593 これからの方針
「……と、いう訳なんです」
私は今日のできごとをアヴィラさんたちに説明した。
食料採集の途中で襲われたこと。
ビシャスワルト人に占領された町を開放してきたこと。
助けた町の女の人たちに後で迎えに行くと約束をしちゃったこと。
あと一応、このツノが取れなくなっちゃった理由も。・
「にわかには信じられないが……」
アヴィラさんは半信半疑っぽい。
まあ、それは仕方ないことだと思うよ。
私だって思い返して自分のやったことにビックリだし。
「町のエヴィルを全滅させたの!?」
「聖女のおねえちゃん、すごい!」
それに対して、子どもたちは素直に信じてくれる。
最初は怖がっていたツノも、慣れたら別に大丈夫って言ってくれたし。
「疑うなら明日にでも自分の目で確かめてくればいいさ」
スーちゃんがそう言うと、アヴィラさんはしばらく腕を組んで黙っていたけれど、
「いや、信じよう。君たちが嘘を言う理由は何もない。我々の脅威を取り除いてくれたことに心から感謝したい。ありがとう」
「ありがとうございました!」
彼はテーブルに手をついて深く頭を下げた。
それに二人の子どもたちも続く。
や、やだな。
そんな風に改まって感謝されると恥ずかしい。
別に私なんてちょっとエヴィルを全滅させただけでたいしたことはしてないのに。
お礼はシスネちゃんを抱かせてくれればそれで。
「ぎゅー」
「聖女のおねえちゃん、くるしいよう……」
「で、そこの変態はこれからどうするつもりなんだ?」
だれが変態か!
私はシスネちゃんを膝に乗せたままスーちゃんの質問に答えた。
「もちろん、三人を安全なところまで護衛していくよ。町の人たちもね」
「
うーん、まあ確かに。
町一つでもあれだけの数のビシャスワルト人が占領している。
この国を本気で救うなら、何千何万っていうビシャスワルト人と戦わなくちゃいけない。
……ところで『ビシャスワルト人』って長ったらしくて言いにくいね。
今まで通りまとめてエヴィルって呼べばいっか。
どうせ敵なんだし。
「そういえばジュストくんたちは無事なのかな」
「わからないが、この国にいる可能性は低いだろうな」
だよね。
もしかしたら、今ごろファーゼブル王国あたりにいるかもしれない。
ヴォルさんはシュタール帝国で戦ってるかな。
……生きてれば、だけど。
あー、ダメダメ。
暗い想像したら気が滅入っちゃう。
みんなと合流するにしても、あの町の惨状を見ちゃった以上、この国を放っておくのも気が引ける。
マール海洋王国にはそれほど強い人がいないって前に誰かが言ってた。
アヴィラさんもレジスタンスの戦いはかなり過酷になるって言ってたし。
「よし、私もアヴィラさんと一緒にレジスタンスに参加しよう!」
「それが良いな。やはり組織のバックアップは欲しい」
「というわけで、どうですか?」
勝手に決めた後で申し訳ないけど、一応アヴィラさんに尋ねてみる。
「こちらとしては大助かりだが……良いのか?」
「はい。私もひとりで戦っていくのはキツいので」
輝力欠乏症にかかっちゃう危険を考えると、やっぱり仲間は欲しい。
エヴィルと戦うにしても、今は何と戦えばいいのかもよくわからないしね。
私が無限に戦えるなら支配された町を片っ端から開放していっても良いんだけど。
「そうか、つくづく恩に着る」
「いえいえ」
子どもたちの笑顔を守るためならいくらでもがんばれるよ。
※
夜は当然シスネちゃんを抱いて寝ようとしたら、スーちゃんに止められてしまった。
おかげでひとりだけの部屋で寂しく寝ることになったよ。
「別に変なことはしないのに!」
「そうじゃない。いや、それもかなり心配だけど、お前に話しておきたいことがあるんだ」
なによ。
「っていうか、『お前』って呼び方禁止。名前で呼んで。あるいはルーちゃんでも可」
「別に何でも良いだろ……」
「名前で呼んでくれないと何も答えない。心も読まれないようにする」
無になるよ、無。
む。
「わかったわかった。それじゃ、ルーチェ」
「うん!」
「お前、あの戦い方をどうやって思いついた?」
またすぐ『お前』になる!
そういうの相手の印象悪くなるよ。
「早く質問に答えろよ」
「わかったよ……ところで、戦い方ってなんのこと?」
「高精度の流読みを利用した戦術。
言われてみればそうだね。
前の私はとにかく輝術を撃つだけだったし。
どうやって思いついたかって言われると、うーん……
「なんとなく?」
「そうか、わかった」
え、それで納得するの?
「お前、やっぱり
「データ? 見てる? どういうこと?」
「誰からも教わってないのに、あんな戦い方ができるわけがないんだ」
だから、どういう意味だってば。
「これから本気でビシャスワルト人……エヴィルって呼ぶことにしたんだっけか。この国を支配するエヴィルと戦い続けるなら、より高度な戦術が必要となる場面もあるだろう」
「なにも考えずに戦ったらすぐ輝力が切れちゃうしね」
「そこでだ」
スーちゃんの目がぎょろりと動いた。
かと思うと、視界が急にぐにゃりと歪む。
「なにこれ、なにこれ!」
「目を瞑ってみろ」
言われた通りに目を閉じる。
まぶたを閉じたので、真っ暗に……ならなかった。
見慣れぬ情景が目の前に広がっていた。
「ひゃあっ!」
思わず目を開けてしまう。
部屋の景色と別の景色がダブって見える。
「今、お前の頭の中に
「映像……何?」
「過去の記録だ。すーっと大昔、ミドワルトに今の文明が栄えるより前のな」
「それって、神話の時代ってこと!?」
「お前たちの言い方に合わせる、そうだ」
「便利辞書機能だけじゃなくて、そんなのまで持ってるんだ……!」
「
なにそれ、すごい面白そう!
見たい見たい!
「慌てなくても時間はある。何から見るか……」
「神話戦記!」
「は?」
「神話の時代ってさ、神さまたちがすっごく大きな人型の
「なんでそんなピンポイントな……ああ、お前が気に入ってる小説か」
「あるのね!?」
「あるよ。物語に描かれてるのとはちょっと違うけどな」
うわー!
うっわー!
あれ、本当なんだ!
創作とかじゃなくて、現実にあったことなんだ!
神々の超古代文明!
「あと、断片的だけどハル……聖少女プリマヴェーラの記録なんかもあるぞ」
「それも見てみたい! わー! 他には、ほかには何があるの?」
「めちゃくちゃ長いけど、ミドワルト創世記とか」
「主神さまが泥の文明から人間を救い出してってやつ?」
「なんだそれ」
「教会の人が言ってたよ。今の人間の祖先は泥から生まれて、神話の時代は汚れた地上で惨めな暮らしをしてたって。そんな可哀想な人類を主神さまが救って今の文明の基礎を与えてくれたんだって」
「そりゃ完全に嘘っぱちだ。そもそも人類が崇めてる主神ってのはそんな善良な存在じゃないぞ」
神話のことはよくわからないけど、すごいねこの子。
研究機関とかに連れてったら歴史学が根本から覆りそう。
「言っておくけど、お前以外の人間には見せられないからな。これから見ることを他人に吹聴するのは止めておけ。ミドワルトの常識と違いすぎて、頭のおかしいやつと思われるだけだ。下手したら教会がガチで殺しに来るかもしれないぞ」
「うっ……気をつける」
まあ、それは良いとして。
「早く見たい! 神話戦記!」
「娯楽目的じゃないからな。楽しむだけじゃなくて、ちゃんと学べよ」
「まなぶから、はやく!」
「んじゃ目を閉じて。ベッドに横になってリラックスしてろ」
「はーい」
言われるまま、ベッドに寝転んで目を閉じる。
まぶたの裏に移る景色が鮮明になる。
私は遙か過去の世界を見た。
それは
どこまでも続く都市の景色に、大空を飛ぶ、幾つもの――
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