714 仕切り直し
「あの大怪獣をやっつけるのは無理だと思います」
防御結界が切れると同時に、私たちはベラお姉ちゃんが万が一のため魔剣にストックしていた
何とかガイオウンから逃れることに成功し、ナコさんシルクさんと合流。
海から離れた所に避難して、こうして今後のことを話し合っているのです。
「お姉ちゃん、マントだめにしちゃってごめんね」
「気にすることはないぞ」
ちぎれた下半身は元に戻せても、残念ながら服は再生できない。
なのでお姉ちゃんがマントを改造して即興のスカートを作ってくれた。
下着を履いてないのでとってもすーすーするけど。
「っていうか、アレ放っておいて良いわけ? 上陸されたらマジでシャレにならないわよ」
ヴォルさんが懸念する。
私もそれはもっともな心配だと思う。
あいつが歩けば、それだけで街は壊滅する。
とは言っても倒す手段がない以上はどうしようもない。
「スーちゃん、どう思う?」
「上陸してくる可能性はゼロじゃないだろうが、あれを食い止めるのは本当に無茶だぞ」
「気づかれるギリギリの距離から極覇天垓爆炎飛弾 《ミスルトロフィア》 を撃ちまくるとか……」
「倒すのが先か輝力欠乏症になるのが先か試してみるか?」
あいつが夜将より耐久力が低いってことはないだろうし、無茶だろうなあ。
「しかし参ったぜ。魔王以外にもあんなバケモノが待ち受けてるとはな」
怪物相手にまったく攻撃が通じなかったダイはとても不機嫌そう。
らしくない弱気な言葉を口にする。
「もしかしてあんなのが他に何匹もいるのか?」
「確認されてるだけで
あんなのが五体もいるとかマジですか。
「
「極論を言えば無理をして倒す必要はないわけだ」
ベラお姉ちゃんはそう結論付ける。
「プロスパー島に上陸するだけなら大きく迂回すれば済む。いっそ後回しにしてはどうだろう?」
「先に勇者の剣さえ手に入れれば、あの怪物も倒せるかもしれませんけど……」
ん?
「シルクさん、勇者の剣って何?」
「新代エインシャント神国にある伝説の古代神器です。その力は山を裂き、海を割るといわれています。私たちはそれを手に入れるためにプロスパー島へ向かっているって……言いませんでしたっけ?」
なにそれ聞いてない。
「どうしてそういう大事なことをちゃんと言っておいてくれないの?」
「ご、ごめんなさい」
「仕方ないだろう。シルフィード王女が話をして下さった時、ルーチェはふて寝していたんだから」
そうだっけ?
記憶にございません。
まあいいや。
「とにかく、その勇者の剣があれば、あの怪物も倒せるかもしれないんですね」
「あくまで伝説なので、必ずとは言い切れないのですが……」
「つーかオレは勇者じゃねーってずっと言ってんだけど。それ、本当に使えんのかよ?」
やんややんや。
敗退したことでみんな気が立ってるみたい。
話し合いにもまとまりがなく、延々と言い合いが続いてしまう。
「とにかく、最優先すべきはあの怪物の存在をルティアに伝えることだ。できればマール海洋王国側にも警告をしておきたい」
普通の人たちが大勢で挑んでもどうしようもないからねえ。
一大反攻作戦を計画して、返り討ちに遭って全滅とか目も当てられない。
「いちど全員で戻る?」
「それは時間の無駄だ。私がひとりで行って伝えてこよう」
お姉ちゃんの魔剣には最後の
ついでに壊れた空飛ぶ絨毯の変わりになるような乗り物も持ってきてもらいたい。
「あの、もし良ければ私も着いて行ってもよろしいでしょうか? 試してみたいことを思いついたので」
「もちろん構いませんよ。では、シルフィード殿下と共にルティアに戻ります」
「気をつけてね、お姉ちゃん」
「すまんな。しばらく待っていてくれ」
そういうことで、ベラお姉ちゃんとシルクさんはルティアに戻ることになった。
※
残ったのは私、ダイ、ナコさん、ヴォルさん。
ここから比較的近い街に移動して、そこでしばらく二人を待つ。
「ルーちゃん。ちゃんとした術師服を買ってあげるから、おいで」
「わーい」
この町も少し前まではエヴィルに支配されていたらしい。
人口は多くないし、あまり復興も進んでいないけれど、少しずつ活気を取り戻しているように見える。
ダイとナコさんは二人で町の外に出て稽古をしている。
この辺りにエヴィルはいない。
セアンス共和国にはもう平和が戻り始めている。
あとは海の向こうの新代エインシャント神国さえ奪還すれば、人類の勝ちだ。
「あれ?」
「どしたの?」
さすがにブティックはなかったので、仕立屋さんに無理を言って術師服を一着おろしてもらい、今晩の宿屋でも探そうとした途中のこと。
「あっちにエヴィルの気配がする」
私の流読みの探知に複数の気配が引っかかった。
距離はここから六キロほど東に行ったところ。
おかしいな、普通は一〇キロ以内にいればすぐわかるのに。
やっぱりまだ勘が鈍っているのかもしれない。
「数は?」
「十二体。獣型じゃなくてビシャスワルト人だね。移動はしてないみたい」
それか、いきなり現れたってことは、もしかしたら地下に潜っていたのかも。
将を失った魔王軍の残党が地下に隠れ潜んでいるとしたら結構な問題だ。
「んじゃ潰して来ましょうか。暇だし」
「ダイたちにも知らせる?」
「今回は必要ないでしょ」
ダイはともかく、ナコさんは輝攻戦士じゃないから、あまり長距離を高速で移動することはできない。
ここは私とヴォルさん二人だけの方が身軽だし手っ取り早い。
まあ将でもいない限り、二人だけでもやられるわけないしね。
というわけで、エヴィルが現れた場所に向かおう。
※
炎の翅を拡げて空を飛ぶ私。
木から木へと飛び移っって駆けるヴォルさん。
もうまもなくエヴィルの反応があった場所へと辿り着く。
「そのエヴィルは移動してないの?」
「うん。ずっと同じ場所にいるよ」
地下に潜った集団が顔を出しただけなら、すぐに引っ込んじゃう可能性も考えたけど、どうやらそういうこともないみたい。
一体何をやってるんだろう?
ともかく、怪しいことには変わりない。
「見えたわ」
先を行くヴォルさんがまずそれに気づいた。
少し遅れて私もそれを目にして……思わず首を捻った。
「え。何やってんの、あれ」
そこにいたのは十二体のビシャスワルト人。
小さめの体に悪魔の角を生やした、色白の種族だ。
そいつらは何故かまとめて大岩に縛り付けられている。
「ちくしょう、こいつを解けぇ!」
「おーい! 誰か、誰かーっ!」
しかも助けを求めてるし。
これっていったいどういう状況?
「ああ、なるほど。そういうことね」
「どういうこと?」
ヴォルさんは何かを理解して納得したみたい。
ひとりで頷いてないでこっちにも説明して欲しいんだけど。
「つまりこれはあれでしょ……罠ってやつよ」
「そっのとーり!」
「わっ!?」
急に背後で大声を出されて飛び上がりそうになった!
もう飛んでるけど!
「そいつらはお嬢様を釣るための生き餌だよ。ようこそ、ぼくのアトリエへ!」
そいつはグレイロード先生の姿をした、黒将ゼロテクス。
とんでもなく厄介なやつが私たちを待ち構えていた。
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