271 四番星と金勢部隊
「意外なところで知りあいと出会ったものだ。俺はてっきり連続襲撃事件の犯人かと思ったぞ」
はじめは軽い口調だったヴェーヌさん。
だけど「連続襲撃事件」という言葉を口にすると、途端に険しい顔つきになった。
「やはり、あの村は……」
ビッツさんが質問をしようとすると、ヴェーヌさんは彼の言葉を遮って言った。
「詳しい話はじっくり腰を据えてからにしよう。部下たちをいつまでも臨戦状態で待機させておくわけにはいかないからな」
ヴェーヌさんが手を上げる。
それを合図として、近くの草むらの中から男の人たちが次々と顔を出した。
「臨戦態勢を解除」
「解除了解。待機状態で次の指示を待ちます」
その数は全部で六人。
いずれも武器を手にした精悍な顔つきの輝士たちだ。
これだけ近くに潜んでいたのに、全く気づかなかった……
「俺直属の
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
ヴェーヌさんは部隊の人たちを整列させ、巨漢に似合わない人の良さそうな笑顔で言った。
※
流石に十一人もいると話をするのもかなりの広さが必要だ。
なので私たちは近くの広場に移動し、火を焚いてそれを囲むことにした。
私たち四人は半円状になって座る。
その反対側にヴェーヌさんが丸太を置いてどっしりと腰かけた。
金勢部隊の人たちはヴェーヌさんの背後に立ったまま油断なく整列している。
「一応、作戦中なんでな。別にあんたらを疑ってるわけじゃないから気を悪くしないでくれ」
彼らからは一瞬たりとも気を抜かないぞ、って感じがひしひしと伝わってくる。
四番星さま直属の特殊部隊だけあって、みんな一流の輝士なんだな。
「ヴェーヌ様は、なぜここに?」
「俺たちは今このグラース地方西部を拠点に活動してるんだよ」
残存エヴィル活性化以降、高位の星輝士(
おかげで帝都の防衛が疎かになって吸血鬼事件の時は大変なことになったけど……
「まあ、拠点を移して来たのは最近のことだけどな。南部に潜んでたケイオスを何匹かぶっ倒して、一週間ほど前にこっちに移ってきた」
ケイオスが作った小規模な巣窟を潰せば、その周辺のエヴィルの行動が鈍化する。
私たちがやってたみたいな事を、高位星輝士の人たちは正式な作戦行動として行っているみたい。
「んで、こっちに来て最初のケイオスを倒して、拠点としていた村に戻ってきた時のことだ……同様の事件を最初に目をしたのは」
「同様の事件って……他にもこんな風に村が皆殺しにされた事件があったんですか!?」
私は思わず大声で口を挟んだ。
ヴェーヌさんは神妙な顔で頷く。
「この辺りは狭い範囲に小さな村が密集していてな。俺たちはその中心の一番大きな村を拠点としていたんだが、ケイオス退治から戻って来ると、村中の人間が惨殺されていた。女子供も関係なく、生存者は一人もいなかった」
「そんな……」
想像するだけで目眩がする。
何の罪もない子どもたちまで、あんな風に殺されたなんて……
「当然、俺たちはエヴィルの仕業だと思った。だが調査を続けているうちに、どうにも説明がつかないことが多すぎると気づいてな……いろいろ考えた末、これは人間の手による殺戮だと結論づけた」
フレスさんたちの言ったとおりだ。
本当に、あれは人間がやったことなんだ。
「これまでに、どれくらいの村が襲撃されているんですか?」
ジュストくんが質問する。
ヴェーヌさんは低い声で答えた。
「今回の件を含めて五つ。被害者はおよそ三〇〇人弱で、生存者は……一人も見つかっていない」
目の前が真っ暗になった気がした。
そんなに大勢の人が、あんな残酷に殺されたなんて。
「どうして、そんな酷いことができるの………?」
私は思わず口に出して呟いていた。
「それが全くわからない。強盗でもないし、特定の人物を狙ったわけでもなさそうだ。なんらかの儀式か……あるいは単なる快楽殺人かもしれん」
カイラクサツジン。
楽しいから、人を殺すってこと?
やばい。
また吐き気がしてきた。
「ごめんなさい、ちょっと……」
私は気分を落ち着けるため、深呼吸をしに輪から離れた。
「犯人の目星はついているんですか?」
「いいや。だが、たった一晩で三十人から六十人の人間が殺されていることからも、少人数による襲撃とは考えにくい」
「被害者はいずれも鋭利な刃物で斬り殺されていた。それだけの人を斬って、はたして武器が持つものだろうか?」
「おそらくだが、犯人集団は多くの武器を持ち歩いていると考えられる」
「かなりの大所帯ってことですか」
ヴェーヌさんを中心に、一同は淡々と話を続けていた。
「大丈夫?」
「ん……」
輪に戻った私をジュストくんが気遣ってくれる。
強がってみせる余裕もない。
「最初の事件が起きた時点で、次の被害を防ぐための対処は行わなかったのか?」
ビッツさんが冷たい声で言った。
かなり苛立っているように見える。
「もちろん努力はしたが、こちらも追いつかないんだよ。ケイオス退治から戻ったばかりで、消耗を癒す時間もなくかけずり回ったからな」
「帰ったばかりとは、どういうことだ?」
「俺達がケイオス退治から戻って来たのは五日前のことだ」
「なんですって? それじゃ……」
「その日の晩から惨殺事件は毎晩起こっているんだよ」
「な……」
さすがにビッツさんも声を失っていた。
私はまた気分が悪くなった。
こんな事件が、毎晩。
「密集していると言っても村同士の繋がりは基本的に薄い。犯人集団は村人を決して外に逃さず、襲撃情報が隣村に届くよりも速く動いている。だから近隣にはまだ事件を知らない村も多い」
「ゆっくり調査をしている暇もないってことですか……」
「もちろん、いくつかの村には先回りで警告を出したが、隣の村が皆殺しにされたなんて言ってもそう簡単には信じてもらえないんだよ。敵を待ち受けようにも、次に教われる場所がわからないんじゃ先回りもできないしな」
ヴェーヌさんは立ち上がり、私たちの顔を見回した。
「だが、それもここまでだ。犯人どもは西から東へ移動している。次に狙われるのは、北にあるエルブの村か、南東にあるリュムの村のどちらかしかない。急いで向かえば今度こそ事件を未然に防げる」
ヴェーヌさんは親指を立て、背中越しに部隊の人たちに向ける。
「コイツラは基本的には俺のサポート役だ。一晩で村を壊滅させるだけの集団が相手じゃ、戦力を分散させるのはちと厳しい。そこでフェイントライツの君たちに協力を頼みたい」
ヴェーヌさんは私たちに頭を下げた。
金勢部隊の人たちもそれに習って腰を曲げる。
偉い星輝士さんの突然の行動に少し驚いたけれど、そんな風に頼み込まれなくても、私たちの答えは決まっていた。
「もちろんです。こんなとんでもない事件を、これ以上繰り返させるわけにはいきません」
ジュストくんは決然と答えた。
もちろん、私たちも気持ちは同じだった。
ショックは大きかったけれど、いつまでも意気消沈してはいられない。
こうしている間にも、次の村が襲われる可能性があるんだから。
「ありがとう。恩にきる」
ヴェーヌさんが顎をしゃくって合図する。
部隊の人たちは素早く散開し、茂みの中から大型の輝動二輪を引っ張り出してきた。
その数は四台。
ヴェーヌさんはその中の特に大きな機体に跨った。
他の人たちは残った三台にそれぞれ二人ずつ騎乗する。
「五英雄の再来と呼ばれてるあんたたちになら安心して任せられる。相手が単なる犯罪者集団なら心配はないと思うが、くれぐれも気をつけてくれよ」
「ヴェーヌ様も、どうかお気をつけて」
ジュストくんが敬礼する。
ヴェーヌさんはそれに答礼すると、急に表情を緩めて言った。
「ところで、あの昼行灯だったラインのやつも随分と活躍してるって噂じゃないか。申請すれば五、六番星くらいには格上げしてもらえるかもしれないぞと次に会った時に伝えておいてくれ」
「伝えておきます」
「こっちで犯人集団を退治した場合もちゃんと報告する。そっちが出くわした時は頼むぜ」
「任せてください」
ヴェーヌさんは満足そうな表情で深く頷いた。
彼はお供の人たちに合図をすると、そのままものすごい速さで北東方面へと機体を走らせる。
「僕たちも急ごう。モタモタしていたら次の被害が出てしまう」
私たちは焚き火を消して馬車に乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。