679 会いたくてたまらない
「やはり、我々四人のみで将を狙うのが良いと思う」
ここはセアンス共和国のとある町。
首都ルティアから十キロほどの場所にある小さな町だ。
そこの宿屋を兼ねている食堂で、私たちは今後のことを話し合っていた。
「ベラちゃんらしくない大胆な方針ね。連合輝士団とやらの助力は得られないの?」
「お前もルーチェの力を見ただろう。下手に敵味方入り乱れる戦場では、かえって力を制限されることになる。そして、それはお前も同様ではないか?」
「まあね」
とても積極的な作戦を提案するのは、意外にもベラお姉ちゃんだった。
個人的に連合輝士団に戻りたくないって理由もあるんだろう。
けど、それは別にしても理にかなった方針だと思う。
「前にもそうやってマール海洋王国を救ったんだったな?」
「うん」
あの時は四人どころかひとりだったし。
夜将にはとどめを刺せずに逃げられちゃったんだけどね……
あとなんていうか、ベラお姉ちゃんが私をすごく頼ってくれてるのが嬉しい。
「しばらくは私とナコでルーチェのための輝力を集めようと思う。それを効率的に行うためにも、ルティアには行かない方がいい」
「なんで?」
「私が連合輝士団に顔を出せば原隊復帰をせざるを得なくなる。ヴォルモーントも正式に星輝士に復帰したら、大きく自由を制限されるのではないか?」
集団行動をしなきゃいけないのは確かに面倒かもね。
「ナコも人の多い都市には近づきたくないだろう?」
「そうですね……」
連合輝士団にはあの事件を知っている人もいるかもしれない。
正気に戻ったとは言え、彼女を許せない人もいるだろう。
この間のヴォルさんがそうだったみたいに。
「裁きはいずれ何らかの形で受けるつもりです。しかし願わくば、今はこの命をより有益な形で使いたいと思っています」
それは、とても難しい問題。
けど今はまだ彼女を失いたくない。
この三人がそろっている今だからこそ、できることがあると思う。
「よし、それじゃルティアには行かないということでいいか?」
「ちょっといい?」
ヴォルさんがテーブルに頬杖をつきながら片手を上げる。
「なんだ」
「アタシの気のせいかも知れないんだけどさ……」
彼女はベラお姉ちゃんの顔をじっと覗き込みながら言う。
「アンタ、もしかしてルーちゃんをルティアに行かせたくないとか思ってる?」
「ななな、なにを根拠に!?」
「連合輝士団を抜けてきたって言っても、別に処罰を受けるような事はしてないでしょ。なんなら王族のお墨付きももらってるわけだし。そもそも天輝士って独自行動の権限があるんじゃなかったっけ?」
お姉ちゃんはあのとき一緒にいた輝士さんに伝言を頼んでいる。
たしか(嘘だけど)戦いで重傷を負って、療養するってことになっていた。
あの人が上手く言ってくれていたら、お姉ちゃんが罰せられることはない……はずだ。
「ナコのことは確かにその通りだけど、ルーちゃんの輝力補給を第一に考えるなら、やっぱり都市を拠点にしておいた方が良いと思うわ。最悪、防衛戦でも十分に力は発揮できるし。寄せ集めの連合輝士団なんてその気になればいくらでも出し抜けるわよ。あとアタシは星輝士に復帰するつもりなんてないから」
「むむむ……」
うーん、ヴォルさんの言うことも一理ある。
私の力が役に立つってわかれば輝力を融通してもらえるかもしれない。
あれ? っていうか私、なんだかすごく大事なことを忘れてるような気がするんだけど。
なんだろう、なんだっけ。
会っておかなきゃいけない大切な人がいたような……
「まあ、また光の輝士様がルティアをお守り下さったのね!」
と、近くのテーブル席から近所の奥様たちの会話が聞こえてきた。
「連合輝士団のエースですわね。あのお方はまさに人類に残された最後の守護神よ」
「本当にすてきねえ。一度で良いから生のお姿を拝見したいざますわ」
「光の輝士様は何というお名前でいらしたかしら?」
「やあねえ、お忘れになったの?」
へえ、連合輝士団にもすごい人がいるんだね。
「ルーチェ、今すぐここを出よう!」
「え? でもまだ食事も来てないよ」
いきなり椅子から立ち上がるお姉ちゃん。
その不審な態度を不思議に思っていると――
「ジュスティッツァ様ですわ。かの英雄王アルジェンティオ様のご子息で、連合輝士団エースにして光の輝士。お仲間からはジュスト様と呼ばれているそうですわよ」
がたっ。
「あーっ、そうだ!」
私も思わず席を立った。
「な、なんですの!?」
「あっちゃーっ! 熱いざますーっ!」
向こうで驚いた奥様がコーヒーをこぼしてたけど気にしてられない。
そうだよ、ジュストくんだよ、ジュストくんに会わなくちゃ!
前にもルティアにいるって聞いてたけど、なんかあの時はお姉ちゃんに強引に流されて、そのまま今までずっと忘れてた。
うわあ、思い出したらすごく会いたい!
無事なんだよね、元気にやってるんだよね!?
「お姉ちゃん、やっぱりルティアに行こう!」
「いや待て、待つんだルーチェ。ちょっと落ち着くんだ」
「落ち着いてなんかいられないよ! 私はすぐジュストくんに会いたい!」
「へえ、アイツも連合輝士団に参加してるのね」
ジュストくんが一緒にいてくれるなら作戦の幅も増える。
都市に籠もって防衛するにしても、こちらから将を探して挑むにしてもだ。
今のところ、将を倒した実績があるのは必殺技『スペルノーヴァ』を使える彼だけだ。
これは早く合流するべきだよね。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんが勝手に抜けたことはきっとみんな怒ってないって」
「いや、そういうことじゃなくてな……」
「もしダメならジュストくんも連合輝士団から連れ出しちゃおう。将さえやっつければこの国も平和になるんだし、都市の防衛にこだわる必要ないはずだよ」
なんか急激にテンション上がってきた。
私、お姉ちゃん、ヴォルさん、ナコさんに加えてジュストくん。
このメンバーで挑めば将にだって絶対に負けないよ!
もう防戦一方になる必要なんてない!
「さあ行こう、すぐ行こう。ジュストくんに会いに行こう」
「くっ、なぜこんな事に……!」
お姉ちゃんは何が心配なんだろうね。
けど、心配することなんて何にもないんだよ。
だって私はジュストくんさえいれば幸せなんだから!
逆に言えば彼がいない生活なんてすごくつまらない。
あーダメだ、一度意識したらもう会いたすぎてふるえる。
「よくわかんないけど、ベラちゃんとナコが行きづらいってんなら、とりあえずアタシと一緒にルティエに行く? アタシはいざとなったら蹴散らしてでも戻って来れるからさ。二人はしばらくこの町で待ってなさいよ」
「そうだねヴォルさん! 一緒に行きましょう!」
「いや待て待て本当に落ち着け」
「お姉ちゃん」
なぜか慌てるお姉ちゃんの肩に手を当て、私はぐっと親指を立てた。
「大丈夫!」
愛の力の前では何者にも負けないんだよ!
「お、おう……」
「と言うわけで行ってきます。そんな心配しなくても、二日以内にはちゃんと帰ってくるから」
別にお姉ちゃん達を見捨てるってわけじゃないし。
ただ一目だけでも、ジュストくんに会いたいだけなんだよ。
あ、でも余裕があるならお茶でもしながらゆっくりお喋りもしたいな。
「くっ……仕方ない。こうなったら、覚悟!」
ベラお姉ちゃんの手が私の頭に伸びる。
「させるか!」
私はそれをすぱっと払い、逆にお姉ちゃんの首筋に腕を絡めた。
そのまま顔を近づけて唇を重ね輝力をちゅーっと吸い取る。
「きゅう……」
目を×の字にして倒れるベラお姉ちゃん。
私は彼女の身体を支えてナコさんにお願いする。
「ごめんなさい。ベラお姉ちゃんはちょっと疲れてるみたいなんです。明日か明後日には戻ってきますから、それまで面倒を見てもらっても良いですか?」
「わかりました」
「ルーちゃん、容赦ないわね……」
ということで、お姉ちゃんとナコさんはこの町で待機。
私はヴォルさんと一緒にジュストくんのいるルティアに向かうよ。
いま会いに行くから、待っててねジュストくん!
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