「いちおう確認しておこうか。お嬢様、生きてるならでておいでー! じゃないと、ここから一番近くの町を攻撃して、住んでるヒトを皆殺しにしちゃうよー!」
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