521 暗殺ミッション
それからしばらく何事もなかった。
罠も、エヴィルに襲われることもなく、洞窟内をひたすら歩き続ける。
分岐は何度かあったけど、先生は道順を知っているみたいに迷わず先に進む。
かと思えば、行き止まりに当たることもあって、実は適当に歩き回っているってわかる。
「……ふん」
ヴォルさんがふてくされてる。
おかげで五人の間に会話はまったくない。
そんな気まずい静寂を破ったのはカーディだった。
「ところでさ、ちゃんと考えてあるんだろうね?」
彼女は先頭を歩いているグレイロード先生に話しかけた。
「何をですか?」
「王の居城まで辿り着いたとして、そこからどうやって王の所に行く気なんだ」
先生は黙って歩き続ける。
「まさか、この洞窟が王の私室にまで繋がってるとは言わないよね? 城に入ったとしても中には無数の兵がいるはずだ。それも各部族から選ばれた精鋭がね。万を越えるケイオス予備隊、そのすべてを合わせたよりもさらに怖ろしい五将と呼ばれる怪物ども……そのすべてを蹴散らしていくつもりか? それに無事に王のところへ無事辿り着けたとしても、もっと根本的な問題がある」
カーディの足が急に止まった。
すぐ後ろを歩いていた私はその背中にぶつかってしまう。
「あ、ごめ」
「王に勝てるのか?」
カーディは謝る私のことを見向きもしない。
先生も立ち止まってカーディの方を向く。
なんかこの二人って仲良いよね。
「私たちの目的は王を殺すことです。必ずしも正々堂々とした戦闘を行う必要はない」
「……暗殺か?」
物騒な単語がカーディの口から飛び出した。
「今まで語らなかったのは、万が一にも誰かが敵に捕らわれ、作戦が漏洩するのを防ぎたかったからです。ですが、ここまで来ればもういいでしょう……ジュスト」
「はい」
「説明してやれ」
最後尾を歩いていたジュストくんが前に来て先生の隣に並ぶ。
カーディも知らない作戦をジュストくんだけは教えてもらってるの?
先生が輝言を唱える。
何かしらの術の効果を範囲内に限定するための術。
それと、周囲の音や気温を遮断する効果もある。
周りに聞かれたくない話をする時は有効だ。
「この聖剣メテオラには、通常の輝攻戦士の千倍の輝力が宿っています」
「せっ……」
英雄王さまから頂いた剣を両手に持って話すジュストくん。
彼のその言葉に一番驚いたのはヴォルさんだった。
彼女はご先祖さまから代々伝わる禁術によって、生まれたときから輝攻戦士の五倍の輝力を持っている。
そのとんでもないパワーのおかげでミドワルト最強の輝攻戦士って呼ばれているくらいだ。
そんなヴォルさんのさらに二十倍。
五倍でもものすごいのに、千倍だなんて言われても想像がつかないよ。
「もちろん、すべての力を使えるわけじゃありません。
なるほど、あの剣があれば私やフレスの力を借りなくても、
それだけでも十分にすごいことだと思うけど、どうやらそれだけじゃないみたい。
「ですがいくつかの実験の結果、瞬間的になら二十倍程度の力を引き出すことが可能ということがわかりました」
「実際に見させてもらったが、そいつは俺の
それってドラゴンを跡形もなく消し飛ばした大輝術だよね。
その剣があれば、あのレベルの必殺技を使えるんだ。
「だが、王を一撃で仕留めるにはそれでもまだ足りない」
先生は険しい顔でジュストくんの持つ剣を睨む。
「十五年前……同じようにアルジェンティオがその技を使って王を撃退した。二度と剣を持てない程の後遺症と引き替えに、五十倍の力を引き出してな。それでも王を完全に倒すには至らなかった」
後遺症!?
「ジュストくんにそんな危険なことをさせる気なんですか!?」
「落ち着け、興奮するな」
「そんなの私は絶対に反対ですからね!」
「ルー……」
もし私が文句を言うとわかってて黙ってたなら先生だって許せない。
世界平和のためだからって、彼を犠牲にするような方法なんて、絶対に認めないんだから!
「ジュスト一人に任せるわけじゃない。それに、アルジェンティオと同じ事をしても王を倒せないのは証明済みだと言っただろう。だからこそ……お前の力が要るんだ」
えっ。
「長い間ジュストと
えっ、えっ。
そ、それってつまり……
「私とジュストくんが力を合わせて、エヴィルの王をやっつけるってこと?」
先生はこくりと頷いた。
うわ、うわっ。
なんかそれって、それってすごい。
二人して歴史の残るような英雄になれちゃったりとかしてっ。
あっ、でも私はセアンス国の輝術学校のエリートってことになってるんだっけ。
いやいや別に歴史の名前を残したいとかそんなんじゃなくてね?
わ、私はジュストくんのお手伝いができればそれで……
「王への対策はわかった。で、肝心の潜入方法はどうするんだ?」
「それはこれから向かう場所で説明します」
カーディと先生が先に進む。
ヴォルさんも黙ってその後に続いた。
三人を追う前に、ジュストくんの顔をちらりと覗く。
彼は少し申し訳なさそうな表情で微笑んでいた。
「ごめんね、ずっと黙ってて」
「あ、ううん! ぜんぜん!」
悪いのはジュストくんじゃなくて先生だし!
「そういうことで、協力してもらえるかな?」
「は、はい!」
彼が私を頼りにしてくれている。
それがとっても嬉しい。
「ほら、行こう。置いて行かれちゃうよ」
「うん!」
私たちは並んで先生たちの後を追いかけた。
※
しばらく進むと、またドアがあった。
さっきの無骨な両開きの扉とはちょっと違う。
洞窟内に似つかわしくない、チェック柄のかわいらしい扉だ。
それは、気付かなければ通り過ぎてしまうほど小さかった。
長身の先生やヴォルさんだと、少し屈まなきゃ通れそうにないくらい。
さっきも思ったけど、こういうドアって洞窟の壁をくりぬいて嵌めてるのかな。
先生がドアノブを握ってガチャガチャと回す。
けどカギが掛かっているみたいで、まったく開く気配はない。
どうにも開かないので諦めるかと思ったら、唐突に輝言を唱え始めた。
「
「ええっ!?」
眩いほどの光が先生の掌からあふれる。
私は思わず両手で目を覆った。
解除の術でも使うのかと思ったら、まさかの大技だった!
っていうか、部屋の中は大丈夫なの!?
「……ふむ」
「あ、あれ?」
心配することなかった。
ドアには焦げ痕ひとつ、ついてない。
至近距離から
これは……ただのドアじゃないよ。
「ジュスト」
「はい」
「ちょうどいい機会だ。これを破壊してみろ」
なんか無茶ぶりされてる!
「わかりました」
ジュストくんも素直に受けちゃうし。
大丈夫かな……ううん、上手く行くように見守っててあげるからね!
剣を抜いたジュストくんは鞘を近くの壁に立てかけ、両手で柄を構えて深く息を吸った。
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