第6章 最強の輝攻戦士 編 - full moon of the crimson -
304 ◆病床の母
もう、誰も失いたくない。
そう願いながら、アタシはベッドに横たわる母の手を握る。
その手はかつての面影すら感じられないほど、ひどくやせ細っていた。
ふと、背後に人の気配を感じて振り返る。
「殺しても死にそうにない人だったのに、最期は意外とあっけないものだね」
「オマエ、どうしてこんな所に……」
アタシはそいつを睨みつけた。
見た目だけなら少年と言っても良い銀髪の男。
コイツが気配を消して相手に近づくのが得意なのは知っている。
だが、今は悪趣味に突き合う気分じゃない。
「消えろ」
動揺していたとはいえ、背後に立たれるまで気付かなかったことも苛立ちに拍車をかける。
アタシは殺気を込めた目でそいつを睨み付け、この場から立ち去るよう言った。
「もってあと二週間かな」
そいつはアタシの言葉を無視し、無遠慮に母の額に手を触れる。
そのふざけた態度と言葉がさらにアタシの怒りに火を注ぐ。
ぶん殴ってやろうか。
あのメガネの優男みたいに。
「けど、適切な治療を受ければ、助かるかもしれない」
「なんですって?」
アタシは握り締めた拳を下ろした。
「ここよりも良い治療が受けられる場所を知ってるよ。ミドワルトで最も輝術医療が発達してる街でね。もしかしたら彼女の体を蝕んでいる外法の除去すら可能かもしれない」
子どものような外見に似合わず、コイツは豊富な知識と経験を持って三番星にまで上り詰めた男だ。
ハッキリと言い切るからにはまるっきりのデタラメではないだろう。
「ちょうど向こうからもね、とある事情で人手を借りたいって要望が出てるんだ。忙しいから無視するつもりだったんだけど、キミが行ってくれるなら先方も不満はないだろうね」
なるほど。
母さんの治療を受けさせる代わりに、アタシにその街で働いてこいってことね。
「でも、キミは忙しいよね。新代エインシャント神国で例の作戦に参加する予定だし、一番星に外国の地方都市で雑用を任せるなんて、皇帝陛下も許可しないかな?」
そいつは挑発的な目でアタシの顔を見上げた。
ふん、何を企んでいるんだか。
どうせ本音ではアタシの足を引っ張りたいだけだろ。
わざと目立たない場所に送り込んで、活躍の機会を奪おうってつもりかな。
いいわ、乗せられてあげる。
もう腹のうちは決まっているんだ。
星輝士であるアタシには自由に行動する権限がある。
たとえ皇帝の命令だろうが、アタシは人類の平和よりも母さんの命を優先する。
「その街の名前は?」
三番星エルデはニィ、と嫌らしい笑みを浮かべながら言った
「セアンス国、
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