709 ひとまず仲良くしようと思う
「私は連合輝士団の本部に寄ってから行くから、先に北門前に向かっていてくれ」
「わかった」
そこで一旦集合してから全員で出発だ。
私はヴォルさんと一緒にホテルのロビーへ向かった。
「あ、おはよ」
「おう」
ロビーではすでにダイが待っていた
背中と腰にそれぞれ剣を差し、軽い荷物を肩に背負っている。
「アンタは一緒に行くって事でいいのよね?」
「ま、一人よりは仲間がいた方が便利だからな」
ヴォルさんが確認して、ダイは軽く首を縦に振った。
「それじゃしばらくよろしくね。勇者様」
「だから勇者じゃねえって」
ぶっきらぼうに否定するダイと、そんな彼に対してうっすら笑みを浮かべるヴォルさん。
おや、おやおやおや?
なんだか不思議な空気だぞ?
「集合地点は北門だったな」
そう言ってダイはさっさとホテルから出て行く。
私はヴォルさんの顔を覗き込んだ。
「仲良くすることにしたの?」
「ま、一緒に戦う仲間だしね」
ダイと同じような答え方だね。
ヴォルさんとダイかあ。
意外と良さそうな組み合わせじゃない?
あ、でもダイはもうどっかの子と婚約してるんだっけ。
「他人の関係を邪推できる程度には立ち直ったって思ってもいいのかしら?」
「いつまでも泣いてばっかいられないからね」
※
ホテルを出ると、すぐにダイに追いついた。
彼の少し後ろを私たち二人で並んで歩く。
ルティアの街はかなり大きい。
北門まではけっこうな距離があるみたいだ。
ただ残念なことに、乗り合いの輝動馬車はまだ運営していない。
「ちんたら歩いてたら日が暮れちまうな」
「輝攻戦士化して飛んでいきましょう。ルーちゃんはアタシが背負ってあげる」
「あ、はい」
ヴォルさんが炎の輝粒子を纏う。
ダイも
私はヴォルさんの背中にしがみつく。
これ、燃やされちゃったりしないよね?
「うはっ」
「どしたの、ヴォルさん」
「いや、ルーちゃんの感触が、思った以上に……」
「降りる」
「嘘! 冗談だから!」
「遊んでんじゃねーよ。先に行くぜ」
輝攻戦士化したダイが近くの家の屋根に飛び乗る。
「ちっ……ルーちゃん、しっかり掴まってなさいよ!」
「えっ、ちょ」
私の腿を両手で抱えると、ヴォルさんもダイの後を追って屋根に登った。
すでにダイは屋根から屋根へと伝ってかなり遠くに行っている。
「負けるか!」
ヴォルさんは全力でダイを追いかけ……わわわーっ!
速い! 怖い! もっとゆっくり走って!
「おっさき~!」
「あっ」
ダイが追い抜かれるのがちらりと横目に見えた。
それもそのはず、ヴォルさんの輝力は並の輝攻戦士の五倍。
こういう「どれだけ力を出したか」の全力勝負なら彼女に敵う人はいない。
「ははっ、伝説の勇者もたいしたことないわね」
「ヴォルさん、大人げないよ!」
昨日の夜に私を諭してた人とは思えないね。
こういう所は子どもみたいなんだから!
※
「到着、っと」
「つ、着いた……?」
実際の速度は閃熱の翼で飛ぶのとそれほど変わりないはず。
だけど、自分で飛ぶのと何かに乗って進むのじゃ後者の方が断然こわい。
ヴォルさんから降りる。
ダイはまだしばらく到着しそうにない。
あっという間にルティア北門前までやってきちゃった。
そこでしゃ私たちを待っている人がいた。
「おはようございます」
「あ……おはようございます、ナコさん」
ダイのお姉さんのナコさん。
「怪我をしてたって聞きましたけど、もう大丈夫なんですか?」
「ええ。『きじゅつし』さんに治療をしていただいたおかげで、すっかり元通りになりました」
ナコさんはエヴィルの襲撃から、たったひとりで南門を守ったらしい。
そんな彼女の姿を見て心を動かされた人たちもいたって聞いた。
「それで、るうてさん、あの」
「ダイならもうすぐここに来ますよ」
私が言うと、ナコさんは黙って頷いた。
やっぱりちょっと緊張しているみたい。
「大五郎は、私のことを――」
とたん。
彼女の声に被せるように、屋根の上からダイが降ってきた。
「くそっ、化け物かよあの女!」
文句を言いつつヴォルさんを睨み付けるダイ。
ヴォルさんはふふんと鼻を鳴らし、立てた親指をナコさんの方に向ける。
ダイの視線がすっと横に移動する。
ナコさんと目が合った。
「大五郎……」
「……姉ちゃん」
私も思わず唾を飲み込んだ。
以前は望まぬ刃を交わらせた二人。
あの時、ナコさんの心は邪悪な病が蝕まれていた。
だからこれが本当の姉弟再会と言えるかもしれない……けど。
ナコさんの中には、決して消えることのない罪の意識が残っている。
彼女はダイの側まで駆け寄って深々と頭を下げた。
「御免なさい。私、あなたに――」
「待った」
ダイはナコさんの謝罪の言葉を遮って彼女の肩に手を置いた。
「オレに謝っても仕方ないだろ」
「その通りです。しかし……」
「今は何も聞かないよ」
ナコさんが顔を上げる。
ダイは真剣な目で彼女を見ていた。
「姉ちゃんの悪い病気が治ったことは聞いた。それから、この街の人たちのために命がけで戦ってくれたって話も」
「……はい」
「だから、これからも戦い続けよう。オレも一緒に戦うから。罪滅ぼしじゃないけど、姉ちゃんが殺した人よりもたくさんの人を救おう。それで、戦いが終わったら……また別の方法で償っていこう」
許されることのない罪。
答えの出せない問題。
「それしかないんじゃないかな」
ダイは許すとも、悪くないとも言わなかった。
苦しむナコさんにいちばん大変な方法を提案した。
「……はい」
ナコさんの目から涙が零れ、顔を覆った。
戦いが終わった後、ナコさんがどういう風に生きていくのかは、まだわからない。
すべての罪が許されて、平穏に生きていけるようになるかもしれない。
あるいは償いきれずに悲しい終わりになるかもしれない。
けど、これだけはわかる。
この姉弟はもう、刃を向け合う必要なんてない。
※
「待たせたな」
しばらくしてベラお姉ちゃんがやって来た。
その隣にはシルクさんもいる。
さて、私もひとまずけじめをつけなきゃね。
「シルクさん」
「ひあっ!? は、はい!」
そんなに怯えないで欲しいんだけどな……
私、別に彼女に酷いことなんてしてないよね?
「仲良くしましょう」
「えっ……?」
私は彼女に手をさしのべた。
「お互いにいろいろ言いたいことはあると思いますけど、それよりも世界に平和を取り戻す方が今は大事だと思います。だから、それが終わってから……」
……なってから、どうするの?
私はジュストくんのこと諦めないから改めて勝負!
そんなことを今さら言っても、もう二人は相思相愛なんだよね。
うわー、ダメ!
考えたらまたぐちゃぐちゃしちゃう!
「……は、置いておいて。とにかく今は仲良くしましょう! 平和のために! いいですか!?」
「は、はい! よろこんで!」
ビクビクしながら手を握り返してくるシルクさん。
なんだかよくわからない事になった。
まあ私、この人のことは別に嫌いじゃないし。
あ、でも、ひとつだけ。
ジュストくんがいなくて本当によかったと思う。
もしも目の前でいちゃいちゃされたら衝動的にやっちゃいそうだし。
っていうかジュストくん、一体どこ行っちゃったんだろうね?
「これで全員なのか?」
「は、はい。そうです勇者様」
集まったのは私、ダイ、ナコさん、ヴォルさん、ベラお姉ちゃん、シルクさんの六人。
今回はこのメンバーで魔王軍に支配された新代エインシャント神国に潜入する。
あくまで偵察が目的だけど、あわよくば将を一体くらいは倒したい。
「頑張りましょうね、シルクさん」
「はい」
シルクさんはにこりと微笑んで頷いた。
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