425 ▽悪ガキ集団の協力
ジルは走って市役所に向かう途中、小型輝動二輪の集団に道を塞がれた。
「なあ、あんたジルって人か!?」
「ちっ……」
この大変なときに厄介ごとか……
ジルは戦闘を覚悟して拳を握り締める。
しかし、ジルはその集団の中に、見知った顔を見つけた。
南フィリア学園の制服を着たナータである。
「よっ」
「よ、じゃないよ。なにやってんだよお前」
「市役所に乗り込むんでしょ。あたしも付き合ってあげるわ」
そう言ってナータは自分が操縦する輝動二輪の後部座席をぱんぱんと叩く。
「乗りなさい。モタモタ走ってたら、王都の輝士団がやって来ちゃうわよ」
どうやらナータも状況は理解しているらしい。
ジルがターニャを助けに行くつもりだという事もわかっている。
彼女の言う通り、時間の猶予はあまりない。
走ってもここから市役所までは二十分以上かかる。
無茶とは言わないが、できる限り体力は温存しておきたい。
ジルは大人しくナータの後ろに座り、周囲の男たちを見回した。
「この人たちは?」
「あっしらはインヴェの姉御の舎弟でさぁ!」
「姉御ときたか」
いつの間にか任侠団体を設立していたとは……
「違うわ! こいつらは単なる街の悪ガキ共。何故か懐かれちゃってるんで、仕方なく手伝わせてやってるだけよ」
何が違うのかよくわからない。
隔絶街の件といい、こいつは絶対に普通の女子学生じゃない。
「……あたしさ、このところ自分のことばっかだったじゃん?」
ナータは声を低くして言う。
「あんたらのことちっとも気にかけてなくて、気付かない間に大変なことになってたから、ちょっとだけ責任感じてんのよ」
「なんでだよ。別にお前が責任を感じるようなことじゃないだろ」
「はあ? 友達でしょうが。大変なことになってるなら手伝うのは当たり前――」
ナータは振り返って不愉快そうな顔でそう言いかけたが、急に恥ずかしくなったのか、頬を赤くして前を向いた。
「と、とにかく、ターニャが馬鹿なことに手を染めてるってんなら、ぶん殴ってでも更正させてやろうって言ってんの。あんたもどうせそのつもりなんでしょ?」
素直じゃないナータの態度にジルはクスリと笑った。
照れ隠しのつもりなのか彼女は派手にアクセルを吹かした。
そのまま機体が加速し、十五名の悪ガキ軍団たちもその後に続く。
「なあ、あんたらは本当に良いのか? 衛兵隊を全滅させるようなやつらが相手だぞ」
手伝ってくれるのは嬉しいが、これはケンカのレベルを超えている。
ジルは後ろを振り返って着いてくる男たちに問いかけた。
「そいつは心配無用でさ、ジルの姐さん」
「単なる手伝いのつもりだけじゃねえ。俺らもアイツらが許せねえんですよ」
「誰が姐さんだ……って、何が許せないんだ?」
「俺らみたいなはみ出し者でも、ルールや仁義ってもんがありまさぁ。それをあのガキ共は易々と踏みにじってくれやがった。本当ならヤキの一つも入れてやりてえところっすけど……」
どうやら不良少年たちにも彼らなりのルールがあるらしい。
「それだけじゃねえ!」
別の男が叫んだ。
派手なモヒカンヘアの巨漢である。
街中で出会ったら、ケンカの強さ云々を抜きにしても、つい避けて通りたくなるタイプだ。
「あいつらはよ、俺が苦労して働いて買った輝動二輪を、パクりやがったんだ!」
「……? 輝動二輪ならいま乗ってるじゃんか」
「こんなチャチな小型じゃねえ! 大型輝動二輪の
盗まれた。
西の森に放置。
どこかで聞いたことのある話だった。
というか、その犯人は市役所を占拠した少年グループではなく……
「本当に許せないわね。そんなひどいコトするのは、絶対にあいつらしかいないわ」
「インヴェの姉御の言うとおりだ! うおーっ、クソガキ共は皆殺しだーっ!」
ナータの横顔は冷や汗をかいているように見えた。
ハンドルを片手で握りつつ、ジルの腰の辺りをぽんぽんと叩く。
わかってるよ、余計なこと言って、せっかくの協力者を敵に回したりしないって。
「モフォークくんの愛機の仇は俺らの仇だ! 仁義に悖るクソガキ共をぶっ殺せーっ!」
「ぶっ殺せーっ!」
高々と鬨の声を上げる不良たち。
輝動二輪窃盗の真犯人が、自分たちの姉御だとは思いも寄るまい。
※
「ウォラッ! 出てこいやガキ共ォ!」
「ビビってんじゃねーよ引きこもり共がァ!」
盗まれた輝動二輪に恨み心頭のモヒカン男、モフォークくん。
彼を中心とした不良集団は、市役所の正面広場で罵声を上げ続けた。
バリケードで守られた入り口には決して近づかず、二階や三階の迄めがけて投石を繰り返す。
怒った防衛隊の少年たちが出てくると、途端に小型輝動二輪を反転させて散り散りに逃げていく。
そして少年たちが中に引っ込むと、どこからともなくまた集まって来て、罵声と投石の嵐を浴びせかけるのだ。
衛兵隊のように力尽くで突破することはしない。
少年たちから見れば、ひたすらにうっとうしいだろう。
「うるせーんだよ、カス共!」
「うるせえのはテメーらだボケがァ!」
「悔しかったら出てきてかかってこいやぁ! ソイヤァ! フライングメイヤァ!」
そのうち上階の窓からは少年たちが顔を出して幼稚な怒声の応酬が始まった。
まるっきり子供のケンカだな……とジルは呆れた。
こんなやつらが未曾有の大事件を引き起こしたのかと思うと頭が痛くなってくる。
ジルはナータと一緒に市役所裏手の非常出口付近にいた。
当然ながら、こちらにも見張り番はいる。
ただし数はわずかに二人。
ドアは閉まっているが、バリケードのようなものはない。
「いくわよ」
ナータが小型輝動二輪のアクセルをひねる。
角を曲がって直線に入ると、のんきにあくびをしていた見張りの一人に容赦なく突っ込んだ。
「なっ……ぐおっ!?」
そして躊躇なく撥ね飛ばす。
まあ、死ぬことはないだろう。
「ジルっ」
「わかってる!」
ナータが声を上げるより早く、ジルはもう一人の見張りに飛びかかった。
古代武器のグローブを嵌めた右拳で思いっきり殴りつける。
「ぐぼぉっ!」
攻撃が通じた。
素手で殴るよりもずっと手応えがある。
普段通りの突きを打っているのに、見えない力で加速されているような感じだ。
殴られた見張りの男は派手に吹き飛び、壁に叩きつけられて気を失った。
「これが、古代神器……」
ジルは自分の右手を包むグローブに目を向けた。
これなら確かに、輝攻戦士にも通じるかも知れない。
しかし、武器はあくまで単なる道具だ。
攻撃を当てるために必要なのは、自分自身の技と力。
決して慢心すまい。
そう心に誓う。
「えいっ」
ナータも輝動二輪から降りる。
彼女は轢かれてピクピクしていたやつを例の光の棒で叩いて気絶させた。
見張りを始末したジルたちは、非常口から市庁舎の中に入ろうとした。
だが、カギがかかっていてドアは開かない。
「なにこいつら。見張りのくせに中に入れてもらえない可哀想なやつらなの?」
「あるいは、どっかにカギを隠し持ってるか……」
「おっし、脱がすか」
ナータは気絶した見張りたちの体を調べようとする。
「いや、それより手っ取り早く行こう」
ジルは落ちていた石を適当に拾って、二階の窓に投げつけた。
パリン、とガラスが割れる。
助走をつけ、ドアノブを足がかりに。
ジルは一気に割れた二階の窓へと飛び込んだ。
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