第8章 異界突入 編 - battle of another world -

492 ▽マーブル模様の空の下

 その部屋には明かりがなかった。

 小さく開いた窓から差し込む赤紫色の光。

 それだけが部屋の中の様子をおぼろげに映し出す。


 巨大な玉座があった。

 腰掛ける者の足下に光が射す。


 その人物は全身に鋼鉄の鎧を着込んでいるようだった。

 鎧には一切の切れ目がなく、全体が異様に浅黒い。


 体躯は巨大であった。

 暗闇に紛れ全容を伺い知ることはできない。

 しかし間違いなく、並の大人が見上げるほどに大きい。


 一言で言えば異様。

 あるいは、異形。


「……いよいよ、か」


 玉座の人物が呟く。

 その声はまるで闇の中から生まれたかのよう。

 およそ生物の発するものとは思えない、無機質な響きであった。


 玉座から立ち上がる。

 歩くたびガチャガチャと音が鳴る。

 金属同士が触れあっているような不快な音だ。


 窓枠に立ち、外の景色を眺める。


「間もなく機は熟す……しかし、ヒトは最後の抵抗を試みるだろう」


 窓の外に見えるのは、どこまでも続く夜の海のような深淵の森。

 そして、決して混ざり合わさることのない、赤と黒と紫のマーブル模様の空。


 巨大なシルエットは人ではなかった。

 鎧に見えたのは、異様な形に盛り上がった筋肉。

 頭には巨大な角が生え、眼窩には黒と赤の光が宿っている。


「終わらせよう。今度こそ、我が手ですべてを……」

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