680 英雄王ご乱心
さあて、そういうわけでやって来ましたよ!
セアンス共和国の首都ルティア!
さすが大国の首都だけあって、とびきり大きい
具体的には帝都アイゼンと比べてもそれほど変わらないくらい。
ただ、街の様子はどこか活気がないように見える。
それはやっぱり、ここが対魔王軍の最前線だからなのかな?
ちなみに私たちは空から街に侵入した。
こんな時期だし、不審に思われて止められたら面倒だからね。
流読みでに警備の甘い部分を見抜いたから、それほど苦労せず街に入ることができた。
「さあて、ジュストくんはどこにいるのかな~?」
「まずは連合輝士団の本部を探すのが良いと思うわよ」
ヴォルさんがアドバイスをしてくれた。
連合輝士団っていうのは、シュタール帝国輝士団とファーゼブル王国輝士団が臨時で協力して設立した、対エヴィルのための即席輝士団のことらしい。
設立まではいろいろ問題があったみたいだけど……
ともかく今は人類の主力として、この街を拠点に魔王軍と戦っている。
ジュストくんはその連合輝士団のエースって呼ばれてるみたい!
さすがジュストくん、強くてかっこよくてかっこいい!
「はやく会いたいなあ。わくわく、わくわく」
「ふふふ。恋してるルーちゃんは可愛いなあ」
こどもをあやすように私の頭を撫でるヴォルさん。
や、やだ、そんな、恋だなんて……♪
その通りなんだけど!
あれ、でもヴォルさんは私がジュストくんの事を好きなの、嫌じゃないのかな?
「一番がアタシじゃないのは残念だけど、ルーちゃんが幸せならアタシも嬉しいわ」
「ヴォルさん……」
なんていい人なんでしょう。
今まで変な人だなんて思っててごめんなさい。
「だから上手くいったらアタシは愛人一号ね。彼氏とかいても全然気にしないから! むしろ燃え上がるから!」
「二日後に街門の横で合流でいいですか? 元気でね!」
「冗談だから! 置いていかないで!」
やっぱりヴォルさんはヴォルさんでした。
そうこうしているうちに、行く手に物々しい建物が見えてくる。
その建物には『連合輝士団第二宿舎』って書かれた看板が下がっている。
門の前には威圧するような重武装の兵士さんが立っていた。
なんか近寄りがたい雰囲気……だけど!
「こんにちは。ジュストくんいますか?」
「なんだ貴様は!?」
話しかけたら槍を向けられたよ。
ちょっとピリピリしすぎじゃない?
「連合輝士団のエースとかって言われてるみたいなんですけど、ジュストくん、ここにいるんですよね? 知り合いなので会わせてもらえませんか?」
「黙れ! すぐに立ち去らないと兵を呼ぶぞ!」
とりつく島もないよ。
うーん、どうしよう……
「門番にいきなり話しかけるルーちゃんもアレだけど」
ヴォルさんが私の肩に手を置いて前に出る。
「アンタはどこの誰に槍を向けてるかわかってるんでしょうね?」
「な、なんだ、お前、は……」
睨み付けられた兵士さんの声が小さくなる。
やがて、ヴォルさんを見る彼の目が大きく開かれた。
「あ、あなたはまさか、元
「わかってるならさっさと通しなさい。それとも、腕尽くで押し退けられたい?」
わあヴォルさん強引。
らしいって言えばらしいけど。
ところが。
「も、申し訳ありませんが、いくらヴォルモーント様とは言え、許可なく通すわけにはいきません。今は非常事態ゆえ、ご理解を頂きたく思います」
ビクビクしながらも決然と言い返す兵士さん。
脅しが通用しなかったよ。
立派な人だ。
「だってさ、どうする?」
ヴォルさんが私に尋ねる。
こうハッキリと拒否されては強引に通るのは難しい。
そんなことしたら、輝士団に乱暴を働いた犯罪者になってしまう。
「うーん……」
別に中に入らなくても、ジュストくんにさえ会えればいいわけで。
ここは危ないことをしない方がいいよね。
「それじゃあせめて、ジュストくんに私が来たってことを伝えてもらえますか?」
「そもそもジュスティッツァ氏はここにはいない。こちらはシュタール帝国側の宿舎だ。ファーゼブルの輝士である彼が勤めているのは第一宿舎の方だ」
あらら、そもそも場所違いだったのね。
「ご迷惑をおかけしました。次はそっちに行ってみます」
「だが、今は行っても会えないと思うぞ」
「え、どうして?」
そういえば、さっき非常事態がどうとか……
「っ!?」
背後で大きな音がした。
重い金属が地面に落ちる音だ。
何事かと振り向くと、そこには顔半分を覆う大きな仮面を被った人が立っていた。
「お、お前は……!」
「わっ、英雄王さま!?」
英雄王アルジェンティオ様だ!
五英雄のひとりで、私も以前にお会いしたことがある。
「ご、ご機嫌うるわしゅうございます。その節はどうも、お久しぶりにて――」
「プリマヴェーラっ!」
「わっ!?」
いきなり現れたえらい人に驚いて挨拶をしようとすると、なぜか英雄王さまは両手を拡げて私の方に駆け寄ってきた。
「ていっ!」
「ほぐっ!?」
私を庇うように前に出たヴォルさん。
彼女は英雄王さまのお腹に強烈なボディーブローを叩き込む。
「うごおおおお……」
「ちっ、色ぼけオヤジが。油断も隙もありゃしないわ」
「えっと、あの」
英雄王さまの行動にも驚いたけど、いきなり殴り倒したヴォルさんにもびっくりだよ。
しかもそのまま背中を膝で踏みつけて腕を後ろに回して拘束する。
超えらい人にこんなことして大丈夫なの!?
さっきの立派な兵士さんが見てるけど……
あ、なんかわざとらしく全然違う方向を向いてるよ。
「なあ、オイ。見間違えしてトチ狂う前に、まずはルーちゃんに謝罪するのが先じゃないの?」
「止めろ、痛い……」
「ま、待って、ヴォルさん! そのひと伝説の英雄さまだから! 何があったか知らないけど、いくらなんでもそれはさすがにマズいと思うの!」
「はっ、伝説の英雄?」
「痛い痛い! マジで止めろ!」
ぐいーっと体重を込めて膝を背中に押しつける。
なんか冗談どころかかなりの殺意が見えるんですけど!?
あ、そういえばベラお姉ちゃんも英雄王さまに対して文句を言ってた気がする。
もしかして英雄王さま、みんなからあまり好かれてないのかな?
「ねえルーちゃん。ちょっと衝撃的な情報があるんだけど、驚かないで聞いてちょうだいね。なんならアタシがこの場でこいつを殺してあげるから」
「すごく物騒なこと言ってる!」
「ほら、顔を見せろやボケ」
「あっやめろ!」
ヴォルさんは英雄王さまの仮面をひっ掴むと、それを思いっきり遠くへ放り投げた。
英雄王さまは抵抗しようとするけどまるで歯が立たない。
仮面の下に隠された素顔が露わになる。
「くっ、なぜこんな事に……」
「どうルーちゃん。言いたいことがあるならハッキリ言ってやりなさい」
「え? どうって、別に」
英雄王さまの素顔は割と普通の中年男性だった。
まあ魔動乱の英雄ってことは、今じゃ結構な年齢だしね。
あら? でも、仮面の下に大きな傷なんてないね。
たしか傷を隠すために仮面を被ってるんじゃなかったっけ?
というか英雄王さまの素顔って、どこかで見たことあるような気がする。
あ、そうだ。
うちのお父さんにそっくりなんだ。
「やめろ、俺を見るな、ルーチェ……」
「英雄王アルジェンティオ。魔動乱後は名前を変えてフィリア市に隠れ住んでいたらしいわね。その時の偽名が――アルディメント」
それってうちのお父さんの名前じゃん。
「母さんから全部聞いてるわ。英雄王アルジェンティオ。アンタはプリマヴェーラから託された子を自分の娘と偽って育て、魔王に対する戦力として利用する気だった……間違いないわね?」
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